第25話 救世主アレクの悲願(五聖勇者アレクのやり直し・7)
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鬱蒼と生い茂る樹海に飲み込まれた廃墟。
今度は真っ先に邪神スクラシスへ会いに来た。
そして、木漏れ日も差さないくらいの薄暗い廃墟を歩き回って、ようやく彼女のほこらを見つける。
木の根で覆われた入り口を広げて中へ入った。
すると祭壇に銀髪の幼女が座っていた。
怒りと絶望に我を忘れたスクラシスしか知らなかったが、祭壇の上で膝を抱えて座る彼女は消えてしまいそうなぐらい儚げに見えた。
俺は自己紹介をして、そして夜の女神に祈った。
彼女は涙を流して喜んでくれて、協力してくれることになった。
◇ ◇ ◇
俺とスクラシスは、ほこらの祭壇に並んで座っていた。
「で? この先はどうする気なのじゃ?」
「それを相談したかったんです。どうにも手詰まりで。順番を変えてもやり方を変えても、滅亡してしまって……」
「ふむ。お主はこの世の因数を理解しておらぬようじゃな」
「いんすう?」
「そうじゃ。因数が大きく変われば、新しい事象が発生する。お主も体験したであろ?」
「確かに。聖騎士になれば邪竜が世界を滅ぼし、賢者になれば魔女が世界を滅ぼしました」
「あとは会話によっても大きく変わることがあるのう」
「会話で……」
「仲のよいものが喧嘩をするだけでも、大きく変わることがある。たとえば、影響力の大きな権力者の兄弟とかの」
「邪竜姉妹が危険でしたね。親しさの距離を間違えると、滅亡するんで」
「であろ? 滅亡に関して一番大きな因数を持っておるのが旧世界の魔神じゃな。まだこの世に存在しておったとは、わらわも驚きなのじゃ」
「じゃあ、その一番因数が大きい魔神から倒して――」
俺の言葉をスクラシスが小さな手で遮る。
「いやいや。段階を踏まねばならん。いきなり倒すとその影響が残りやすいのじゃ」
「なるほど。では、まずどこから? やっぱり魔王ですか?」
「まずは、わらわに会うことじゃな。そして協力を得る、と」
「ほお」
「そして毎日、お祈りとお供えを欠かさずやること」
「それ、スクラシスがして欲しいだけじゃないですか?」
俺の言葉に、ちっちゃな拳を振り上げて抗議する。
「なにを言うかっ! わらわを女神として扱えば扱っただけ、わらわの因数が強くなる。魔神をすべて消すことがたやすくなるのじゃ!」
「なるほど。同じ神ですもんね。次は魔王か魔女かな」
「記憶を覗いたところ、ケイと仲良くなっておかぬと、魔神に影響されやすくなるようじゃな」
「そうですか。てことは、魔王を倒さないと邪竜族の副族長が動かないかも」
「その辺は、うまいようにせよ」
「肝心の魔神は?」
スクラシスが顎に指を当てつつ、眉間に深いしわを作る。
「むぅ……魔神を消滅させる武器は、確かどこかにあったはずじゃ」
「ほんとですか! どこに!?」
「あれはわらわも苦手な武器……まあ、わらわが探しておこうぞ。だが、場所を記憶するのはアレクの役目じゃぞ? 何度もやり直すことになるであろうからの」
「わかってます。任せておいてください」
俺が強い口調で言い切ると、スクラシスがふふっと笑った。
「少しは元気が出たようじゃの?」
「女神さまのおかげです。少し希望がもてました」
「頑張るのじゃぞ」
「はいっ」
俺は笑顔で頷いた。
スクラシスもまた子羊を見守るかのような優しい笑顔で頷き返した。
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俺は樹海に沈んだスクラシスのほこらを訪れた。
会う前から祈っているため、だいたいのことは伝わっていた。
挨拶を交わしてから、すぐにスクラシスが俺の額へ小さな手を当てる。
それから幼い顔を大人のようにしかめた。
「むぅ、こうなったか……なかなか思うようにはいかんのう」
「あとちょっとな気がするんですけどね。やっぱり誰か一人ではなく、全員と付き合うようにするハーレムを目指すのが正解みたいですね」
「でないとケイかノクティが確実に暴走するからのう……しかしルベルもまた厄介じゃな」
「ここに来てルベルが世界を滅ぼすようになってしまいましたね」
俺は肩をすくめつつ吐息を漏らした。
スクラシスは幼い顔を大人のようにしかめる。
「ルベルが死ぬとその後、死の魔王となって復活するとはの」
「生きてても部下に利用されたり。または俺への復讐として、俺の大切なもの――つまり世界を先に滅ぼしたり。魔王の洗脳が強くて、どうしようもないですね」
「ルベルの幼い頃に会って、因縁という名の因数を含ませるというのはどうじゃ? 三歳ぐらいならまだ乳母に育てられてる最中であろ? そこで記憶に残る何かをするのじゃ。――例えば約束を交わしたり、思い出の首飾りを贈ったりなどじゃな」
「いい案なのでしょうけど、残念です。そこまでさかのぼれません。俺ができるのは、十歳までです。今からだと七年前ですね」
「厄介じゃのう……根は真面目なよい子なのじゃが、それが仇となって融通が利かぬ」
むむむっと細い腕で腕組みして唸るスクラシス。
俺は神様にすがるように尋ねた。
「お願いします、俺の女神さま。何か方法ないですか?」
「考えておるのじゃ……真面目に復讐の想いを抱かせつつ、世界滅亡に注目させれば、あるいは……」
その言葉に、ふと魔書島の知識を思い出した。
「そう言えば、スクラシス」
「なんじゃ?」
