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国政に関する小面倒臭い言い合いが含まれます。二人ともめっちゃ勉強してんだよ、ってことが伝わればいいだけなので。読み飛ばしていただいてかまいません。
書くのも小面倒臭かったです。
ついに、婚約者候補の顔合わせの日がやってきた。
私の仕事の本番である。
この日のために仕立てられたドレスは、濃紺の光沢のある生地に宝石を散りばめた大人っぽいものだ。私は見かけが幼い方なので、見るからにドレスに着られている。「あたしってばもう大人なんだからねっ」と強がってる痛々しい娘みたいだ。元々は明るい違う色の生地だったはずなのに、なんか濃紺の生地でできあがってきた。誰かさんの思惑が反映されている気がする。
濃紺の瞳を持ったセレナイト様を見上げると、いつもの無表情に満足気な空気を纏わせながら「私の色に染まった正装のアイサ、か。ふふふ」と呟いていた。なんだろう、絶妙に漂うこの気持ち悪さ。
さらに背後から私に近付いて、「すううう、はああああ」と深呼吸していた。一度ならず二度までもやってた。明らかに私の匂いを嗅いでいる。うん、間違いない。気持ち悪い。
王城ではサロンの一室に案内された。壁には凝った彫刻や絵画が所せましと飾られた部屋である。部屋の中央に置かれた円形のテーブルや椅子も細かい細工の入った高級品だ。王族の方が使うものではないだろうが、充分に高価な調度品に若干ビビる。
扉の近くには穏やかにこやか仮面を貼り付けたセレナイト様が、バレない程度に緊張感のある視線を送ってきていた。失敗するなと脅されている気分になった。監視されていると肝に命じよう。
私がテーブルの傍で待機してほどなく、ルミニエール・ルイ・フェンニル公爵令嬢、ファリス・オルクル・クインベール侯爵令嬢が入室してきた。先に着席していただき、私は最後に座った。
ルミニエール公爵令嬢はレースを重ねた真珠色のドレスで、女性らしい柔らかさを演出している。ファリス侯爵令嬢は青や紫の花が刺繍されたキリっとしたドレス姿だった。なんとなくこの顔合わせにどんな思いで挑んでいるのか分かる気がした。
私はどう思われてるんだろ。……セレナイト様の付属品。そんなもんだよね。
テーブルにお茶やお菓子などが並べられ、宮廷のお役人さんらしい方が私たちを紹介した。さらに慇懃無礼な態度で、本日は無礼講にて友好を深めていただきたい、とおっしゃった。
無礼講……言質を取ったぞ、無礼講。
さっさと始めろと目で私に催促してくるセレナイト様の眼圧に負けて、口火を切ろうとした矢先、ファリス侯爵令嬢が先に口を開いていた。栗色の瞳は攻撃的な色に染まっていた。
「皆様がどのようなお心積もりでここにおられるのか、分かりかねますけど。
我がクインベール家はこの婚姻に本気で向き合っております。私は王太子妃になるための教養は身に着けておりますし、今も研鑽しております。生半可なお気持ちでここにいらっしゃるのでしたら、お早めに退散されることをお勧めしますわ」
さっそく殴りかかってきたー!
栗色の美しい切れ長の目で、ルミニエール公爵令嬢と私を交互に眺めている。というか視線で殺しに来ている感じだ。なんなら私へは、侯爵家に適うわけないんだからさっさとお帰んなさい男爵令嬢、という命令めいた意思すら感じる。
この顔合わせで戦うべき相手はルミニエール公爵令嬢ただ一人と、定めてきているみたいだった。
ルミニエール公爵令嬢が、ぱらりと白いレースの扇を開いて口元を覆った。
「王太子妃になるための教養、とおっしゃいましたわね、ファリス様。その程度の覚悟では足りないのではなくて?
王太子妃の未来には正妃という大役が控えているのです。国の女性を代表する存在となるのです。わたくしは幼いころから正妃になるための教養を身に着けてきました。幸いなことにわたくしの叔母である、現正妃様からご指導いただくこともできますし。
王太子殿下……カルヴィン様の隣でつつがなく政務をお手伝いすることができるのは、このわたくしですわ」
カウンターで返してきたー!
