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三極の選定天子10

 となるとやはり、この状況を打破するにはあの二人と同じ3Vである静吉の力を借りるしかないってことか。

 しかし今のこいつ完全に上の空だ。僕が目線を送っても地面にへたれ込んでブツブツ言ってるだけだし。


 まあさっきどってぱらに鉄をぶち込まれたから動けないって言えば動けないかもしれないけど。


 

「静吉、大丈夫か? 痛いんなら保健室から何か持ってくるけど……」

「……大丈夫。これがあれば」



 そう言って取り出したのはインスタントシール。制服のボタンを外し、スルリと脱ぎ捨て、Yシャツの隙間からおへそ辺りを弄る。


 摩っている隙間からチラチラ見える浅黒い痣。カミ子のやつ、本当に容赦なく撃ち込んだみたいだな。



「……何、見てるのよ。人のけがを見て面白いの?」

「面白わけないだろ。ただ、今から何をしようってんだ」

「再生情報は過去を再生するのよ。自分の過去を呼び戻したら」



 静吉はインスタントシールを自分のお腹に貼り付ける。三立が発動したのかシールに貼られた陣が少しだけ光って、シールをはがすとさっきまであった痣が無くなっていた。



「再生情報は傷を治すこともできるのか」

「違う。傷を負う直前を再生しただけ。痣ができた結果がなくなったのよ。君の傷も治してあげる」



 立ち上がった静吉が手を伸ばしてくる。僕は反射的に避けてしまった。



「……何で避けるの?」

「何されるかわかったもんじゃないからな。また動けなくされたら厄介だ。と言うより運よく動けるようになってくれたおかげでお前を助けることもできたんだ。動けないと何にもできなかったからな」

「……もともとすぐ解けるように設定しといたのよ。永遠と赤ちゃんの状態にしとくわけにもいかないし……いか、ないし」



 言葉が掠れてるな。それに静吉の眼が潤んできてる。



「お前もしかして、泣いてんのか? また泣いてるかお前、」



 その瞬間に僕は覆いつくされた。零からの加速。静吉は一瞬で手を伸ばし、僕との距離を詰め、その長い両腕で体全体を包んできた。

 さっきやられたような抱擁だ。何だこいつ。何でこのタイミングで抱きついてくるんだ。


 だけどさっきのとは明らかに違う。優しく包み込んださっきの抱っことは違い、体中に力が入って抱き締めるというより締め付ける、恐怖からくる抱擁だ。



「おい、どうしたんだ静吉」

「ありがとう、きーちゃん。助けてくれて、本当に、死んじゃうんじゃないかって思った」



 その腕でギュッと締め付けてくる。怖かった。そりゃあ怖かっただろう。最高にハイになっていたところをどん底にまで突き落とされ、物理的に吹き飛ばされそうになった急展開。

 今のお前に余裕なんてものはないだろう。


 昔は僕が不安なときは優しく抱きしめてくれたな。

 だけど今回は違う。今だけ、僕がお前を受け入れよう。


 僕は抱き締めてくる静吉を優しく抱き返した。ぽんぽんと背中を叩いて、行動で大丈夫だよと応える。今初めて感じた静吉の弱い部分。どんなに取り繕っても、こいつもただの女の子なんだなって凄く感じ取れる。


 だけど、この状況でずっと抱き締め続けていても仕方がない。僕は優しく静吉を引き離す。



「いいか静吉。このままだとあの二人はプログラムをパンクさせて、現実世界も巻き込む、最悪の結果が起きる。崩街の再来だ」

「父さん。アナタの言った通り創造召喚と願望錬金を連れてきたのに……何でこんなことになるのよ」

「この状況をどうにかするにはお前の、静吉の力が必要なんだ。僕だけじゃどうにもならない。今必要なのはお前なんだ。頼む。突破口を開いてくれ」



 散々言っておいて、僕には何の力もない。

 昔のように世界最高の召喚術士ではない。目の前の泣いている女の子を頼るしかない弱い人間なんだ。


 この最悪の状況をどうにかするには静吉しかいないだ。お前が、最後の希望なんだ。


 静吉は潤んだ目で見つめてくる。僕は零れる涙を掬い、静吉は口を開いた。



「彼女たちにウチはもう干渉できない……ねぇきーちゃん。ウチと一緒にいてくれる? もう、淋しいのは嫌なの」



 弱弱しく、手が差し出される。

 何て弱いんだろう。こんなに脆くて、突いたら砂上の城のように崩れてしまいそうな女の子なんて僕は知らない。今目の前に僕の知る口鬼静はどこにもいなかった。


 少し間を置いて、優しく手を取った。



「どこにもいかないさ。今までずっと一緒だったんならこれからもずっと一緒だ。だから、これからもずっと一緒にいるために、どうするか一緒に考えよう。静吉」



 今までずっと一緒だったのならこれからもずっと一緒だ。僕の言葉と握手に静吉の表情は少しの変化だがとてもうれしそうだ。



「正直、ウチの力じゃあの二人は止められない。止められるのはきーちゃん、君だけよ」

「僕だけって、オイオイ。それこそ無理な話だ。あいつらはもはや小細工が通用する領域じゃなくなってる。何の力もない僕に何をしろって言うんだよ」

「そう。今の君は無能だよ。だけど『何かができる時代』があった。違う?」

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