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失われた力、新たな力。



 封印した事により、本来の力の大半を失ったシキ。非常に致命的である。何せ、今まで得意としてきた【炎】と【雷】が使えない。尚且、魔力量は変わらぬものの、魔法は使えない(・・・・)。厳密には使えはするものの、得意ではなく苦手だったのだ。唯でさえ力を失った為、余計に魔法は下手には使えない。


 が、失っただけではない。



 「慣れればなんてことはない、か」



 白髪姿の狐耳に九つの尾を生やした――――“白妖狐(びゃくようこ)”姿のシキは、己の周りに【狐火】を幾つも灯し、左手には右腕自身で生み出した一丁のリボルバーに右手には神刀"空"―――真名『無虚龍抜殻(ヌケガラ)』という銃と刀を武器にしていた。


 銃の弾丸は、シキが発生させた狐火を弾丸にしている。狐火、又は鬼火は単なる火ではない。妖人族の大半が有する力であるとされていた霊力。属性に大まかに分類するならば、光だ。


 そして、シキは袖の長い服を纏う。その両袖の口は広いが、そこからしゅるしゅると幾つもの護符を出す。護符は地に落ちず、シキに纏う様にして狐火と共に浮遊していたのだ。



 「弱くなった、と聞いてみれば……何なのだ、これ(・・)は!確かに力は失っているのは理解している、が!弟よ、今のお前は―――――非常にたちが悪い(・・・・・)…………!」


 「それは俺自身、理解している(・・・・・・)よ、ラヴィ姉」



 そしてシキの目の前には、冷や汗をだらだらと垂らすラヴィが一人。


 場所は、[箱庭]のもう一つの世界。即席で作り上げた決戦場である。そしてその世界自体が、凍てついていた(・・・・・・・)のだ。



 「前の戦い方が、個人的には好きだったのだがな。しかし、だ。今のほうがしっくりとはしている。恐らく、種族的な意味合いもあるのだろうがな。まさか、試運転でここまで苦戦を強いられるとは……厭らしい(・・・・)


 「褒め言葉として受け取っておくよ」


 

 あぁ、寒い寒いと凍えていたラヴィと共にシキは家がある[箱庭]に戻り、シオンとハルカをスミリアと共に面倒を見ていた最中、唐突にアルトレアがリラとシリルと共に少々慌てた様子で帰宅してきたのだ。


 

 「どうした、アル?」


 「リゼさんは」


 「今お風呂で寛いでると思うけど……どったの」


 「あの、実は……」



 アルトレアから語られたのは緊急性が高めの内容であった。

 何時もの様に、服や食べ物を買いに行った最中、突然一人の女性と遭遇したのだ。そしてその女性こそが―――――変態、もとい倭国カグヤ第二王女『シャルロット・カグヤ』であった。


 最初は、唐突にアルトレアの身体を犬の様に激しく匂いを嗅いでいたので単なる変質者だと判断してリラとシリルは排除しようとしたのだ。が、自ら第二王女と名乗った。

 当然、単なる自称王女と名乗る変質者だと思うのだろう。が、その付き添いが慌ててやって来た後に謝罪したのだ。無論、その変態は第二王女であった。


 何故ゆえに、アルトレアの匂いを嗅いでいたのか。


 それは、リゼットを探していたとのこと。


 リゼットの夫は、シキだ。シキの匂いを辿ればリゼットの居場所に辿り着けると王に進言したシャルロットだったが、言わずもかな即却下されたのだ。が、シャルロットは独断で従者を連れてシキの匂いを辿りリゼットを探しに来たのである。



 「……あの変態王女か」


 「あの人、例え難い……理解したくない怖さが―――――いえ、気持ち悪さがあって」


 「気持ち悪いなど……照れてしまうではないか!」


 「「「!?」」」



 ここは、[箱庭]である。


 それ故に例え超越者や神々であろうと侵入は出来ない……筈なのだ。加えてシキだけではなく女神ヘスティア達が監視と管理をしている為、あり得ない、筈なのだ。

 

 ――――――が。



 「おま、なん――――――」


 「無論、愛の力だ!」


 

 せめて最後まで言わせろ、と若干苛立つシキであったが、何故ゆえにシャルロットがいたのだ。


 しかも、扉を無理矢理こじ開ける如く空間を突き破ってである。空間を突き破ったとしても何故このピンポイントの[箱庭]に来たのかも意味不明だ。あり得ないし、得体のしれない人間の形をした化け物。



