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第12話 アレクの町でハーレムデート!(前編)


 晴れた空に白い雲。眼下には青い海が陽光にきらめく。

 弧を描く小さな港に面して白い壁に赤い屋根を持つ町並みが広がっている。


 俺たちは町の側にある高台から見下ろしていた。

 町を抜けた心地よい潮風が美少女たちの髪を揺らしていく。


 ケイが白いドレスを揺らして首を傾げる。 

「この町にアレクさんは住んでるんですか?」

「まあ、そうだね。行ってみよう」



 町へと続く細い道を降りていく。

 ルベルが紅の髪を揺らして首を傾げていた。

「こんなところに町なんてあったのか?」


「ないですよ。作ったんですよ、俺が」

「勝手に!?」


「ちゃんと許可は取りましたよ。元々、このあたりは毒の沼地だらけで、人どころか魔物すら住めない場所だったんです。そこで開拓するから、くれって言いました。ちょっと書類に細工して千年免税でね」


「やっぱり極悪人じゃないか」

 ルベルが赤い瞳に呆れた光を宿してジトッと睨んでくる。

「やだなぁ。ちゃんとやってますよ、ちゃんとね」



 不服そうな彼女たちを連れて町へと入っていく。

 両側に漆喰の白壁が美しい町並みが続く石畳の坂道を降りていった。


 何人かの子供たちが笑顔で駆け抜ける。

「あ! アレクさん!」「こんにちは!」「こんにちは、町長さん!」


「元気だね。転ばないように」

「「「は~い」」」

 きゃっきゃと笑いながら駆けていく。



 ところが茶髪の少年が急に踵を返して駆け戻った。

 腰に差していたナイフを抜いて俺に見せてくる。


「町長さん! 見て見て!」

 少年の手に握られたナイフは名工が作刀したかのようにピカピカだった。


「おお。よくできてるな」

「でしょ! 町長さん用にはもっとすごいの作るから、悪い魔物いっぱいやっつけてね!」


「ああ、任せろ」

「うんっ! お願いねっ」

 少年は茶髪を勢いよく揺らして嬉しそうな笑顔で頷いた。

 そして、子供たちを追いかけるため軽い足取りで去っていった。



 ノクティが黒髪のツインテールを揺らして首をかしげる。

「町長?」

「慕われてるみたいですね」

 ケイが、ほっと大きな胸を撫で下ろして安堵の息を吐いた。


 窓から見える家の中にも、路地裏にも子供たちの姿が見える。


 スクラシスが形のよい眉を寄せて幼い顔をしかめる。

「子供たちばかりじゃの」


「言ったでしょ。さらってきて拷問してるって……。勉強と仕事見習いっていうね」

 俺の発言に、ルベルたちが驚いて目を見開いた。

「まさかっ!? ここにいる子供たちすべて!?」


「当然。早いうちから身につけた技術や知識は、この町のためにも彼らの将来にも大きな財産になりますから」

 みんなが驚愕しつつ「ほぉ~」と感嘆の息をもらす。


 ――認めてもらえて、ちょっと胸が高鳴った。



 ただし、ルベルが赤い唇を噛んで睨んでくる。

「なぜそこまでするんだ! いくら勇者や救世主だからって限度があるっ」


「俺にとっては、勇者も聖騎士も救世主も、目的を達成するための手段でしかありませんから」

「目的とは?」

「美少女ハーレム!」


「じゃないはずだ、本当は?」

「……みんなが救われる世界、です」

 俺は頬を掻きつつ微笑んで答えたが、声に少し寂しさが滲んでしまう。



 スクラシスが銀髪を揺らして首を傾げた。

「どういうことかの?」

「だって、誰も救ってくれませんでしたから」

「ほう」


「父も母も友達もいない俺は、誰も助けてくれませんでした。むしろ優しい大人ほど危険だったり。子供心に「どうしてっ!」て思ったけど、どうしようもなくて。そのかわり、力を手に入れたんです」

「力……」


「ええ、成功するまで何度でもやり直せる力です。だったらもう、やることは一つしかないでしょ。誰も助けてくれないなら、俺がみんなを救ってやる! って、決意したんです」

