次期国王候補者
「……は?」
「―――――カグヤの王、それは誠か」
カグヤの王宮、王の間。
そこでリゼットは耳を疑い、シキは困惑しつつも冷静さを欠かずに真意を問い質した。
カグヤの国王は、先の戦いで負傷していたのだが今の外見からは怪我一つしている様には見えない。王座に座ったまま、国王はシキの問を返した。
「誠だ」
その一言で、シキは改めて先程の言葉が事実だと理解する。それを改めて国王は自ら放った言葉をリゼットとシキに告げるのだ。
「リゼット殿。貴殿は、我が国カグヤの次期国王候補だ。その証拠に、貴殿が持つその紅い刀【紅刀】は我が娘、リミリィが持つ【藍刀】と対を成す、元々は我が国の国宝だ。それと同時に我が国、王族の正統な継承者を証明するものでもある」
「ちょっと待―――――いや、王サマ。失礼を承知で言わせてもらうが、この刀は、ば―――――じゃなくて、祖母から貰ったもんだ。もう死んじまったけど、そんな貰い物だけで、ただ持っていただけでオレが王族と決めつけるのは早計じゃねぇか?……や、じゃないですか?」
何とか取り繕う、としていたがあんまりな結果なリゼット。だが、リゼットが物申す話は納得するだろう。単なる後継者が持っている物だとしても、実際にその本人なのか確かめる術は難しい。仮に持っていたとしても、それが過去に拾った・奪ったものなのかもしれない。
己の両親が、祖母が王族の、しかもカグヤの王族とは一切知らなかったのだ。だからこそ、次期国王候補というあまりにも根拠が薄すぎる為に余計に信用は出来なかった。
「【紅刀】を持つだけで正統な次期国王候補とは考えておらん。無論、根拠はあるぞ。いや、証人というべきか?」
《人、と表現するのは違うさねぇっ?まあ、そこの娘がこの国カグヤの王族、その一人なのは間違いないさ〜》
カグヤの守護神。
『神聖帝獣ナテアクナラ』。
かの光の龍は、王座に座るカグヤの王を付き従える様にリゼットを見下ろしながら、懐かしさを感じつつそう断言したのだ。
《本当に、懐かしいさねぇ……。リゼット、と言ったさね。アンタは何百年前にこの国から出ていった彼のことを思い出すさ。よく似ているさねぇ》
「どういうことだよ」
《かつて、この王族でありながら人やモンスターを守る為に放浪の旅をしていた侍がいたのさ。恐らく、当時のカグヤでは最強の侍さね。そんな彼はある時、ある存在に気付いたのさ。黒い影――――――詳しくは知らない。が、それを追う為にこのカグヤから旅立ったのさ。そして、その侍は【紅刀】と【藍刀】の二刀流ではあったが、己の弟に【藍刀】を返した………………その侍こそが、リゼット。君の御先祖ってことさ。何より、その気配とその力は君によく引き継がれているさぁね〜》
【紅刀】を持っていただけではなく、長い年月カグヤの守護神を果たしてきた『神聖帝獣ナテアクナラ』が言うのだ。そして、断言している。それ故に、リゼットはカグヤの王族、その子孫なのは証明されたのである。
「……ってことは、つまり?シオンもってことかよ、シキ」
「あ、あぁ、そうなる、かな」
「えぇ……王サマとか、興味ねぇんだけど」
次期国王候補として、興味が無いリゼット。そしてまさかリゼットが王族とは予想外であったシキは冷静さを保ちながらも困惑はあった。
すると、リゼットは一歩前に出てカグヤの王に宣言したのだ。
「カグヤの王、次期国王候補……?に関しては辞退させていただくことをお許しを。オレには妻として横にいる夫を支えるつもりだ。それに、オレは王に相応しくない」
「まぁ、そう言うと思ったぞ」
《ね、言ってたさね。やっぱり、リゼット。アンタは彼の子孫さ。アンタの御先祖も『オレには人の上に立つなんて無理無理』なんて断ってたからさ〜》
