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今回はちょっと短め。
次回最終話です
「づ、づがれだぁ」
ルミニエール様とファリス様が機嫌よく退室され、私はテーブルに突っ伏していた。
王太子妃候補の穏便な白紙化、任務完了。婚約阻止、成立。
頭に叩き込んだ情報、知識をフル回転させ、弁舌でもって角を立てることなくご令嬢を納得させる、という厄介な仕事をやり切ったのだ。
確かに筋立てはセレナイト様とカルヴィン様で作ってくれてたけどさ。実際にやるのは私一人なんだからね。
何が、誰にでもできる簡単な仕事だよ。誰だそんなタワゴト言ったヤツ。あの無表情の紺色した美形だ、ちくしょう。
部屋がなんだかざわついてきた。顔を上げると、セレナイト様に先導されてカルヴィン様が入室してきたのだ。王子様入室だ、高貴な方のお出ましだ。ご挨拶をば――うわあ!
「ああ、いいよアイサ、座ったままで」
「カルヴィン様、あのっ、この件の経緯は」
「全部聞いてた。このサロン、隣の部屋に筒抜けになるように設定されてるんだよね。覗き穴もいっぱいあるし」
「げえっ、カルヴィン様、隣にいたの?! 覗き穴って……だからこの部屋、壁際の装飾が入り組んでるの?!」
「よくやったね、アイサ」
カルヴィン様が慈愛のこもった眼差しをしながら、私の頭を撫でてくれた。優しい手がくすぐったい。なんだか面映ゆい。うわあ、王族の方に褒められてしまった。
でも、すぐにその手がなくなったのは、紺色の男がカルヴィン様の手を取ったからだ。
「お控えください、殿下」
「ラッセル、少しくらいいいじゃないか。私はアイサを労ってあげたいだけだよ」
「触れなくても労うことはできます」
「もう、ラッセル。
醜い嫉妬が滲み出ているよ。綺麗な顔して台無しだね」
「顔なんぞどうでもいいですし。
アイサは私のものですから」
しれっと私を自分のもの扱いしたセレナイト様。
いや、私はあんたのものじゃないけどね。よくもはっきり言い切ったな。
私の前に座ったカルヴィン様が、にこやかに紅茶を勧めてくれた。
ルミニエール様が私に投げつけて床に落ちてしまったお菓子は、いつの間にか片付けられていた。新しいお菓子と紅茶が提供されている。さすがお城勤めの侍女さんたちだ。仕事が早い。
遠慮なく紅茶をいただく。めっちゃ喋ったからね、喉くらい乾くよ。
「これで次のステップにすすめるよ、アイサ。助かった」
「よかったですね。この次のステップがあるんですね。
カルヴィン様が直々に動くような件なら、かなり大きな懸案でしょうねえ」
「なに、たいしたことはない。
紛争の絶えなかった隣国の姫と、私の婚姻がほぼ決定しているから」
「ぶふーっ!」
お茶、吹いた。
な、なんだって。
カルヴィン様、国内の婚約者候補がどうたらの裏側で、隣の国と結婚の交渉してたんかい。
もう、政治怖い。王侯貴族の政略結婚、本当に道具でしかないんだもん。愛だ恋だなんて絵に描いた餅だもん。
「……国内でぎゃあぎゃあしてるのを横目で見ながら。
平和協定のために、隣国の姫と愛を結ぼうとしていたんですね。カルヴィン様は身を挺して国のために尽くされる……」
「うん。お相手の姫は美人だし胸は大きいし、いいかなって」
「ああ、それはよかったですね……じゃない!
なんで時々、ものすごく俗っぽいんですか、殿下」
「それくらい思わないとやってられないよ、王族なんて。
まあ、この婚姻が結ばれたら私の発言力は強くなるし、派閥のじじい共を黙らせるくらいはできるかな」
「あー、そーすかー。それはよーございましたー」
「うわあ、アイサってば、すごく他人事ー」
くすくすとカルヴィン様が笑っている。爽やか王子様は、隣国の姫のこと、いとも簡単に誑かしてきたんだろうな。誠実そうなんだもん。
裏の顔さえ知らなければ。
カルヴィン様はふと私に身を乗り出してきた。
「本当はね、アイサのことはもっと近くに置きたかったんだけど、完全に先手を取られちゃったんだ」
「近くに置く? 先手? なんですか?」
「アイサを好きに使えたら楽しいだろうな、って思ってて。君、使い勝手いいだろう。
なんなら適当に伯爵家あたりに養子に入れてさ。それなりの釣り合いが取れたところで、正妃は無理でも側妃に迎えるとか、すごく面白いと思ってたんだ」
「はい? なんの話ですか? 養子? 側妃?」
「動き出そうとしたらね、ラッセルがもう先方と話をつけて、成立させたってさ。普段から仕事が早いんだけど、こんな時もソツがなくて嫌になるよ」
「……カルヴィン様、何言っているか、よく分かんないです」
「そう? すぐにわかると思うけど」
話の途中でカルヴィン様の元に伝令がやってきて、何事か耳打ちしていった。カルヴィン様は軽く頷いて、私に肩を竦めて見せた。
「仕事が入ったって。もう少しアイサと話していたかったのに」
「お仕事、頑張ってください。
カルヴィン様とは、これにてお別れですね。私、辺境に帰りますんで。もうお会いすることはないでしょう。お疲れ様でした。お世話になりました」
「ふふ。何言ってるの?」
カルヴィン様は身軽に立ち上がって私に軽く手を上げた。いたずらっぽいウインクはなんだろう。何かの合図なの?
「またね、アイサ」
そのまま去っていくカルヴィン様を見送って、私ははてと首を傾げた。首が真横になるくらい傾げてみた。
……ま た ね?
またねって、どういうことだろう。依頼された仕事終わったから、私は辺境に帰るだけなのに。
カルヴィン様、辺境で仕事でもあるのかな。でも王太子殿下がやって来るようなオオゴトの行事なんて、なかったはずだけど。うーん?
王太子殿下、根っから策士なもので。
次回、最終話。セレナイト様がぶっちゃけてはっちゃけます。




