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第10話 三回目の評議会(前編)


 暗闇の中、円卓を囲んでいつもの世界滅亡評議会が始まった。

 しかし広間にいるのは美少女五人だけだった。


 上座に座る魔王ルベルが、ちらっと俺の《・・》いない席を見る。

「第1078回、私たちでは第3回の世界滅亡評議会を始めたいと思う……あいつがいないじゃないか。ついに諦めてくれたか?」


「アレクがそんな簡単に諦めるはずがないのじゃ」

 邪神スクラシスが銀髪を揺らして楽しげに笑った。

 ルベルが形の良い眉を寄せてスクラシスを睨むと、何か言おうと口を開いた。



 だが、その時――。

 突然、バァンと遠くから扉の開く音が聞こえた。


 入口の方から俺が走って来る《・・・・・・・》!


 金髪を揺らして振り返ったケイが、俺の姿を目に止めたとたん、手で口を押さえて息をのむ。

「ひぃ……っ! アレクさんっ」



 俺はルベルの隣にある自分の席まで来ると、立ったまま全員を見渡した。

「ふふふっ。見てくださいよ、みなさん」

 わしゃわしゃと四本の腕を動かす俺。肩からもう一対の腕が生えていた。


 みんなに褒められると思っていたが、予想外の反応が返って来る。


 魔女ドミナは胸を揺らして呆れた溜息を吐く。

 ルベルは吐き捨てるように言った。

「きっしょ!」

「気持ち悪すぎよ!」

「エッチをしたいがあまりに、ついに人間を辞めてしまったアレクさんには幻滅です」


「ちょっと待て! これはスキルだ! 腕分身というスキル! 人間はまだやめてない!」

 バンッと円卓を強く叩いて抗議する。



 するとスクラシスがため息交じりに呟いた。

「どんな修行したらそうなるのじゃ」

「文献を漁りまくって、分身の術を使える忍者という職業をマスターしてきたんですよ。たった一日でね!」


「どんだけ欲望にひたむきなのよ、こいつは」

「あらぁ、無駄な努力をする男って、嫌いじゃないわ」

 ドミナさんだけが好意的な微笑みを浮かべている。それどころか少し頬が紅潮している。腕四本での攻めを想像しているのかもしれない。


「何を言うんですか、ドミナさん! 全然無駄じゃないですよ! これで同時に揉みまくれるんですよっ!」

「あら、そお? だったら試してくれないかしら?」

 ドミナさんは両腕を首の後ろに回して青い髪を掻き上げると、胸を反らした。ただでさえ大きな胸があふれんばかりに強調される。



 スクラシスが邪竜姉妹を手で招きつつ席を立つ。

「この間の続きじゃの」

「えー、またするの~?」

「アレクさんに触られるのは好きですけど、なんだかぜんぜん嬉しくないです」


 俺は素早く動いて魔女と邪神の間に立つと、四本の腕を広げて邪竜姉妹を招き寄せた。

「さあ、おいで。俺と愛を確かめあおう!」


「きっもっちわる! 虫みたいでマジで気持ち悪いのよ、あんた!」

 ノクティが整った顔をしかめつつ吐き捨てる。



 俺はルベルへ顔を向けた。

「ああ、ルベルはまた次にしてください。まだスキルに慣れてないんで、今はこれが限界。ただ三日以内にもう一対生やせるようにしますから、安心してくださいね」


 頬杖をついたルベルは、頬を膨らませて睨んできた。

「貴様は少し、自分の姿に疑問を持つようにするんだな」


「心配してくれてありがとう、ルベル」

「誰が貴様のことなどっ! 勘違いするなっ」

 ルベルが紅の髪を乱してそっぽを向いた。



 するとドミナが俺の手を取って、たわわな胸を押しつけてくる。

「もう。よそ見してていいのかしら?」

「わぁ、最高のさわり心地です、ドミナさん」


「わらわも忘れるでないぞ?」

 横からスクラシスが抱きついてくる。薄絹を通して感じる直の肌のすべすべ感がたまらない。


「ああ、最高ですよ、俺の女神っ! ――って! しまった!」

 大きな胸に挟まれて感極まったあまり、集中が乱れた。

 生やした分身の腕が無軌道に動く。


「くっ、いけないっ! 集中が乱れると術が解ける! ――くっそ、むずい!」

 興奮しながらも冷静に対処しようとしたが無理だった。

 煙のように分身の腕が消えてしまった。



 ドレスを揺らして傍へ来た邪竜姉妹が、無言で眉を寄せていた。

「消えちゃいましたぁ……」

「努力が足りないわね」


「諦めるのも一つの手じゃぞ?」

 スクラシスが呆れつつも優しく諭してくれた。


 しかし、俺は煩悩の数だけ挑戦する!


