三極の悪友4
「そう言ってしまえば元も子もないけどきーちゃんに損があるってわけじゃない」
確かに報告して三本柱の下に行っても決して損だけじゃない。むしろ得することの方が多いかもしれない。
机上の空論の行使者となれば世界初の本物の魔法使いとして、それこそ英雄的扱いを受けるだろう。本物の魔法使いとなれば世界各国の要人やら貴族やらからも多くの支持を得られる。
きっと富から名声まで思うが儘だ。
「いいか。三立を使うやつらは誰しも本物の魔法使いになるために三立を学んでいるだ。三本柱が三立を世界に公布する代わりに、机上の空論を発動した者を真っ先に報告しろって契約があるってさっき言っただろ。この学校に所属している以上、机上の空論を発動すれば三本柱に引き渡されるってことも僕は理解はしているつもりだ」
そうだ。それが契約だ。三立を学ぶものは皆、三本柱の所有物であり、最終的には帰属する存在なんだ。今の生活が劇的に変わるだろうけど、これは栄誉あることだと思っている。
もっとも、机上の空論を発動させる力量が僕にあるはずがないので発動したのが本当に机上の空論であればの話だけど。
「そんなこと、サカナがさせません」
「……何でだい? きーちゃんは一言も嫌とは言ってないわよ」
「ゴトゥディンが何と言おうと、机上の空論なんてものはロクなものではありません。もしゴトゥディンが机上の空論を発動したと言うなら、サカナは全力で否定しますヨ。机上の空論なんて、『無色透明の龍』を見ていれば本当に、ロクなものではないことは明白ですヨ」
その言葉。確かに聞いた。なぜ記憶もないと言うのに机上の空論をロクでもないと言い切れるのか。なぜ無色透明の龍を見ていればと言ったのか。なぜ今、無色透明の龍と言うワードが出てきたのか。
僕は静吉に視線を送る。静吉は察してくれたのか黙ったまま頷いてくれた。
「君、お腹空いてないか? ここの食堂は見てわかると思うけど学校の食堂としてはかなり大きいし、なにより品ぞろえも豊富だ。見れば分かるだろう。お金渡すからなんか適当なもの買ってきてくれないか。一万円を渡すよ。これだけあれば好きなもの買えるだろ」
「ゴトゥディン。サカナはまだ話をしています」
「僕もお腹空いているんだ。頼む」
「ゴトゥディン、ですから」
「だから!」
僕はゼクトの肩を掴んだ。彼女の目をジッと見つめて、無言の要求をする。決して目は逸らさない。逸らされもしないし逸らさせもしない。ただずっと見つめ続ける。決して折れるつもりはない。
僕とゼクトは互いに見つめ続け、それこそ3分くらい見続けたかもしれない。粘って粘って、先に折れたのはゼクトだった。面倒くさそうにため息を吐いて、立ちあがる。
「サカナが作ったお弁当があるじゃないですカ」
「あれだけじゃ足りないんだ。お願いだ。買ってきてくれ」
「仕方ないですネ。ゴトゥディンの涙目からくる懇願を無下にできませんヨ。サカナ! 買い出しに行ってまいります!」
ゼクトは走り出し、給仕の列に突っ込んでいく。買い方を知らないのか、並んでいる生徒を薙ぎ倒していく様は一種の戦争を思わせもしてくる。
と言うか本当に買い方を分かっているのか? まあいいや。大事なのはこの場からあの子を追い出すことだからな。
「で、きーちゃんはゼクト君から何を感じたのかな~」
「……聞くな。どうせわかってんだろ」
「あっはっは。傷付くも何も当然の報いだよ。まあ、今となってはあんな堂々と君のことをロクデナシって言う人も少なくなってきてるんだけどね。かつての羨望、世界最高の召喚術士であり、机上の空論をこの世に顕現させた召喚術『偶像召喚』の使い手、天童源次郎がロクデナシだものね」
堂々とロクデナシと言われた。
ロクデナシは無色透明の龍のことだ。そして君のこととは僕のこと。そして無色透明の龍とは天童源次郎であり、主人公とは無色透明の龍であり、主人公は天童源次郎である。
過去。八年前。世界を震撼させた世界最悪の個人災害『崩街』を引き起こし、三立の先端を行き、牽引していた三立向上都市の三分の一を消滅させた召喚された机上の空論。
無色透明の龍とは僕が当時偶像召喚によって召喚した召喚獣であり、天童源次郎は世界で初めて机上の空論を世界に降臨させた英雄であり悪魔である。
忘れたわけではないけど、唐突に思い出させてくれたな。




