クロエ、暴走16
ちょっと待って!
お待ちになって!
「あ、あの、ちょっと……」
一言物申そうと菊子が口を開くも、「それをクロエが俺の部屋の窓から見てたんだ。クロエはショックで倒れた後、暴れ出して、俺の部屋の物をめちゃくちゃに投げつけ始めたんだ」と日向が弾丸の様に言葉を発する。
「あの、私と目黒さん、いちゃついて何か無いですから。断じてないですから!」
どう見たらそう見えるんだ? と思いながら菊子は日向に訴える。
しかし、日向は目を細めて菊子を見て、「あれがいちゃついて無いとしたら何がいちゃついてるんだよ!」と言って来た。
菊子は、むっとして「何をどう見た訳ですか?」と日向に訊ねる。
日向は、はぁ? という顔をする。
「あんた、あにきに唇なんか触られてただろ」
「え? え、あ、ええ?」
多分、桜の花びらを取って貰った時のことだ、と菊子は思った。
あれ、日向さんとクロエちゃんに見られてた?
アウトだわ。
完全にアウトだわ。
目黒さーん!
あんたのせいやで!
「いえ、それは違くて、場所は唇じゃあ無くて、いや、そういう事じゃ無くて、あれはただ、私の顔に付いていた桜の花びらを取って貰っていただけで!」
「それだけじゃ無い!」
「は?」
「あにきに家族になろうって言われてただろ。どういう展開でそうなるんだよ!」
「はぁ? いや、違う、違う! あれ? 違うか?」
悩み出した菊子に日向は、「あれだけ気を付けてくれと頼んだのに、何やってんだ、あんた!」と怒り心頭という感じで言う。
「はぁ?」
私のせいですか?
何で私はこの人に怒られているんですか?
私が悪い?
何で?
何か冷たいものが菊子の頭から降りて来る。
「あの、随分、想像力が豊かなんですね。いや、想像力が足りないのかしら?」
菊子の台詞に日向は、ぴくりと眉を上げ、「あ? どういう意味だよ」と言う。
菊子は、くすりと笑い、「だって、そうでしょう? 女と男が一緒にいると見ると直ぐ、そっちの方に結び付けるなんて」と言う。
日向は眉間に皺を寄せて菊子を見る。
「そういうの、品が無いと思いません?」
菊子は日向に冷たい視線を向けてそう言った。
軽蔑している、そんな目だ。
「はあーっ?」
日向の盛大な声。
菊子は耳を塞ぎたくなる。
「あんた、じゃあ言わせて貰うが、家政婦として雇って貰ったからには友達って立場に甘える気は無いって言ってたよな。しかし、だ。家政婦の立場として、仕事中に雇い主のプライベートな空間にやすやすと入り込んで団らんしてるってどうなんだよ。それが家政婦のする仕事か? めちゃくちゃ友達としての立場に甘えた行為じゃねーか!」
「なっ……」
ぐうの音も出なかった。
菊子は確かに、と思ってしまった。




