半分死んでますが何か?2
そう菊子の背中に掛かる声は日向の声。
菊子は振り返った。
日向はスプーンと空のグラスを載せた白い皿を両手に持って菊子の直ぐ後ろにいた。
「うわっ、日向さん。いつの間に?」
驚く菊子に日向は呆れ顔で「何度も声掛けたろ」と言う。
「気が付きませんでした」と菊子。
「だろうな。どいてくれ」
シンクの前に立つ菊子に日向は言う。
「あ、お皿、わざわざ持って来て頂かなくても、そのままで良かったのに……」
シンクから避けながら菊子が言う。
日向はシンクの前に立ち食器をシンクに置いた。
日向の皿は綺麗だった。
「あ、クロエ、カレー? 残したから。辛すぎて食べられないって言って」
日向の台詞に、「そうですか……」と俯いて菊子は言う。
日向が蛇口を捻る。
水が流れる音がする。
菊子は俯いた顔を上げる。
「あの、クロエさんは今?」
「ああ、自分の家に着替えとか取りに戻ってる」
「そう……」
日向はラックからスポンジを取ると、それに洗剤をかけて皿を洗い出した。
菊子は「私がやりますから」と急いで言って日向の腕を何故か掴んだ。
日向が手を止めて菊子を見下ろす。
菊子は掴んだ日向の男らしい腕を、ぱっと離して、「ごめんなさい」と一言。
日向は菊子から目を逸らして再び皿を洗い始めた。
慣れた手つきだ。
菊子はもう何も言わなかった。
代わりに心の中で思った。
何でいるのよ?
何やってるのよ?
何が言いたいのよ?
また、何かあるの?
日向を見る代わりに蛇口から流れる水を菊子は眺めた。
しばらくそうしている。
ああ、砂時計みたいだな。
そんな事を菊子は思った。
日向の手が止まる。
「さっきは……言い過ぎた」
日向がぼそりとそう漏らす。
「えっ」
菊子の視線が日向に移る。
日向は蛇口を閉める。
きゅっと蛇口の音が鳴る。
水切りかごに皿を入れて日向は雑にハンドタオルで手を拭くと足早に扉の方へ歩き出した。
その間、日向は一度も菊子を見ない。
「私もっ!」
菊子は日向の背中に向かって声を掛ける。
日向は立ち止まる事無く扉からキッチンを出て行った。
「私も、言い過ぎた……」
菊子の台詞が日向に届いたかどうかは分からない。
菊子はシンクに残されたグラスを洗い始めた。
丁寧に、大切にしてグラスを洗う。
洗い終えると、グラスに曇りが無いかどうか良く見てみる。
グラスは透明で、そして輝いて見えた。
よし!
菊子はグラスをそっと水切りかごに入れた。