「昔は世界滅亡評議会という会議があったそうですけど」
「あー、懐かしいのう。わらわも何度か出たことがあるのじゃ――あ」
「それ、やってみませんか? 俺たちの仕業と悟られないように、ルベルに資料を渡して開催させるっていうのは」
「ふむ。復讐に燃えるルベルが、真面目に世界を滅ぼそうとして招集をかけるかもしれんの」
「でしょう? やってみましょう!」
「さて、うまくいけばいいがの」
「失敗したらまたやり直せばいいんです。何度でも、やります!」
俺は拳を握りしめて真剣に言った。
スクラシスがニヤッと笑う。
「よかろう、わらわも一緒に付き合ってやるのじゃ。アレクも頑張るのじゃぞ」
「はいっ!」
俺たちは頷き合うと、祭壇から立ち上がってほこらをあとにした。
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俺が樹海に埋もれた廃墟のほこらに行くと、祭壇の上で仁王立ちした幼女が叫んだ。
「八十万回やり直すとは、聞いておらんのじゃっ!」
「最高の未来を手に入れるためですよ。でも、スクラシスのおかげで、あと少しだから。もうちょっとだから」
「その言葉、五十万回目にも言っておったのじゃっ!」
「まあまあ、俺のかわいい女神さま。今回もよろしくお願いしますよ。移動するルートを少し遠回りにしたら、被害に遭う街が減るってわかったんで」
俺が祭壇の前で手を合わせて祈ると、彼女は赤く染めた頬を、ぷくっと膨らませた。
「今度だけじゃぞっ」
「ありがとう。わがまま聞いてくれる、そんなスクラシスが好きだよ」
手を伸ばして艶やかな銀髪を撫でると、スクラシスは顔を真っ赤にして俺を睨んだ。
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樹海の廃墟のほこらに行くと、スクラシスは祭壇の上で頬杖をついて横向きに寝ていた。
入ってきた俺を、ジトッとした半目で睨んでくる。
「バカじゃなかろうか。百万回、越えたのじゃ」
「あと少しなんだ。町の建物の配置を換えたら、移住した邪竜族とのいさかいを減らしてもっと多くの人を助けられるってわかったんだ。――お願い、女神スクラシスっ!」
「もう、その手には乗らんのじゃっ。アレク一人でやればよいっ」
そっぽを向いたスクラシスを、俺は後ろから優しく抱きしめた。
「お願い。俺にはスクラシスが必要なんだ。奥さんのようにずっと連れ添って欲しい」
「くぅ……っ。そんな言葉、ずるいのじゃっ」
スクラシスは口では反抗しつつ、向き直ると俺の胸に顔を埋めてきた。
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次元の狭間にある、闇の回廊。
俺とスクラシスは薄暗い廊下に並んで立っていた。
目の前には大きな両開きの扉がある。
「ようやくここまできた……」
「長かったのう……結局、アレクは何回やり直したのじゃ?」
「細かいのも合わせてざっと127万回ですね。でも、おかげで困ってる人、騙された人、ほぼ全員助ける未来へこれました」
「あとは仕上げを残すのみじゃの」
「ええ、これが最後です。気力の復活した魔王ルベルディアを攻略さえすれば、すべての滅亡を回避できるはず」
「よくやったのじゃ」
「スクラシスが助けてくれたおかげですよ」
「ふふん、存分に感謝するとよいのじゃ」
俺が扉に手をかけると、スクラシスが呼び止めた。
「なにか手伝うことはあるかの?」
「そうですねぇ……ヤバくなったら机か何かを叩きますんで、その時はフォローお願いします」
「わかったのじゃ」
「あとは、俺がいないときはルベルのいる光景を見せてもらえますかね? 大変かもだけど」
「それぐらい、わらわにとっては造作もないことなのじゃ」
「ありがとう、助かるよ。じゃあ、行きますよ。最後の試練に!」
俺は気合を入れて扉に手をかけた。ゆっくりと両開きに開いていく。
俺の望む、みんなが幸せになる光景が次第に広がっていった。
◇ ◇ ◇
――が、しかし。
アレクが扉を開いて通過した途端、アレクが扉前に戻ってもう一度扉を開いた。
スクラシスが首をかしげる。銀髪がさらりと流れた。
「ん? ひょっとしてまたやり直したのかの?」
「ええ、ちょっと難しくてね。五人もいるとさすがに対立するし、奥義で死にかけたりもして……あはは」
「何度目めじゃ?」
「17回目です」
「はっ、もうそんなに! ――ただ、この時点が次の起点になっておる。かすかな揺らぎを感じるのじゃ」
「やっぱりそうですか。頑張りますよ」
アレクが疲れた笑みを浮かべて扉に手をかける。
しかしスクラシスが彼の腕をつかんだ。
そのまま彼の胸に飛び込んで至近距離から紫の瞳で見上げる。
「待て。露骨な因数調整をしてやろうではないか」
「えっ、調整? なに――ん」
スクラシスがアレクの首に細い腕を回して背伸びをした。
お互いの唇が触れ合う。彼女はぎゅっと目を閉じていたが、頬が羞恥で赤く染まっていた。
アレクは驚きながらも小柄な背中に手を回して抱え上げるように、さらに強く唇を合わせた。
湿った体温が絡み合う、短くも長い時間。
アレクが顔を離した。先ほどより明るい笑顔でスクラシスを見下ろす。
「ありがとう。元気出たよ」
「が、頑張るのじゃぞ……」
スクラシスは真っ赤に染まった顔を銀髪で隠しつつうつむいてしまう。
その様子に微笑みながらアレクは一つ息を吐いて気合を入れた。
そして、扉へ手をかけてゆっくりと開いていった。




