第14話 次元の狭間の廊下で邪神大激怒!
次元の狭間にある回廊。
暗闇に包まれた廊下を、壁にかかる魔法の燭台がぽつりぽつりと照らしている。
そこを五人の美少女がそれぞれの髪やスカートを揺らして歩いていた。
ノクティが頭の後ろで手を組みながら足を投げ出すように歩く。短いスカートの裾がひらひら舞った。
「あいつ、何気にすごいわね。このままだと本当にハーレムを作りそうだわ」
「あたしもそう思います、お姉ちゃん。みんなのことをあんなに考えてて……アレクさんならお姉ちゃんやみんなも一緒に幸せにできそうです」
「ふふん、確かにもう、わらわは幸せじゃなっ。皆の者もいずれ幸せになるであろう。アレクならばできるのじゃっ」
笑顔のスクラシスが喜びの声を弾ませた。
すると、不愉快そうに眉を寄せたルベルが舌打ちした。残忍な笑みを浮かべてゆっくりと振り返る。
「ふんっ。だったらその幸せを、奴の街ごと破壊してやろうじゃないか。せいぜい、短い時間をみんなで楽しむがいい」
スクラシスが小さな肩をすくめた。
「ルベルはよほどアレクが嫌いなようじゃな」
「当たり前だ。私の父上を殺したこと、奴の死だけでは償いとして足りぬ。すべて破壊しつくしてやる!」
「わらわの社まで壊すと言うのか?」
「今さら神に戻ろうとしたって無駄だ。アレクの口車に乗せられているだけだ」
少しバカにしたようなニュアンスがルベルの言葉に混じっていた。
スクラシスは、むっとイヤそうに顔をしかめる。
「一人ではアレクを殺せもしないくせに、よく言うのじゃ」
「ふんっ、どうだか。魔法や物理で殺せないなら、即死攻撃で命を奪えばいいんだ」
「ほほう、そこに気が付くとは。アレクを絶対に殺す気なのじゃな?」
紫の瞳でルベルを睨むスクラシスの言葉は、尋ねると言うより意思確認の響きが強かった。
不穏な空気を感じた邪竜姉妹が、ルベルに対して止めに入った。
「ルベルさん、世界滅亡は少し待ってもらえませんか?」
「そうよ。ひょっとしたら破壊しなくてもよくなるかもしれないんだから」
「もともと、わたくしたちの誰かが世界を滅ぼすはずだったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだけどねぇ……」
ドミナが大きな胸を揺らして困ったように首を傾げた。
するとルベルが憤りをにじませて足を踏み鳴らした。紅の髪が激しく乱れる。
「うるさい! 貴様らはもう敵だ! あんなゴミみたいな男に抱かれて喜ぶメス豚なぞ、まとめて滅ぼしてくれるわ!」
その言葉に、一同が息をのむ。
特にスクラシスが眉間に深いしわを寄せて魔王を睨んだ。
周囲の空間が怒りの気迫で歪み始める。
「……なんじゃと……? ――小娘風情が偉そうに。言っていいことと悪いことの区別もつかぬガキが魔王とは恐れ入ったわ」
「はあ!? 私を侮辱すると言うのか? いいだろう、受けてやる。ただし、ただでは殺さん。貴様の目の前でアレクをバラバラに引き裂いて世界滅亡の序曲としてやろう……っ!」
ルベルとスクラシスが睨み合った。二人の間に火花が散る。
ケイがおろおろと眉尻を下げつつ、仲を取り成そうとした。
「あ、あの、ルベルさん。少し落ち着いて……今のはちょっと言い過ぎです」
「そ、そうよ。ただ、スクラシスも冷静になりなさいな」
姉妹がそれぞれ魔王と邪神に近寄って、二人の間を開けようとした。
だが、激高しているスクラシスは売り言葉に買い言葉をルベルにぶつける。
「いいかよく聞け、ひよっこ魔王よ! 絶対アレクを死なせはせんぞっ! なんせ、わらわを世界でただ一人、女神と呼んでくれる男なのじゃからな!」
「はっ! 信者が一人いたぐらいで心を赦すとは、哀れな貧乏神だな!」
ルベルが鼻で笑いつつ、ますます煽る。