 胸の前で指を絡ませて印を結び、気合を入れて叫んだ。

「ええい、もう一度! 体遁――腕分身の術!」



 すると。

 にょきっ、と頬から右腕が生えた。

 左腕はわき腹から出た。ぶらぶらと震える。


 ちら見していたルベルが、びくっと体を震わせて細い悲鳴を上げた。

「ひぃっ!」


「ぬう」

「これはだめね」

 スクラシスとドミナさんは動じなかった代わりに呆れていた。


 ケイが顔をひきつらせて叫んだ。

「きゃっ! アレクさんっ」



「さあ、もませてくれ! その美しい胸を! 体を!」

 頬から生えた手を伸ばすと、ノクティが拳を握りしめた。

「――ったく、気持ち悪いって言ってるじゃないっ! ……【破局大災竜撃破カタストロフィーエクスプロージョン】!」


 ドゴォォォン!


「ふがぁ!」

 アッパー気味に殴られた俺は、真上に吹っ飛ばされた。



 そして、天井にぶつかる寸前、くるっと体を反転させて四本の腕で張り付いた。

 カサカサと腕と足を動かして天井から円柱へと移動する。


 俺を見上げていたノクティが、眉をひきつらせて吐き捨てた。

「き、気持ち悪い……」

「これは本当に気持ち悪いです。いくらアレクさんが大好きなあたしでも、背筋が凍るほど戦慄しています」


 ――確かに自分でもこれはないなと思い始めた。

 天井や柱を這い回る姿がどうみても虫だった。


 俺は円柱をするすると降りつつ、空いた腕で頭を掻く。

「いやぁ、ごめん。みんなの言うとおりだった。ハーレムを目指すあまり、人として大事なことを忘れていたよ」



 スクラシスが肩をすくめた。

「気づくのが遅いのじゃ」

「もう少し違う方向で頑張ってもらわないとねぇ」


「忘れてるのは常識でしょ」

「抱かれるならふつうのアレクさんに抱かれたいです」

 ケイの健気な言葉だけが救いだった。



 俺は床に降りると腕を消した。茶髪を爽やかに掻き上げる。

「じゃあ、みんなの気持ちが一つになったところで、始めましょうか。俺のハーレムを」


 ルベルが紅の髪を振り乱して叫ぶ。

「ハーレムじゃないって何度言わせればわかるんだ、君は!」


「そうですね。……今はね」

「怖いわ! あっ……ははん、わかった」

「なにがです? 俺に対する愛が?」


「どんだけ自分に自信があるんだ!」

「いやですね、みんな俺にメロメロっすよ」


「違う! 貴様の狙いがわかったんだ!」

「美少女ハーレムですけど?」


「それは建前だ! 本音は評議会をひっかき回して評決を取らせないつもりだろう!」

「今頃気がついたんですか? 実はそうなんです」

 俺は微笑んで答えた。



 ルベルはしたたかに口の端に笑みを浮かべる。

「ふん、ようやく白状したようだな。もう貴様の思うようにはならないからな」

「どうするつもりで? ついに五人揃ってベッドイン?」


 しかしルベルは正面を向いたまま、淡々とした声で話し出す。

「では、評議会を始める。まず、誰が滅ぼすかの前に、現在の人間は滅ぼすに値するかどうかを評価したいと思う」

「うわ、俺を無視して続けてる」


「ふんっ……。前回減らした人間がだいぶ数を回復しているが。ただ他の生き物や生態系への影響も考慮して、全滅するよりはむしろ人間を奴隷や家畜にして食料にすると言う手もある……」