 「匂いを辿ってみれば……うむ!ようやく会えたな!」


 「なんでここに――――いや、それよりも、どうやって箱庭(ここ)に……ッ!」


 「言ったではではないか。愛の力だと」


 「……人間じゃねぇ」



 明らかに、己とは異なる次元の存在と認識したシキ。空間を突き破るとか意味わからない。しかし、相手は一国の王女である。この変態が、王女でなければ問答無用で排除……出来るだろうか。


 

 「で、何用だ」


 「ああ、そうだった。君の奥さん……リゼットさんはいるかな?」


 「……何故リゼットを?何が目的だ」


 「ち―――――国王からさ。リゼットと話がしたい、とね。勿論、旦那さんもご一緒に」


 「カグヤの王が……?何故、リゼを」


 「まあ来てくれないかな。国王のあの様子(・・・・)……深刻な話ではないけど、大事な話ではあるだろうね」


 「…………………………あいわかった。直ぐにリゼと共に向かおう。場所は王宮でいいか」


 「うん!そこで問題ないさ。私から王へ出迎える準備をしておくよ。あ、そろそろ罵声とか酷い態度とかしてくれないかな?最近、欲求不満でね……」


 「知るか、バカタレッ!!!要件は聞いたし、王宮へ向かうから待てと伝えとけッ!!!そして、さっさと箱庭(ここ)から出ていけッ!!!」


 「いやんっ―――――ぐべらッ!?」



 わざわざカグヤの王宮前の扉を出して、そこから変態的な要求をしてきたシャルロットという名を持つ第変態を叩き出したのである。


 流石に飛び蹴りには、色っぽい声ではなく潰れた声で叩き出された様子は、まことに幸せそうであったとシキ以外は目撃していた。



 「シキ、さん?帰ってからお話が。いえ、何で正座しているんですか?ん?あれは変態―――――いえ、わかってます。凄まじい、変態さんでしたね。ところで、目を離した隙に王女様とお知り合いだったなんて。因みに、何故あそこまで――――――」


 「あ、アル様、落ち着いて!」


 「早まるな、アルトレア!」


 「頼むアル。あの変態は有り得ない。いやほんと」



 少々、仲良さげに見えたのだろうアルは何処からともなく白き短剣【白椿】が更に進化してしまった、純白刀身と金色に輝く稲妻の紋様が刻まれた短剣【カミナリバナ】をチラリと見せつける様は、流石のシリルとリラも青褪めてしまう。


 シキは平然とした態度ではありながらも、あのシャルロットという名の変態とそういう関係では、と勘違いされて事に露骨に嫌な顔であった。


 しかし、短剣【カミナリバナ】に注目されていた事に気付いたアルトレアは慌ててその刃を鞘へ収めてたのである。



 「ごっ、ごめんなさいっ!別に脅しとかじゃなくて、あの人怖かったから―――――」



 どうやら、嫉妬で刃を―――――ではなく、シャルロットという変態に対する防衛本能だったらしい。オホホホホ〜っと淑女の様に紛らわしながらも、目では「(お話は後で、必ず聞きますからね。お部屋で)」、と言うメッセージを正座姿のシキは察していた。



 「あの、本当にそういうことは―――――」


 「冗談ですよ。さあ、王宮に行くなら正装と身嗜みを整えないと。リゼさん、半身浴してると思うので呼んできますね」


 

 マリンを呼び、テキパキとシキとリゼの身支度の用意を颯爽と用意するアルトレア。アルトレア自身、身支度の用意は完璧ではあるが、スミリア二人に付いていく気はサラサラ無い様子。そもそも二人は王宮などといった高貴な場所は得意ではない、とのこと。


 そして、リゼを連れてきたのは良いもののアルトレアは王宮に行くなら、とそれに相応しい正装を着させようとするのだが―――――――。



 「お、おぃ、やめろ!こんなヒラヒラなの着れっかッ!!!オレは、いつも通りあのパンツスーツがいいって!」


 「かっこいいじゃないですか、真紅のドレス!」


 「足元スースーするやつは苦手なんだって!あと、ヒールとか無理だから!」


 「ワガママ言わないっ!」



 余談ではあるが、リゼットの正装選びにアルトレアが選んだ真紅のドレスは本人自身から不評であり、結局は女性向けのドレスなどではなく、女性らしさを感じさせない男っぽい正装を着ることになるのであった。


 

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