ついにスクラシスは世界を滅ぼせそうなほどの気迫を漲らせて凶悪に笑った。
「そこまで言うか、この下郎め! ふんっ、冥土の土産に我が心の内を聞かせてやろう……わらわはもう、すでにアレクを信者ではなく一人の男性として見ておる。一生添い遂げる相手としてな! 我が愛しき夫を殺めるという以上、そなたは死を持って神に対する不敬を償うことにな……―― 」
しかしスクラシスの言葉は途中から声にならなかった。
次の瞬間、五人の美少女が暗い廊下を歩いていた。
ノクティが頭の後ろで手を組みながら足を投げ出すように歩きつつ、感心した声で言った。
「あいつ、何気にすごいわね。このままだと本当にハーレムを作りそうだわ」
「あたしもそう思います、お姉ちゃん。みんなのことをあんなに考えてて……アレクさんならお姉ちゃんやみんなも一緒に幸せにできそうです」
「むう……っ」
スクラシスは眉を寄せて口を尖らせた。しかし、すーはーすーはーと、怒りを落ち着けるかのように深呼吸するばかりで何も言わない。
すると先頭を歩くルベルが髪を揺らして肩越しに振り返る。
「ふんっ。どうやら世界を滅ぼす気があるのは私だけのようだな。いいだろう。せいぜい皆で仲良く暮らして残りの時間を楽しむがいい。その間に私が世界を滅ぼしてやろう」
ルベルが、くくくっと整った顔を邪悪に歪めて笑った。
ふむ、とスクラシスは顎に人差し指を当てて可愛く考え込む。
ドミナが大きな胸を揺らして困ったように首を傾げた。
「もともと、わたくしたちの誰かが世界を滅ぼすはずだったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだけどねぇ……」
「でも……困っちゃいます」
「なんとかなればいいのだけど」
邪竜姉妹が悲し気に眉を寄せた。
ルベルはますます好戦的な笑みを浮かべて言い放った。
「そんなにアレクの町がよかったとでもいうのか! 残念だったな、私がこの世のすべてを破壊しつくしてやる!」
邪竜姉妹とドミナが息をのんだ。
しかし突然、スクラシスがルベルに負けないぐらいの邪悪な笑みを作ると、彼女を煽った。
「ふふん。嫉妬は見苦しいぞ、ルベルよ。自分だけ幸せにしてもらえなくて悔しいのであろう?」
「なっ!? 違うっ! あんなやつ、どす黒い欲望を成し遂げるために動いてるだけじゃないかっ! 下心が見え見えだ!」
焦ったかのように小さく握った拳を振り回すルベル。
スクラシスは幼い顔に半笑いを浮かべると、小さな肩をすくめた。
「わかっておらぬな、ルベルは。アレクはただ欲望のままに動いておるのではないのじゃぞ? 相手には必ず何かを与えておる。わらわで言うなら、信者になってくれたこともそうじゃな」
「たったそれだけで? 安い邪神なんだな、スクラシスは」
呆れた吐息を吐いて、ルベルは手を広げた。
スクラシスの眉間がピクッとしわが寄ったが、余裕の笑みにすぐ戻る。
「では聞くがルベルよ。邪神とはなんじゃ?」
「え? 世界を滅ぼすような悪い神のことだろう?」
「それは魔神でも同じであろ。魔神ではなく、邪まな神。邪神とはなんぞや?」
「ん……難しい。考えたこともなかった」
ルベルは腕組みをして首をひねったが答えられなかった。
その様子に、スクラシスは大きくうなずいた。そして厳かな声を響かせる。
「邪神とは、何か正しいとされる神がいて、その教えと違うものが邪神と呼ばれる。元の教義や思想が違うだけで、本来はどちらも正しい神であったのじゃ」
「えっと……つまり?」
「……わらわは神々の争いに負けたのじゃ。信者をすべてなくして、千年、いや万年、正しき神を恨みながら生きておった……そこに現れたのがアレクであった」
スクラシスは紫の眼を閉じて、ただ遠くへ思いを馳せるように語りだした。