 俺の言葉に、みんなは黙った。でも、いやな沈黙ではなかった。戸惑い混じりの尊敬する視線が俺に集まる。



 すると、ノクティが茶化すように笑った。

「その割には、美少女ハーレムを作ろうとしてるじゃない」


「あっ、そうです。アレクさんはあたしだけを愛してくださいっ」

 腕に抱きついて訴えてくるケイに、俺は強気な笑みを浮かべて見下ろした。

「それとこれとは話が別だよ。美少女ハーレムは男の夢ですから!」


「本当に、別なのかのう?」

「え?」

 スクラシスは含み笑いをしつつ、流し目で俺を見てきた。その目は邪神とは思えないほど、優しい慈愛に満ちている。すべてを見通す目だった。


 なんだか恥ずかしくなった俺はなにも言えず、頭を掻くしかなかった。



 ――と。

 ケイを腕に抱きつかせたまま町を歩いていると、路地に沿ってきらきらした小屋がずらっと並んでいる場所を通りがかった。


 ドミナさんが青い髪を揺らして興味深そうに見る。

「あらぁ。ガラスの家?」


「そこは温室です。魔女の薬草を買うのは無理ですが、育てることならできますので」


「うふふ。もうわたくしを篭絡する手筈は整えていたのね。――なにを育てるのか、楽しみになってくるわぁ」

 ドミナさんは心から微笑んで、大きな胸を弾ませて喜んでいた。


 その様子に、俺も笑顔で頷いた。気に入ってもらえたようでなにより。



 また別の建物にさしかかる。

 広い敷地には神殿っぽい屋敷が建っていた。一階建てだが屋根が高い。


 両開きの大きな扉が開いて、通りからでも中が見える。

 祭壇には、幼女のように小柄だけど胸の大きな女神像が据えられていた。


 それを見たスクラシスが小さな肩を震わせる。その可愛い声もまた震えていた。

「おお! おお……っ! わらわの……わらわの社なのじゃっ」


 社を見るスクラシスの紫の瞳に清らかな涙が浮かんだ。

 幼い顔立ちが子供のようにくしゃくしゃの笑顔になると、なだらかな頬を一筋の涙が伝わった。



 俺は揺れる銀髪を優しく撫でると、落ち着いた声で語った。

「スクラシスには世話になってるからね。俺ができる恩返しはこれぐらいさ」


「アレク……アレクっ! 嬉しいのじゃあっ!」

 俺の胸に飛びついて、涙をこすりつけるように泣いた。小さな手が、ぎゅっと俺の服を掴む。


「今は名も無き女神でしかないけど、守り神として町を頼んだよ」

「任せるのじゃっ」

 俺にしがみついたまま、何度も頷く。そのたびに涙がこぼれてキラッと光った。


「さあ、まだ見て回ろう」

 スクラシスの小柄な体を抱きつつ、坂道になっている町の通りを海へ向かって歩き出す。


 邪竜姉妹とドミナさんは嬉しそうに微笑んでいたが、ルベルだけは不満そうに眉間にしわを寄せてついてきていた。



 また別の場所を通る。

 そこは更地になっていた。家なら何十軒も建てられそうな広さがあった。


 ケイがまだ俺の腕に抱きつきながら首を傾げた。さらっと流れた金髪が柔らかく手に触れてくすぐったい。

「こっちはまだ、地ならし中ですね。何を作るのでしょうか?」


「後回しになっててすまない」

「え? どうして謝るのですか?」


 見上げてくる青い瞳を見返し、そして後ろにいるノクティにも視線を向けて微笑む。

「よかったら邪竜族みんなで移ってきてくれて構わないよ」

「えっ!?」


「まさか、あたしたちのこと、そこまで考えてくれてたんですか……」

 ケイは手で口を押さえつつ、振り返って姉と目を見合わせる。ノクティの口と黒目は驚きで見開かれていた。


「まあね。邪竜族の数自体は多くないみたいだし。住む場所が地上にあれば世界を滅ぼす理由もなくなる。第一いつまでもあんな場所じゃ、ケイの体によくないからね」


「ありがとうございます、アレクさん……」

 俺の腕を抱くケイの腕に力がこもった。胸が押しつけられるとともに柔らかくつぶれる。でも、それだけじゃなかった。彼女の細身の体が、喜びで震えているのがありありと伝わった。



 ノクティが後ろから俺の服を摘んで引っ張ってくる。

 振り返ると、頬を赤く染めて俯いていた。

「ん? どうした、ノクティ?」


「わ、悪かったわね」

「なにが?」

「さっきはあんたのこと、知りもせずに罵っちゃって」


「いいさ、別に。そういう流れにしたんだ」

「でも、邪竜族を住まわせたら、この町が否定的な目で見られることになってしまう……」


 俺はニヤリと笑った。きっと白い歯が輝いたに違いない。

「心配しなくていい。だからこそ、ここなんだ。毒の沼地に囲まれてて、人間の軍隊なんかこれないからね」


「あ、あんた、そこまで考えて……いいわ。あんたが妹と結婚すること、認めてあげるわよ」

「ノクティも一緒にね」

 誠実な微笑みを向けたつもりだった。



 しかしノクティは黒髪ツインテールを跳ねさせて怒鳴ってきた。

「だから、どうしてそこまでハーレムにこだわるのよ!」

「そうです。あたしだけを見てくださいっ」


「ケイだけを幸せにするわけにはいかないからさ。ノクティも、みんなも一緒に幸せにしたいんだ。それが俺の目標だから」

 精一杯、誠実な気持ちで話したけれど、みんなはわかってくれなかった。



 ――いや。

 今までとは少し変化があった。

 ドミナさんは困ったように青い髪を掻き上げていたが、俺に微笑みを向けていた。

 俺の胸に顔を埋めていたスクラシスもまた、楽しげに笑っていた。


 ただ、半裸をマントに隠したルベルだけが不満そうだった。


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