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───かつての????───



楽園。


あらゆる安楽の地であり、とある神が生み出した世界。


そこで男が叫んでいた。



「こいつに唆されて"破壊の実(・・・・)"を食べてしまったんだ!」



男は目の前にいた一人の黒き龍人を指差して叫んでいる。そしてこの世界から突如姿を現した神に発言していたのだ。男の後ろには女がいて、その女も同意らしい。



「違う!俺はただ、二人が"破壊の実"を食べようとして、それを止めようとしただけ───」


「嘘をつくな、サタン(・・・)!!!我らが神よ、この悪魔──サタンに裁きを!!!」



神は静かにサタンを見下ろして裁きを下した。



───サタン……なんてことを!!!わたしが最も信頼していたあなたが……。これは、許される事ではありません。サタン、あなたは地獄へ、堕ちなさい!!!


「待ってくれ、主よ!オレはなにもしていない!!!ただ"破壊の実"を守ろうと───」


───あなたには失望しました。あなたはもう、大天使ではない。悪魔だ。


「そん、な───」



男のことを信じきっていた神はサタンを地獄へ落とした。神の鉄槌によって。無実だと訴えるサタンだが、虚しくも地獄へ幽閉されてしまう。


男は喜んだ。


サタンという邪魔者が消えたことに。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「我が主よ!どういうことですか!?!?」



一人の大天使は神に叫んだ。


その大天使は、天使の中で最も容姿端麗で他の大天使や天使達から尊敬されていた。しかし今のその大天使は怒りに満ちていたのだ。



───なんですか、騒々しい。


「どうしてサタンを地獄へ落としたのです!!!あの者が"あの果実"を二人に食べさせる筈ないでしょう!?!?」


───現にあの二人(・・・・)がそう言ったのだ、間違いないでしょう。


「何故です!人間の言葉を信じ、サタンの言葉を信じなかったのですか!?」


───当然です。私が生み出した人間に愛を注いできたのだから、そんな愚かな嘘を私につく筈がありません。ですが───本当にやってくれましたね。お陰であの二人を楽園から追放するしかありませんでした。"破壊の実"を男が。"生誕の実"を女が食べて(禁忌を犯して)しまったのだから。


「(自業自得だろう)……しかし主よ。サタンは主の命令には絶対でした。何の不満もなく、あなた様に仕えるだけで喜びを感じていたのです。だからこそ!あのサタンがあんな事をする筈が───」


───くどい。サタンは私を裏切ったのです。……まあいいでしょう。他の大天使と天使に伝えなさい。これからは人間に愛を注ぎなさい。そうすれば、人間は───。


「そんなことっ」


───あなたも裏切るのですか、ルシファー(・・・・・)


「っ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




楽園の側で静かに泣いていた大天使がいた。


その大天使は癒しを与える存在であり、神にとって無くてはならぬ存在。そんな優しさに溢れた大天使に一人の魅惑的な女性が懺悔するかの様に謝り、泣き叫んでいた。



「ごめんなさい……ごめんなさい、私があの男の元へ帰っていれば……!」



その懺悔の言葉に大天使は何も言わずに泣いていた。



リリス(・・・)、貴女は悪くありません。主の怒りに触れたサタンが悪いのです。我が主の命令は絶対……それを背いたサタンが地獄に堕ちるのは仕方がないこと、なのです……」


ラファエル(・・・・・)、あなたはそれでいいの……?サタンは嵌められたのよ。この楽園にいた動物達もそれを目撃していたわ!」


「……主の御言葉は絶対です」


「なんで……なんで神はあの男の言葉を信じて、サタンの言葉は信じないのよ……あなたもわかっているんでしょ。サタンはなにもしていないって……」


「主の、命令は絶対、ですから……っ」


「ラファエル……あなた、それでいいの?」


「……ええ」


「そう……」



大天使は己の感情を押し殺して、神の命に従う。ただただそれをリリスは、神の都合のいい操り人形でしかないと思えていた……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




大天使はかつて、サタンの言葉を思い出していた。



『ルシファー……あの男には警戒しろ。我が主はあの男を酷く溺愛している。だが、それは構わない。しかし、あの男の罪を我等が主が身代りをしてしまうのだ。それだけは、阻止しなければならない。我等が主が何を考えているかは知らない。しかし、我等が主はあの男を信用している……嗚呼、何故か。何か胸騒ぎはおさまらない。何か善からぬ事が───』


「(お前の言う通りだったよサタン。あの"破壊の実"を喰らう前からあの男は、己以外の全てを下に見下していた……それは我が主にも)」


「(我が友の為に、他の天使達の為に───何より、我等が主の為に!!!)」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




神の目の前に大天使ルシファーの賛同の元、他の大天使と天使達は集っていた。その目的は───自分達の主を倒す為。主を倒せば、人間の罪の身代りから解放させる事が出来るのだ。



───あなたも、裏切るのですねルシファー!!!


「ええ、あなたを───」


───わたしを殺し、自分が神に成り代わろうとしているのはわかっています!!!


