三極の悪友3
「グヘェ。この恰好は……顔面はゴトゥディンですケド、ずいぶんと髪が長いですネぇ腰までありますヨ」
「これはウィッグって奴よ。ボイスレコーダーもあるわよ」
「ダァオ! これ完全に女の子の声ですヨ! ゴトゥディンって顔の割にすっごい渋い声なのに」
「きーちゃんは多才だからね。声真似得意で誰彼かまわずマネできて高低調節完璧だったからより美少女戦士って言われる要因になったし」
「流石ゴトゥディン……気持ち悪い」
本人を前にして気持ち悪いとは随分ナチュラルな畜生なことだ。僕のことを主とかどうとか言っていたくせにその言いよう。さてはこいつ口だけで忠誠心なんてハナから無いな。
「えーい僕の過去なんざどーでもいいし偏見持たれちゃうだろ! それより、お前がくれたシール。あれなんなんだ。ヒドイぼったくり商品だ」
これ以上二人を放置して置いたら僕の過去の痴態を根掘り葉掘りバラされることになるのが目に見える。とっとと話の本題に入ろう。特に何の話かを伝えるつもりはない。静吉なら言わなくてもわかっているはずだ。
「ぼったくりって……ああ、インスタントシール? あー……なるほど、ゼクト君に装着されたWRね」
「シールが暴走してこの子が呼び出されたんだ。懇切丁寧な説明を要求する」
「ん~……そうね」
顎を人差し指で撫ぜながら静吉は席を離れる。食堂の自動販売機に行き、缶コーヒーを買ってきては腰かけ、ゴクリの一口。
「話は変わるけど、」
「変わるな変えるな缶コーヒーを買っているんじゃない! 何でマイカップにお茶注いであんのに缶コーヒー買ってんだよ! 意味わかんねぇよ! 僕の質問に答えろ!」
「ズズ……コーヒーが飲みたくなったから買ったのよ」
「ソレの答えは別にいらないからな!」
「この人変わってますナゴトゥディン」
「ゼクト君ほどじゃないよ」
僕からすれば二人とも変人だよ!
「まあ本当に聞きなさい。これ結構大事な話だからさ。ウチじゃなくて理事長からの伝言よ」
「理事長? 見た人はいない幽霊理事長で学校の七不思議の理事長か」
公立でも私立でもない、三立のこの学園。もちろん理事長と言うものは存在する。しかし理事長の所在は誰も知らない。理事長なのに人前に出ない、もしくは代理の人を使って人前に出る、集会などの時の理事長の話もスピーカー放送越しで、しかも声に加工をしているありさまの理事長。ただ『存在する』という事実だけがあるのみ。
静吉と連絡を取り合っているって噂は聞いていたけど、噂は本当だったんだ。
「で、理事長がなんて言ってきたんだ」
「そうね。言ってしまえば、きーちゃんを引き渡すかどうかって話よ。理事長にゼクト君のことバレてるわよ」
「バレてって……何だってバ、」
「引き渡すって言うのはどういうことですカ? もしかして、サカナが原因ですカ!?」
隣でいきなり大声が! 僕が喋っている時に被せるんじゃない。
「とりあえず要点だけ纏めて説明をお願いする」
「そう、ね。何で理事長がゼクト君のことを知ったかは知らないけど。問題はゼクト君じゃなくて召喚したきーちゃん自身。君は机上の空論を発動させた。錬金術の『人間錬金』に並ぶ召喚術の机上の空論『人間召喚』。理事長はそのことを存在の三本柱に知らせるかどうか、迷っているらしいのよ」
「存在の三本柱……!」
これまた……大それたワードが出てきたな。
存在の三本柱。誰もが知る機関名。この世界が魔法がないことに絶望している最中にまるでタイミングを見計らったかのように世界に魔法の偽物である三立の技術を提供した謎多き集団。どの国に所属しているわけでもなく、かと言ってみなが知らない秘密結社でもない。国ではないが一つの国としての機能と権限、そして影響力を持つ三立の根幹機関だ。
「確かに……人間召喚を、机上の空論を発動させた以上引き渡されるのは当然か」
「そう。三本柱は机上の空論を欲しがってるし、それが世界との契約。不可能三立の机上の空論って言いかえれば『本物の魔法』だからね。発動した以上、三本柱に報告する義務がある。それにこの学校も魔法(三立)使いが出たってことを公表すれば評価も鰻上り。三本柱や国の支援なんて天井知らず。他の三立学校を足蹴にしても足りないくらいの地位が手に入るわ」
「つまり、ゴトゥディンを売るってことですカ? この学校は」
声のトーンを一つ落とし、ゼクトの言葉は空気どころか空間ごとぶった切る。売るなんて、随分と穏やかじゃない言葉選びだ。




