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第11話 三回目の評議会(後編)


 次元の狭間の広間にて。

 俺は美少女たちの奥義を食らって床に伸びていた。

 

 ノクティがそーっと忍び足で側へ来て俺の顔をのぞき込む。

「すっごい! やっぱりまだ生きてる。どうなってんのよ、こいつのタフさは」


「ハーレムを作るまでは……死ねん!」

 俺は床にはいつくばって、腕の力だけでずるずると円卓へ向かう。


 するとノクティが俺の首根っこをつかんで引き上げた。

 足が引きずられつつも円卓へと戻っていく。



 上座からはルベルの興味なさそうな声がした。

「ノクティ。そんなの放っておいて、会議を続けるんだ。むしろ今がチャンスだ」


「とはいえ、こいつを倒さないと世界滅亡もできないでしょ」

「ふふん。わかってるじゃないか。さすが俺のノクティ」

 俺は起きあがると肩を組むようにしなだれかかる。


 顔が至近距離になったためか、ノクティが頬を染めて顔を背けた。

「ち、近い!」


「ん? こうか――ふうっ」

 黒いツインテールにちらちらと隠れる可愛い耳に息を吹きかける。


「ちょっ、やめなさいよっ!」

 彼女の顔が一瞬で沸騰したように赤くなると、俺を突き飛ばした。



 その飛ばされた勢いのままに床を滑ってケイの側まで来る。

 ケイは苦しそうにぎゅっと目を閉じて、前かがみになって胸を押さえていた。


「大丈夫、ケイ? ――【超越全回復エクストラヒール】」

 彼女のすぐ傍まで寄ると片膝をついて手を伸ばした。つんと形のよい胸に当てた手が光り出す。


 ケイは俺の手を包むように掴みつつ、安らぎの笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、アレクさん」