「なにを───」



ルシファーは神の発言に耳を疑う。


ルシファーは知らない。


この反逆の前から男から、ルシファーは神の座を奪おうと考えている悪魔だと日々告げられていたからだ。


神は静かに怒りを露にさせてルシファー達に牙を向く。しかし、ルシファー達はそんな事では止まることはない。だが相手は神だけではないのだ。


神の元には神に従順すぎる大天使と天使達が迎え撃っていた。しかし神側の大天使・天使達はルシファー達と比べて戦意が低い。それはそうだろう。目の前の敵は自分達が尊敬する相手であり同胞なのだから。



「我が主よ。我等を恨んでもらっても構わない。だが、気付いてほしい───このままでは、主が壊れて(・・・)しまうことを」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



神とルシファーとの戦いは苛烈を極めたが、神側は勝利しルシファー側は敗北した。敗北したルシファー達は問答無用、神の手によって彼等をサタン同様に地獄へ堕としてしまう。


神側にいた大天使や天使達から御慈悲をと懇願したが、神はそれを無視して地獄の扉を完全に封印してしまうのだ。


しかし、この結果に他の大天使と天使達は苦しんだ。同胞の様に神を救おうとしたのだから……。その逆に自分達は神に何もできぬ不甲斐なさに嘆くのであった……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それからだ。


神の元から一人、一人と大天使や天使達が去っていく。


しかし、神はそんな事に気付くことはない。


気付いたとしても、既に神は大天使と天使に何も期待も望みもなかったのだ。


そして、漸く気付く。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




───なぜ……なぜなのです!?なぜ、人間達は、この惑星(ほし)を滅ぼそうとしているのです!?そして、何故、他の生き物までも……!



神は狼狽えていた。


男と女を楽園から追放し、下界の地へ落とした後、彼等は子を産み育み数を増やしていったのだ。しかし、数が多くなり、次第に自然を、この惑星を破壊しだした。


挙げ句の果てには人間同士の争いから戦争に発展し、余計に他の生き物達を絶滅に追い込んだ。



───なぜ、わたしを、神の座を奪おうとするのです……!



人は発展し、数を増やし数多の武器を生産し増やしていく。そしてその人間の王となった、楽園から追放した男が王となり神を殺そうと仕掛けてきた。



「この俺がっ、お前に成り代わって神となるのだ!!!」


───あの女は、どうしたのです。


「ん?……あぁ、あのあいつか。あいつは捨てたよ、子を孕む事が出来なくなったからなぁ。今は娘や孫娘達が俺の子を孕む道具だ。もうあいつは使えない」


───愚かなことを……!


「さあ、俺に神の座を譲れ……いや、お前を殺せば神になれるか?にしても、神よ。お前が俺達の罪の身代りとなってくれたこと、感謝してるんだぜ?どんな事をしても、その罪はお前が被るのだから!!!その証拠にお前の身体……黒く染まってるなぁ?」


───っ!!!



神は己の判断に後悔していた。


己と姿を似せたこの男なら大丈夫だと信用しきっていた。だが、実際蓋を開けてみればこの男は非道に満ちた傲慢な者。この世の悪意に満ちたそのものだ。



───まさか、サタンは……。


「あぁ、あいつはすげえいい奴だったよ。お前の命令に従順で、あいつを部下にしたくてなぁ……でも断られた。『オレの主はただ1人、我らの主のみ』ってな……。それでムカついて、あの"破壊の実"を喰らったって訳よ。だが悲惨にも、お前はサタンの言葉を信じずに俺の言葉を信じるとか……分かってはいたが、可哀想だなぁ、サタンは」


───っ!!!


「しかも?お前は俺の嘘を信じ込んであのルシファーまで地獄に落とすとか……どんだけ俺を信じていたんだよ。お前、人を疑うって学んだらどうだ?」


───きさ、ま……!


「けどまぁ、俺達の罪を肩代わりし続けたせいで───お前、かなり弱ってるんだろ?知ってるんだぜ」


───なめるな、よ、にんげん!!!


「なっ!?」



神は怒り、狂う。


人間に裁きを受ける時がきた。


神を中心に膨大な水が溢れだしてくる。その水は男やそこにいた人間と神を殺す為に生産した武器等を強引に押し流していく。その水はみるみる人間の住まう国までも、更には人間以外の生き物を飲み込んでしまう。



───おのれ!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!!



神の怒りは狂いに狂っていく。


神が生み出した水は大陸だけではなく、この惑星までも包み込む様に洪水の如く溢れ返してしまう。



「まさかっ、ここまで力を───」



洪水は男の命を容易く奪う。奪う命は地上にある生命全て。神が怒り狂う様は、地上にいる者全てが知ることとなった。しかし、その出来事は人々の都合のいい様に(・・・・・・・・・・)歴史から捏造されることとなるのであった───。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



───あぁ……わたしは、わたしは……っ!!!



神は酷く嘆き、悲しんでいた。


地上の生命の命を奪ったことでも、怒りに任せた己の失態によるものではない。


もう、神の周りにかつての大天使や天使はいない。


最初に生み出した子供の様な存在であった『サタン』と『ルシファー』は地獄へ堕としてしまった。


神は文字通り、全てを失った。



───サタン、ルシファー……どこに……どこにいるの……。わたしは、わたしは……ここに、いる、よ……。



神は地獄へ赴き、かつての従順なサタンとルシファーを探し回る。だが、何処へ探してもサタンやルシファーだけではなく、他に地獄へ堕とした大天使や天使の姿も見当たらない。


地獄は言う(・・・・・)



───この地獄へ堕ちた天使共は全て、この世から消え去った。


───そん、な……。


───諦めろ、人間の神(・・・・)よ。



神は絶望するしかなかった。


ただ、己の失敗を嘆いていた。


どれだけ後悔しようと、嘆き悲しみ、声が潰れる程叫んでも何もかもが既に遅かった。



だからこそ、神は人間を恨む。


だからこそ、神は壊れていく。


だからこそ、神は呪いの様に未だに生き続ける人間達の罪によって黒く犯されていくのであった───。





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