ルミニエール公爵令嬢は扇で口元を隠しながらも目だけは爛々と光らせて、ファリス侯爵令嬢と私に目を向けている。私に至っては、何にもお勉強できてないことは分かっているから今すぐ諦めなさい辺境の男爵令嬢、という目で見てくる。
ファリス侯爵令嬢はふっと笑った。
「政務と言いましても。
現実的には、正妃様より側妃様の方が実績はおありですわね。外交などは正妃様より側妃様の方がうまく回るとか。
その正妃様からの教えを請う、とおっしゃられても」
「ファリス様は、正妃様を侮辱なさるの?!」
「とんでもない。正妃様もお忙しくお仕事をされていることはよく存じております。ですけど、側妃様に比べますと効率が、ねえ。
私は伝手がありますから、ゆくゆくは側妃様にお仕事の指南をうけようと思っていますの。だって、カルヴィン王太子殿下の、即戦力としてお役に立ちたいではないですか」
「この中で王太子殿下をよく知っているのはわたくしですわ。
わたくしとカルヴィン様は三歳のころから手を取って遊んだ幼馴染ですもの。カルヴィン様のおそばでずっと過ごしてきたわたくしは、カルヴィン様のお考えに最も寄り添うことができますわ」
「幼馴染のお遊びと、国の政務とは次元が違います。それを一緒にされるなんて浅はかでございませんか?」
「なんですって?!」
「まあまあまあまあまあ」
私は立ち上がって両手を広げた。
すごいぜ。初っ端から飛ばしてくるぜ、この二人。
私は座って「ちょっと落ち着いて、茶でも飲みましょう」と促した。二人のご令嬢は黙って紅茶を飲んだ。よくしゃべるから喉が渇いたのかもしれない。
私はお茶のついでにお菓子もつまんだ。ココアとプレーンの格子柄のクッキーが気になってたのだ。やっぱりね、さくさくほろりだ。うまーい。
おっと、扉の近くで控えている私の引率の目が紺色に光っている。分かってるって。食いすぎないって。
音もなくティーカップを置いて、ルミニエール公爵令嬢がファリス侯爵令嬢に顔を向けた。
「正妃派閥のわたくしが王太子妃になることで、現政権の体制は変わらず、混乱も少ないはずです。政権交代の混乱は国政の混乱を招きます。ひいては行政運営に滞りが生まれ、民衆の生活に影響が出てくるかもしれません。
社会秩序のためにも、現政権の維持は欠かせません」
「現政権の運営には綻びがあります、ルミニエール様。国家予算の配分に偏りがございますわよね。我がクインベール家では、私が王太子妃となった暁には、それなりの持参金でもって必要な部署に補填するつもりですわ」
「ファリス様、あなた方は王太子妃の座をお金で買おうとしてますの? なんてあさましい」
「現政権の不平等なやり方に憤りを感じている者がどれだけいるか分かってますの? 私たちはそれを正そうとしているまで。変革には大金がかかりますから、覚悟の上での持参金ですの。国のためを思ってのことですわ。
それをあさましく思うなんて、程度の低い」
「正当なやり方で政権も取れない、小さな集まりが何を吠えたって、こちらの耳には届きませんわ。せいぜい敵わない戯言でも呟いて、会議を賑やかにしてみてはいかが」
「何ですって?!」
「まあまあまあまあまあ」
「男爵令嬢のあなたは一体何なのですのっ?」
「何のためにここにいらっしゃいますのっ?」
再び立ち上がって両手を広げた私に、二人がそろって噛みついてきた。これ、とばっちりって言わない?
ここまで言葉の殴り合いになるとは思わなかった。ルミニエール公爵令嬢は見た目より気が強いし、ファリス侯爵令嬢は見た目通りプライドの塊。誰だよ、この二人の顔合わせ考えたやつ。トラブルになるの分かってただろ。
扉の方から濃紺の視線が突き刺さってきていた。セレナイト様がいい加減に始めろと催促してきている。
わかってるって。これからやるって。
私はこほんと、咳ばらいをした。
「えー、私としましては。
こちらにおられるお二人様は、王太子殿下の婚約者に相応しくない部分がありますので、それをお伝えしようかと」
「なっ……!」
「どういうことですの?!」
「この一か月、お二人のことをいろいろ調べてみたんです。その結果、王太子殿下の婚約者としては、問題視するべき要因がある、と判断しました。
どのような要因か、私の話を聞いていただけますか?」
ようやくアイサの仕事が始まりました。次回からアイサが喋りまくります。
冷静に話しているようで、頭ん中は目まぐるしく情報を検索しているアイサをお楽しみください




