三極の選定天子9
「戦いの……邪魔をするナぁああああああああああ!」
ゼクトが飛び出す。身の丈ほどの腕装を振り被り地面を抉り取るように振り被る。
狙いは、静吉。自分たちの闘いの邪魔をした静吉を共通の敵として先に排除しようってのか? だったら静吉が危ない。
「動け、動け僕の体! 動け! 動け! うご、」
この感覚、動く! 指を動かした感覚。さっきまでの重たい体じゃない。静吉がぶっ飛んでくれたおかげかは知らないけど、情報再生の効果が切れてる。これなら静吉を助けに行ける!
僕は急いで立ち上がり体勢を崩しながらも静吉の下へ走った。
正直ゼクトの方が何倍も動きは速い。カミ子に吹き飛ばされたおかげで静吉は僕の近くにいるのが幸いだけど、タッチの差だった。
僕は静吉を拾い上げ、体ごと横っ飛びに避ける。ガオン! と空間ごと抉られるような風切り音が耳を通って体に怖気を走らせてくると同時に地面に突き刺さった拳の衝撃で体ごと吹き飛ぶ。
「ぐあぁっ!」
静吉を抱きしめながら地面を転がる。傷が痛む、体中が悲鳴を上げている。だけど、動く!
「静吉! 起きろ静吉!」
「何で……何で……? どうして!」
錯乱している。まあ無理はないだろうけど、今はそんなことをしている時間なんてないんだ。
「静吉! よく聞け!」
「ハッ……な、何きーちゃん?」
「再生情報で僕たちが多目的室にいたときのことを再生するんだ! ここから離脱する!」
「で、でも……でも」
「いいから早くしろ!」
「う、うん!」
すでに拳を振り下げたゼクトもこちらに目を向けて、カミ子も僕たちに指を向けている。
早く早く早く! ここから離脱しないと人を殺す勢いの二人にミキサーにされる!
静吉は瞳に涙を浮かべながら、慌てながらも慣れた手つきで自分と僕の腕にインスタントシールを張り付ける。
眼前に迫るゼクトの拳とカミ子の弾丸。それこそ当たる瞬間、目の前の光景はぐしゃぐしゃに散らかった室内へと転化した。
どうやら、元の場所に戻ってこれたみたいだ。
「ハァ、ハァ……何とか、逃げられたようだな」
本当に紙一重だった。縁起もなく本気で死ぬ覚悟をしてしまった。それほどあの二人の目つきは尋常じゃなかった。もはや、こちらの声に耳を傾けるなんてことをしないかもしれないほどに。
だけどそれ以上に、精神的にも肉体的にもまいってるのが隣にいる。
「嘘……だって、情報が操作できないなんて……おかしいじゃない。こんなの嘘よ。うぅ……痛い」
どうやら、認めたくないことを目の当たりにして現実逃避を起こしているようだ。
確かにさっきまでのあの喜びようからのこの落差。入念に準備してきたのに結果としてすべてが台無しになった。
言うなれば全ての用意が整い、公開を控えたの新しいテーマパーク。心を躍らせる人たちが多く待つ中に、巨大な隕石が飛来して全てを巻き込んでオジャンになった。楽しみを根本的から潰された心境とでも言えるか。
ネクスト・プライマルはこれで本当の終焉を迎えたと言っても過言じゃないだろう。
「認めろ。三立にあり得ないはない。お前が言ったんだ。もう、お前の計画はなくなったんだ」
「嘘……嘘……! 嘘よ!」
言葉を聞き入れずにお腹に手を当てながら機械のように呟いている。
「静吉。今からはあの二人を止めるためにどうするかを考えるんだ。完全にとん挫した今。二人は強大になっていくだけだ。それこそ、」
「とん挫なんてしてない! まだ……まだ他に手が……」
ダメだ。全く聞き入れていない。心ここにあらずと言った状態だ。
仕方ないと言えば仕方がない。崩街を肯定してまで熱望した計画だったんだ。最後の最後で大どんでん返し喰らって心がひっくり返るなんてのは往々にしてよくあることだし、それを認められないのもよくあることだ。
これは、静吉の力は借りられないかもしれない。
となると、やっぱり僕一人でどうにかしないといけないのか? 考えろ考えるんだ。
静吉の言葉通りならあの二人は今切磋琢磨してお互いの力を高め合っている。そして最終的にプログラムは高め合った力を収めきれずにパンクしこの異次元空間は崩壊。プログラム内で起きた出来事が現実世界へと引き継がれることになる。
そうなると大惨事は免れない。こんな破壊されまくった校舎が突然に現実になるんだ。どれだけの被害が出るか。
それにもう一つの恐ろしい事実がある。現状が引き継がれるということはゼクトとカミ子の今の状態が現実に引き継がれるということ。つまり現実世界に戻った二人はそのまま現実世界で暴れ続ける可能性がある。プログラムは学校のみで構築された異次元だけど現実世界は違う。もし今のまま引き継がれたら壊されるのは学校だけじゃない。街全体にも及ぶかもしれない。
無色透明の龍の時とは違う『物理的な崩街』が起きてしまうかもしれない。
本当はあの二人が街を壊すほどの大暴れするわけがないと思いたい。だけど今さっきの行動で確信した。あの二人は自分たちの戦いを邪魔しようとした静吉を本気で排除しにかかった。
あの二人は今、お互いを潰すことのみしか頭にないんだ。その邪魔をする者にも容赦をしない。まるで一つの意思で動く生き物になっている。
「どうやって止める? 今更学校の備品を使ってあの二人を止められるとは思えない。それかどっちかに味方して、あえて闘うことで闘いを止めるか……」
いや、それも無理だろう。カミ子に味方するのは論外。あいつの目的は僕を倒すことにあるんだ。さっきみたいにゼクトを倒すまで大人しくしてろと動けなくしてくるだろう。
「だったらゼクトは? ゼクトに味方したらうまくいくんじゃないか……」
そうも思った。けど今大事なことに気が付いた。あの二人と僕とじゃ根本的な力量が違い過ぎる。出来るとしたら妨害工作くらいで戦力にはならない。
「あの二人を何が何でも止めるなら、何とかして校舎の中に引き込んで大火事を起こして二人を物理的に動けなくするのは……ダメだ。あの二人が校舎の中におびき寄せられるとは思えないし火事の中をじっとしてるわけがない。車は? 公用車を使ってあの二人を吹き飛ばして動けなくして……いや、こっちが吹き飛ばされるのが目に見える」
あの手この手を考えたけど、全部が全部あの二人の物理的な力押しでどうにもならない気がしてならない。もしかしたらあの二人は今、三本柱の求める『問答無用』と『無尽蔵』の域に達し始めているんじゃないのか?
打つ手が思い浮かばない。万事休すか。このまま、手をこまねいて黙っているしかないのか。