 ルベルが淡々と話すのを放置して俺は席から立ち上がった。



 ゆるゆる歩いて邪竜姉妹の間へ来る。

 健気にも二人は会議に集中する素振りを見せていた。


 けれども俺は前かがみになりつつ、広げた両手に二人を抱き寄せた。

「うっ」

「ふぇぇ」

 かすかにうめくような悲鳴をあげる。


 しかし、あくまで俺の存在を無視しようとする。

 ――ふふっ、いいさ。そっちがその気なら楽しませてもらう。



 ノクティの黒いツインテールに頬ずりしつつ耳元でささやく。

「今日もきれいだよ、ノクティ。黒が一番似合ってる。本当に素敵だ、愛してる」


「くぅっ」

 突然の告白に、見る見る頬を染めるノクティ。でも視線はルベルを見たまま。相手にしてくれない。


 そこでケイへと顔を近づける。彼女はびくっと怯えるように肩をすくめた。

 華奢な肩に腕を回して後ろから抱くと、素敵な笑みを浮かべてかわいい耳に口を寄せる。

「ケイ、俺のために可愛いままでいてくれて、ありがとう。好きだよ」


「アレクさん……あたしもです」

 ケイは嬉しそうな吐息を漏らして後ろに体重を預けてきた。花のような香りが広がる。



 やはり俺のことが大好きなケイは、愛の言葉には逆らえなかった。

 後ろから抱きしめつつ上体を前に出す。


 彼女の細い顎に指を当てて上を向かせた。

「あっ」

 と、か細い声を上げた。なだらかな頬は期待に染まりつつ、長いまつげの瞳を閉じる。

 ゆっくりと顔を近づけていく。



「であるから、人間の寿命が延びている点も考慮して――【紅蓮爆嵐破イグニステンペスタス】」


 どがぁん


「はんばびっ!」

 ルベルの魔法によって俺は吹っ飛ばされた。



 しかし、空中で軽やかな前転を決めると姿勢正しく着地する。

 即座に移動してスクラシスとドミナの間に立った。

 二人の両肩に手をはわせつつ身を屈めて言う。

「今日も美しいですよ、ドミナさん」


「あらそぉ? 胸は変じゃないかしら?」

 細い指で胸元を下げるドミナ。たわわな谷間が露わになる。


 突然展開された白い素肌の魔の魅力に、ますます前かがみになって顔が吸い寄せられていく。

「今日もすばらしいですよ、豊かさの象徴が――ん?」


 反対側の手が、なにやら柔らかいものにふれた。

 振り返るとスクラシスが俺の手を取って自分の胸に押し当てていた。

「わらわも負けてはおらぬがの?」

 薄い生地の向こう側にある大きな胸が誘うように揺れる。


 だが――。

「よそ見はだめよ」

 ドミナさんが俺の頭に手を添えて胸へと引き寄せた。押しつけられた谷間に鼻が潜って妖艶な香りが脳まで届く。

 ――ヘブン! 魔女ヘブン!



 が、ぐいっと後ろへ引っ張られる。

 仰け反って仰向けに倒れ込むと、頭がスクラシスの膝に乗った。


「今日はなんだか暑いのじゃ」

 彼女はローブの肩を出して半脱ぎになると、前にかがんだ。

 当然、ふわふわした素肌の下乳が俺の顔に被さる。


 息のできない不安の向こうから柔らかな恍惚が訪れる。

 ――ああ、神よ!



 気持ちよさに翻弄されて顔を緩ませていると、バンッと円卓を叩く音がした。

「そこの魔女と邪神! もっと会議に集中して!」

 ルベルが髪を振り乱して怒った。


「話は聞いておるから遊んでてもよかろうに」

 スクラシスが不満そうに唇を可愛く尖らせた。名残惜しそうに手を添えて、膝から俺を立たせる。


 俺もふてくされながらルベルへ不満顔を向けた。

「だいたいおかしいじゃないですか!」

「なにが?」


「魔王なのに、なんでエッチじゃないんですか! むしろ触手を使って乱れさす側でしょ! 男なんて手玉に取るものじゃないですか!」


「勝手な思いこみで発言するなっ!」

「そんなきわどい格好をした魔王に言われたくないですよ! なんですかそれ! 胸と腰を少し隠したぐらいで、ほとんど裸じゃないですか! 魔王は痴女なんですか!?」



 ルベルは顔を真っ赤に染めると、マントを両腕で引っ張って体を隠した。

「そういうしきたりなのだから、仕方ないんだ!」

「あ、やっぱ恥ずかしいんですね」

「当たり前だ!」


「そんな強がるルベルが可愛いですよ。――なので、俺も脱ぎます」

「なぜそうなる!?」


 俺はシャツやジャケットの前を開けて胸板を見せつつ微笑んだ。

「みんなで脱げば恥ずかしくない! みんな全裸で話し合いましょう。むしろそんなに美しいスタイルを恥ずかしがる必要はないんです! 世界の宝ですよ!? 逆に、布切れで宝石のような肢体を隠す方がいやらしいです! さあ、ありのままの姿で俺のハーレムに――」


「――【紅蓮爆嵐破イグニステンペスタス】」

「今のは、さすがになしねぇ――【雷炎爆光破プラズマコラープス】」

「デリカシーなさすぎなのじゃ――【邪滅凝闇破ダークメガフレア】」

「宝石を見せびらかすような品性はしてないわよ!――【破局大災竜撃破カタストロフィーエクスプロージョン】」

「あたし以外の裸を見ちゃダメです。見せてもダメです――【次元消滅竜撃破アポカリプスデトネーション】」



 すどぉん ごごごぉん どがぁん ばごぉん どごぉぉぉん


「うぎゃぁぁぁ!」


 俺は究極奥義の集中砲火を受けて吹っ飛ばされた。

 天井や円柱に激突して弾けまくる。

 床に倒れたときには、ぼろぼろになっていた。意識が少し遠くなる。


 しかし俺は痙攣しながらもチラッと円卓の上に載るろうそくを見た。

 まだ半分程度しか燃えてなかった。


 ――まだだ。気絶するにはまだ早い。もっと時間を稼がないと。



 俺は歯を食いしばって匍匐前進を開始した。


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