クロエ、暴走13
雨に言われて菊子が下を見るとサンダルが三足置いてあった。
そのうちの一つが女性サイズであったので菊子はお盆に載せたコーヒーを零さない様に注意しながらそれを履いて雨の下へ向かった。
菊子がどうぞと雨にコーヒーを手渡す。
雨は、「ありがとう」と言ってコーヒーを一口飲むと、ため息を吐き出して「外でコーヒーも良いね」と言い菊子にもコーヒーを進めた。
菊子はお盆をどうしようかと悩む。
まさかお盆を持ったままコーヒーを飲む?
いや、別に良いけど。
「あ、お盆は下に置いて良いから」
雨に言われて菊子はその通りにする。
そして、コーヒーを一口。
うん、美味しい。
菊子はもう一口コーヒーを啜る。
雨の言う通り、外で飲むコーヒーの味は、また違って感じた。
黙ってコーヒーを飲んでいる雨に菊子は、「あの、目黒さん、さっきは申し訳ありませんでした。プライベートなスペースに勝手にお邪魔してしまって。そんなつもりじゃ無かったんです。ここに目黒さんの部屋に通じるデッキがある事も知らなかったし……私」と話す。
他人の家という事も忘れて勝手にふらふらするだなんてみっともない、と菊子は今になって反省していた。
雨はカップを膝に置いて菊子の顔を見る。
そして、笑う。
「別にいいよ。菊子が家で何したって。自分の家だと思って気楽にしててくれた方が嬉しいな」
「いえ、そんな訳には」
「家には菊子の部屋もあるんだし、自分の部屋があれば自分の家も同じだろ? だから別に気を使わなくてもいいよ」
「いやいや、本当、そう言う訳には行きませんよ。家族じゃ無いんだから」
「じゃあ、家族って事で」
「は?」
予想外の雨の台詞に菊子の顔は氷点下に凍り付く。
何それ?
それこそ、いやいや、本当そう言う訳には行きませんよ!
「家族として……じゃあ、目黒さんは隠居のおじい様ですね」
ここはいつもの冗談、とかわす菊子。
「あ、いいね。菊子は何だろう?」
嬉しそうに言う雨。
菊子の冗談が通じていない。
「何喜んでるんですか。まだまだそんな歳じゃあ無いんですからしっかりして下さい。隠居してる場合じゃ無いですよ。というか、目黒さんは隠居する様なタイプとは違うでしょ。絶対おじい様になっても飲み歩いてる」
「はははっ」
笑う雨に呆れながらも笑っている雨を見ていると菊子は気持ち良かった。
この笑顔にはやっぱり勝てないのかしら?
この笑顔一つで何でも許してしまいそうな自分に複雑な心境の菊子。
「あ、目黒さん、此処で何をしていたんですか?」
目黒さんと家族の話だなんて日向さんが聞いたら怒鳴り込んでくるわ。
話題を逸らす為の何となくの質問。
「ああ、庭を見ていたんだ。庭の花壇を」




