三極の選定天子8
「ギャアァリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリィイイイ!」
「意味わかんない叫び声あげて! アンタは牛か! こんのぉお!」
飛び交う鉄円柱。一つ一つが大砲のような巨大な塊でいくつも突き刺さっている校庭はまるで嵐が通った後のような凄惨。
そんな鉄円柱を全て避け、ゼクトは遠くから見てもまるで瞬間移動しているように感じられるスピードでカミ子の懐に飛び込もうとする。
その腕には身の丈ほどある大きな鋼鉄の手甲が装着され、一定の距離に入るとテレフォンパンチのように大きく振りかぶられる。
しかしカミ子の身に当たる直前、見えない死角にあるにもかかわらず寸分も違わずに幾層もの鉄円柱の盾が召喚され拳はカミ子に届くことはなかった。
一瞬の静止。カミ子はそれを見逃さずに直径三メートルはあるであろう陣から弩級の鉄円柱を撃ちだしゼクトが大きく吹き飛ぶ。
あれだけ大きく弾き飛ばされたゼクトが無事なわけがないと思った。だけど違った。
ゼクトのその風体が変わっていた。弾き飛ばされる直前。ゼクトは握り込んでいた鉄円柱の破片を錬金したのか巨大な甲冑のような武装を装着し、何事もなかったように着地し、またしてもカミ子に突っ込む。
それを幾度となく、絶え間なく二人は続けていた。高速で繰り広げられるゼクトとカミ子の戦いはそれこそ針の一本も刺し込めないほど激しいものだった。
「見ろ。これが現実だ。これがお前の望んだことなのか。地面を抉って、雄叫びをあげて、年端も行かない女の子があんなことになるのがお前の望みだったのか!」
「ええ……見てわかる。さっきまでとは全然違う力のぶつかり合い。明らかに彼女たちは進化してる。このまま数値を上げていって世界とゲートを生み出せるほどに成長すれば。君をこの世界から救うことができる」
「救うって何だよ! 世界を創ってどうしようってんだよ!」
「簡単だよ。きーちゃんも移り住むんだ。ウチときーちゃん。二人だけで新しい世界に行くのよ」
もう、何も言うまい。二人だけで新しい世界に行くなんて何が何だかわからない計画の露呈。と言うより崩街が起きて僕は計画から外されたんじゃないのか?
生み出した世界に僕を連れてくって、どこまでもネクスト・プライマル計画に組み込まれているじゃないか。
「新しい世界に行けるのは優秀な人材だけ。それに関してきーちゃんはクリアしてる。君はこの世界で誰よりも優秀であり発展に貢献し、希望を与えたからね。さぁて、まず暴走してる二人を止めないとね」
肩に担がれていた僕は優しく地面に下ろされる。
静吉は優しく微笑みかけてきたかと思えば両手の人差し指を立ててそれぞれがゼクトとカミ子を指す。指先で照準を合わせ、何かを撃ち込もうとしているのか?
「あの二人を止められるのか?」
「愚問ね。ウチは三立を生み出した一族の末裔よ。あの二人に陣を敷いて赤ん坊の時の記憶を再生させる。混じりっ気のない純粋な思考を持たせて私の言うことを聞いてもらう。そうすれば止めることができる」
つまり、あの二人を赤ん坊にして争うという意思そのものを退化させるということか。字面だけなら結構マッドな……ひどいほどマッドな内容だ。
だけど、何よりあの二人を止めるのが先決なら、ここは静吉のすることを静観した方がいいかもしれない。
「赤ん坊になったあの子たちをゆっくりと時間をかけて育てて、肥大した数値は机上の空論を生むに足りるものとなる。そして偶像召喚と願望錬金を完成させネクスト・プライマルは完遂する。やっと待ち望んだフィナーレが……やっと!」
「……やっぱダメだ静吉! ストップ! 嫌な予感しかしない!」
止めようとしたけど、やっぱり体が動いてくれない。立ち上がらない。
「再生情報。あの二人の過去を、再生して!」
叫びと共にゼクトとカミ子の正面に陣が敷かれる。
二人は陣を素通りする。高速で動いていたゼクトも、際限なく陣を撃ちだしていたカミ子も次第にその動きが衰えていき、喧騒どころか爆撃のように鳴り響いていた音が止み、二人は静かにその場に立ち尽くした。
止まったのか? 成功なのか。だけどこの成功に大手を振って喜んでいいのだろうか。
止まってしまったら、本当に静吉は二人を利用して、ただでは済まさないことをやろとする。
「やった。やったわ……! やったよきーちゃん! やっと、想像召喚と願望錬金の触媒を手に入れた。やっと君をこの世界から救うことができる!」
やったやったと声をかけてくるが、僕は素直にその声かけに応じる気なんて更々ない。
それよりも、嫌な予感がする。あの立ち尽くした二人、本当に止まったのか?
いや、止まってなんかいない。あの二人がこんなことで止まるはずがない。
「よし。カミ子君、ゼクト君。二人ともよく聞いて。君たちのお母さんはウチ、」
二人に近づいていった静吉の言葉が断ち切られる。
肺の中の空気を吐き出し、撃ちだされた鉄円柱をどってぱらに浴びて布切れのように転がり倒れる。
やっぱり、止まっていなかったんだ。成功なんて程遠い。
わかる。静吉の目論見は破たんしていたんだ。静吉の三立、再生情報の影響を物ともしないほどに二人は力を付けてしまったんだ。




