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第24話 名もなき子供すら助けたい(五聖勇者アレクのやり直し・6)


  プロローグ 1万1652


 俺は滅びた廃墟で寝転がっていた。

 つい先ほどまでは人々の喧噪でにぎわってた街。


 また俺は世界を救えなかった。

 魔神に操られた魔王ルベルディアが世界を破壊し尽くした。


 魔神は倒したように見えても、この世界に多大な影響力を残してしまう。ケイが取りつかれたときもあれば、ノクティが暴走することもあった。

 なにか別の方法で完全に魔神の存在を消し去らないといけなかった。



「はぁ……あと何回繰り返せば……本当にみんなが助かる未来なんてあるのか……?」

 青い空に白い雲が流れる。がれきの上を風が渡り、蝶がひらひらと舞っていく。


 ――世界を救わなきゃ……俺を助けなきゃ。


 自分が強くなればなるほど、別の滅亡が押し寄せる。

 砂漠に水を撒いている気分だった。


 英雄のタナトおじさんがなぜ諦めたのかわかった気がした。

 何回やっても、今度こそはと思っても、予想外の事態が起こって失敗する。


 心が折れる。

 さらに折れた心を磨り潰すかのごとく、滅亡が繰り返される。



「誰か俺を……」

 つい、泣き言を口にしてしまいそうになって、飲み込む。


 ――決めたじゃないか。決意したじゃないか。

 俺が俺を救うんだって。一緒に苦しむみんなも救うんだって。



 立ち上がると、揺れる雑草を踏みながら廃墟から立ち去ろうとした。

 すると、みんな死に絶えたと思っていた廃墟で、うめく声が聞こえた。幼い声だった。

 驚きつつ急いで駆けつけると少年ががれきの下に埋もれていた。


「大丈夫か!? ――うっ」

 がれきを持ち上げたものの、少年は腰から下がなかった。生きているのが不思議だった。


 頬に赤い血で茶髪を張り付かせた少年は、息も絶え絶えに言う。

「ああ……勇者さんだぁ……」


「しゃべらなくていい。大丈夫だから、寝ているんだ」

 俺は痛み止め代わりに気休めの回復魔法を唱えつつ、優しく頭を撫でた。



 けれど少年は弱々しくも、嬉しそうな笑顔で俺に手を差し出す。

「これ、僕、作ったんだ……これで。これで……わるい魔物、やっつけて……」

 手には不格好なナイフが握られていた。


「ああ、任せろっ!」

 俺は涙をこらえて、そのナイフを受け取る。


 すると少年は、にこっと笑った。

「お願いねぇ……――」


 微笑んだまま少年は力尽きた。頭が後ろに倒れる。


 俺は小さな遺体を抱きしめて叫ぶことしかできなかった。

「あああああっ!! ――なんでだよっ! なんで子供たちが苦しまなくちゃいけないんだっ! ――どうなってるんだ、この世界はああああっ!」


 空を見上げて叫ぶ俺の言葉は、むなしく廃墟に消えていった。




  プロローグ 1万3468


 魔神化ルベルを出現させないためには、まず元の魔神を完全に消し去る必要があった。

 その方法を探して世界各地を巡り、また魔書島で文献を漁った。


 そしてシャイニー教の救世主になれば、邪神や魔神を倒せると知った。


 俺は目を閉じて考える。

 ――また違う滅亡が現れそうな気がする。


 今までだってそうだった。今回だって……。

 強くなればなるほど、問題が増えていく。


 ――どうしたらいいんだ。



 でも、やるしかなかった。

 何度もやり直して救世主の試練を突破し、経験を積んでいく。


 ついに救世主になった。


 そして、不安は的中した。

 救世主になったとたん、新たな滅亡級の存在が現れた。




  プロローグ 1万6792


 今にも雨が降りそうな曇天の下。

 怒りと絶望に染まった幼い少女が、長い銀髪を振り乱して世界を破壊していった。


 小柄な体に似合わない大きな胸を揺らして腕を振る。

 そのたびに黒い爆発が連続して起こった。町や地面が吹き飛ばされていく。



 俺は彼女の前に立ちはだかって叫ぶ。

「やめろ! これ以上世界を壊すな!」


 少女は紫色の瞳から涙を流して切々と語った。

「もう誰も必要ない。わらわを認めぬこんな世界など、初めから作り直す」


 彼女の頭上に無数の黒い球が生まれた。

 ――嫌な予感が背筋を走る。



「やめろっ!」

 俺は剣を振り上げて切りかかった。


 しかし攻撃が当たる前に、彼女が細い腕を振るった。

 黒い球は世界へ散るように飛び去った。


 俺の剣は彼女の手に掴まれていた。

 手のひらから赤い血が流れるものの、引くことも押すこともできず、動けなくなる。


 一拍遅れて、遠くの方から、重い地響きの音が轟いて高い青空に反響した。轟音はこだまのように響いて、いつまでも終わらない。


 ――ああ、終わった。また失敗だ。

 俺は世界が滅んだと直感した。



「あんたはなんだ? 名前は?」

「わらわの名はスクラシス……そなたにとっては邪神だったであろうな……」

 幼い容姿に幼い声。どこまでも寂しく、そして悲しげだった。


 他に尋ねたが、興味を失せたようで破壊をまき散らしながら飛び去った。

 こうして邪神スクラシスによって世界は滅びた。


       ◇  ◇  ◇


 俺は生きるものがいない荒廃した世界をさまよった。


 どこから手を着けていいのか、もうわからなくなっていた。

 どう頑張っても世界が滅びる運命は変えられない気がした。

 諦めそうになる。


 ――何もかも投げ出したい。誰かに押し付けたい。

 そんな気持ちが心の片隅に沸き起こる。


 今なら英雄のタナトおじさんの泣き言が、痛切に分かった。

 自分の無能さを嫌と言うほど見せつけられる。

 しかも何度も。心が折れるまで何度も。心が折れてもなお折りに来る。

 無能が努力してもどうにもならないと絶望する。



 俺より賢くて才能がある誰かに変わって欲しい。

 けれど俺は押し付けられる適合者をまだ見つけてはいない。


 やるしかなかった。

 壊れかけの心を奮い立たせて、と言うより砕けた心を寄せ集めて、新たな滅亡に対する対処法を探した。


 そして、邪神は存在自体が邪神なのではなく、元は女神だと知った。

 ――もう俺は、神にもすがりたい気分だった。


 流す涙も尽き果てた俺は、歯を食いしばって時間をやり直した。


明日は2話か3話更新して完結します。

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