「遅れてごめんね。でも絶対、助けるよ。ケイのことが好きだから」


「はい、あたしもアレクさんが大好きです」

 微笑みつつ俺の肩に頭を乗せてくる。柔らかな金髪が頬にかかってくすぐったい。



 ノクティが心配そうに眉を寄せて隣へ来た。妹の顔をのぞき込んで尋ねる。

「大丈夫、ケイ?」

「うん。ありがと、お姉ちゃん。ちょっとアレクさんを頼りたかっただけです」


「俺はケイのためにいるから。もっと頼ってくれていいからね」

「はい、アレクさん。嬉しいです。これであたしだけを大切にしてくれたら、もっと嬉しいんですけど……」


「それはできないんだ、ごめん。なんせ美少女ハーレムは俺の夢だから」

「うう……みなさん美人だから、気持ちはわかりますけど……」



 隣に立つノクティが腕組みをして不満そうに眉を寄せる。

「ねえ、アレク。一つ聞いてもいい?」

「ん? なんだ? 何でも答えるぞ」

「そもそも、ハーレムを作るって言うけど、アレクに維持できるの?」


「そうなのじゃ。ハーレムとは財力と権力の象徴。並の男にはできぬのじゃ」

 スクラシスが銀髪を揺らして頷く。


 ノクティも同調した。

「しかもただの人間じゃない、アタシたち五人を養うのよ? 相当すごい稼ぎがないとハーレム崩壊ってわかってる?」


「任せてください! 俺の愛は売るほどあります!」

「愛でお腹は膨れないでしょ! アレクって収入はあるの?」

「ありますよ、もちろん」


「どれぐらい?」

「さあ、みんなを養えるぐらいはあるんじゃないっすかねー」


「なによその気の抜けた答え。あんた、ほんとにハーレム作る気あるの?」

「詳しい金額までは知らなくって……」

 俺は取り繕うように、下げた頭を掻くしかなかった。



 ルベルが頬杖をついて呆れたため息をはく。

「勇者とか英雄とか言ってるが、結局はただの住所不定無職じゃないか」


「そーそー。あれって魔王とか倒して世界救わないと報酬もらえないんでしょ?」

 みんなは口々に好き勝手を言う。


 さすがに切れた俺は、円卓を叩きながら叫んだ。

「じゃあ逆に聞くけど、みんなは旦那にはどんな職業を望むって言うんだっ!?」



 真っ先にスクラシスが口を開いた。

「わらわは神なのじゃから、司祭か神主になってもらうのが一番であろ」


 続いて、ルベルが細い顎に指を当てつつ考えながら言う。

「私と結婚したのであれば、魔界を統治する魔王の旦那として、宰相か大臣みたいな内政面の担当になるんじゃないか?」


「わたくしは……一緒に静かに暮らせるならなんでも……ただ、魔法の薬や材料を自由に手に入れられる資産家がいいかしら」

 ドミナさんは大きな胸を揺らして答えた。


 邪竜姉妹は元気に応える。

「毎日、肉をたくさん食わせてくれる財力が必須よ! 強さも欲しいところだわ! 軍事国家の皇帝とか?」


「旦那さんの収入はそんなに……つつましく生活できれば、それでいいです。でも、あたしは病気がちだから、一般的には治癒術師かお医者さんの旦那さんがいいのかも。でも治してくれたアレクさんが傍にいてくれるだけで、あたしは嬉しいです」

 ケイの答えが一番可愛らしく聞こえた。ハーレムを目指さないのであれば一番いいお嫁さんかもしれない。



 俺は立ち上がると胸を張った。

「総合すると。俺が目指せばいいのは、スクラシスを主神とする宗教国家の教主で、人々や魔物に治癒の恩恵を与える、と。国民の税金と信者の寄付で国家運営。そしてハーレムを維持。魔界の魔族もすべて信者に!」


「勝手に決めるなっ! 欲望の固まりの貴様がそんなことできるはずがない!」


「アレクさん、無理しないでください。あれですよね。アレクさんはモンスターを倒して、その素材を地道に売ったりしているんですよね?」

 ケイが心配そうな顔でフォローを入れてくれた。



 俺は頷きつつ、手を広げて答える。

「それもしてたけどね。今は身よりのない子供を見つけてはさらってきて拷問したり、身よりのない人を騙してつれてきては、ただ働きさせて上前をはねたりしてますね」


 ノクティが声に怒りをみなぎらせて叫ぶ。

「極悪人じゃないのっ!」


「一人でこつこつ働くより、そっちの方が儲かるんで」

 へらへら笑って応えると、みんなが白い目で睨んできた。


「信じられん勇者だ」

「勇者のやることじゃないわねぇ」

 ――ちょっと場の雰囲気が悪くなってしまった。良い方向へと変えなければ。


 俺は肩をすくめて両手を広げた。

「それだけじゃありませんよ。あとは王様を騙して土地を奪ったりしましたね」


「わらわの聞いていた話と、ちと違うようだがの?」

 スクラシスが助け船をだしてくれたが、ルベルが疑いの目で俺を見てきた。

「やっぱりこいつを倒すのが、世界のため私たちのためになるんじゃないか?」


「なんてことを言うんです! いや、待ってください! あなたたちは魔王や魔女や邪神でしょ!? 今のは逆に「くくくっ、アレクもなかなか悪の道がわかっておるではないか」ぐらい誉めてくれたっていいはずですよ!?」


「人としての職業を真っ当にこなしていないから怒っているんだ!」

「すべてはみなさんとのハーレム生活をおこなうためですよ!」



 ノクティが黒いドレスを揺らして立ち上がった。

「そんなあくどい犠牲の上に生活したくないわよ!」


「前に言ってたことと違います、アレクさん……」

 ケイが眉尻を下げて悲しげに呟いた。


 しかし俺は、バンッと円卓を叩いてみんなを見渡す。

「じゃあ、みなさん! そんなに俺を責めるんだったら、どんな暮らしぶりか見に行きませんか!?」


「そうじゃの。口だけで大きなことを言っておるだけやもしれんからの」

「どうかしら? 案外、本気かもしれませんわ」

「妹が売り飛ばされないように気をつけないと」

「そこまで弱くないですよ、お姉ちゃん」



 俺は両手を広げて笑顔で言った。

「じゃあ、みなさん! 今日はみんなで外出です。俺との初デートです!」


「ただの視察であろう」

 スクラシスは、ふっと鼻で笑った。

 ほかのみんなも似たような反応だった。


 ――納得がいかない。

 待遇に不満を感じつつも、俺たちはぞろぞろと広間を出ていった。


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