「流石は【鬼神】の子孫と言うべきか。【鬼神】の逸話の数々は、王族では有名だからな。そして、刀を持つ者ならば一度は聴いたこともあろう」
愉快そうに笑うカグヤの王と『神聖帝獣ナテアクナラ』。そして他にこの場にいる次期国王候補者は頷く者は多くいた。が、それはあくまで王族や貴族の中での話。市民がその事を知るのはほぼ居ないだろう。
「して……シキよ。随分の獣人らしい姿だが、あまりコロコロ姿を変えられては警備の者がな?」
「ああ、すまない。暫くはこの姿だ」
「安心しろ父上ッ!彼の姿がどれだけ変わろうと彼の匂いと気配はこの私が覚えているぞッ!無論ッ、火の中水の中異空間や異世界であっても探し出せる自信があるッ!!!いや、自信しかないッ!!!」
「なあシキ、アイツめちゃくちゃヤベー気配すんだけど……てか、めっちゃ見てんぞおい」
「目を合わせるなリゼ」
例え、第二王女であろうと変態は変態だ。
第二王女の発言にカグヤの王も思わず顔を顰めてしまう。そして他の次期国王候補達も中には引いている者も居た。が、それは少数であり元々彼女の事を知る者達は気にしていない。
シキは、ふと思った。
この変態王女は、次期国王候補として何番目なのか、と。
「第二王女『シャルロット・カグヤ』は…………次期国王候補第一位だ」
「……凄いな。悪い意味で」
「王女でありながら恐らくこの国でトップクラスの実力者であり、国民からの信頼も厚い。尚且、『神聖帝獣ナテアクナラ』のシンクロ率は―――――」
《歴代カグヤの王の中でも過去最高なのさ。本当に、あの変態っぷりさえ無ければいうことないんだけど……》
「ふふふふっ。ああ楽しみだ。『王者の導き』……国民のダメージを肩代わりにする、まさに至高の快楽が―――――あ、違った。誇り高き、王としての力みたいな?こんな感じでいいだろうか……建前は」
「おいカグヤの王。本当にこの変態が次期国王候補第一位でいいのか」
「ん゛ん゛〜~~……不安でしかない」
《不安以外になにかあるさ?》
次期国王候補第一位、第二王女『シャルロット・カグヤ』に関しては、父親であるカグヤの王だけではなく『神聖帝獣ナテアクナラ』までも不安でしかないらしい。更には実の娘でありながら、変態さに関しては諦めているとのこと。
だが、彼女の桁外れの身体能力と耐久性に加えて意味不明な異空間の干渉をしてしまう程の実力者。恐らく彼女は唯一[超越者]と対等に渡り合える[覚醒者]だ。下手すれば異空間の干渉も出来る事から神相手でも問題ないかもしれない。他の次期国王候補達も殆ど第二王女のシャルロットを次期国王ということに関しては異論は無さそうだ。
満場一致、の様な雰囲気で終わりそうな中、一人の次期国王候補の一人が前へ出たのだ。
そして、その少女の目線の先には―――――リゼット。
「無礼を承知の上でお願いがあります、リゼットさん」
「んぁ?……確かお前、王女サマだったよな。第三王女だっけ」
「はい、『リミリィ・カグヤ』です。次期国王候補としては第九位です」
リゼットと瓜二つであるリミリィが、藍色の刀【藍刀】を携えている。そして長い髪を揺らし、銀色の瞳でリゼットの姿を捉えていた。
「で、何か用か―――――や、ですか?」
「敬語は不要です。候補を辞退したとは言え、貴女は私と同じ王族。つまり対等、という訳です」
「王族とか興味ねぇって……声をかけたってことはオレに用があるんだろ?」
「はい。不躾ではありますが―――――――リゼットさん。貴女に試合を申し込みます」
「――――――へぇ。おもしれぇ」
リミリィから試合を申し込みにリゼットは不敵に笑う。それは決して油断している訳ではない。むしろ好敵手に見せるものだ。
リゼットが携える【紅刀】は微かに紅色に、そしてリミリィが携える【藍刀】も同様に藍色に刀全体が鼓動する様に輝くのであった。




