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第七十六話 通達

昼だった。


 パチンコ屋の中は相変わらず騒がしかった。


 爆音。


 光。


 煙草の臭い。


 熱気。


 全部が混ざっている。


 カイは入口から店内を見回した。


 すぐ見つかる。


 目立っていた。


 NO6ミック。


 金髪。


 赤いインコのメニー。


 そして死んだ魚みたいな目。


「……終わってんな」


 思わず呟いた。


 ミックの足元には空箱が積まれている。


 モニターを見る。


 大当たり。


 ゼロ。


 朝から打っているはずなのにゼロだった。


 メニーまで元気がない。


 玉を追う気力も失っている。


「おい」


 カイが声を掛ける。


 ミックが振り向いた。


 数秒。


 無言。


 それからため息を吐く。


「またお前か」


「またお前だな」


 ミックは椅子へ座り直した。


「何しに来た」


「聞きたいことがある」


「99、どうやって殺した」

 

 数秒の間。


「もう仕留めたし、まあいいか」

 

「その前に、あいつ何やってたか知ってる?」


「・・教えろ」


「反管理局の扇動」


「管理局へ恨みを持つものに手ほどき」


「構造接続のイメージ言語化して伝授」


「始末するには十分だ」


 闘技場。


 思えば。


 殺意は感じなかった。


 「挙句の果てには22や177と組んで管理局倒す準備」


 「拠点になりそうな建物に切り込み入れて壊せるようにしたり」


 「怪物管理局の拠点に放り込もうとしたりね」

 

 「こっちは失敗したみたいだけど」


 「それはお前らの都合だろ」


 「俺は世話になった」


 相変わらず台は当たらない。


 「それでどうするんだよ」


 カイはポケットからタブレットを取り出した。


 端が砕けている。


 そして何の前触れもなく放った。


 ミックが反射で掴む。


「何だ」


「やるよ」


 ミックが画面を見る。


 そして固まった。


 数秒。


 十秒。


 顔色が変わる。


 目が細くなる。


 もうパチンコどころではない。


「……お前」


 低い声だった。


「舐めてんのか」


 画面には計画した詳細な侵攻計画。


 東地区研究所群。


 侵入経路。


 補給線。


 警備予測。


 想定戦力。


 全部書かれている。


 ミックは立ち上がった。


 本気で怒っていた。


「これが何か分かってるのか」


「分かってる」


「研究所襲撃計画だぞ」


「そうだな」


「俺を何だと思ってる」


「NO6」


 即答だった。


 だから渡した。


 そういう意味だった。


 ミックは数秒黙る。


 そして舌打ちした。


「馬鹿だろお前」


「知ってる」


「知ってるじゃねえ」


 メニーが肩へ飛び乗る。


 ミックは端末を閉じた。


「本気か」


「本気だ」


「止めるぞ」


「止めれるならな」


 カイは立ち上がる。


 そして言った。


「全力で来い」


 ミックの目が変わった。


 完全に仕事の顔だった。


 NO6の顔。


「後悔するぞ」


「しねえよ」


「そうか」


 短く言う。


 そして歩き出した。


 もう話は終わっていた。


 ミックは店を出る。


 迷わない。


 一直線だった。


 カイはその背中を見送る。


 タマが隣へ来る。


 黒い耳が揺れた。


カイは何も言わない。


タマだけがこちらを見る。


「何だよ」


赤い目。


「嘘は書いてねえよ」


少し間。


「全部じゃないだけだ」


「行くぞ」


 次の場所は決まっていた。


 夕方。


 ハンター本部。


 古い倉庫を改造した建物だった。


 中には武器。


 弾薬。


 酒。


 人。


 全部がある。


 ワイトは机の上へ足を乗せていた。


 話を聞いている途中で煙草へ火を付ける。


「面白えな」


 第一声だった。


 カイは壁にもたれる。


 エストは腕を組む。


 メルは端末を弄っている。


「今しかねえ」


 カイが言う。


「NO22死亡」


「NO6機能不全」


「管理局も混乱してる」


 ワイトは笑う。


「だから研究所襲うのか」


「ああ」


 沈黙。


 そして。


 ワイトが立ち上がった。


「乗った」


 即答だった。


 周囲がざわつく。


「マジかよ」


「東地区だぞ」


「管理局本拠地だぞ」


 誰かが言う。


 ワイトは振り向く。


「だからだ」


 一言だった。


 全員黙る。


「今しかねえ」


「管理局が弱る機会なんて二度と来ねえ」


 ハンター達の目が変わる。


 欲望。


 興奮。


 期待。


 色々混ざっていた。


 エストが横から言う。


「まだ足りない」


「何が」


「理由だ」


 エスト。


 端末を取り出す。


 数秒後。


 巨大モニターが点灯した。


 賭博市場。


 倍率表示。


 金額表示。


 参加人数。


 全部出る。


「研究所防衛成功」


 倍率。


 1.4倍。


「ハンター侵入成功」


 4.1倍。


「東地区突破」


 16倍。


 場内がざわつく。


「準備にしておいた」


「ある程度抜いたオッズにしてある」


 ワイトは笑う。


「全員賭けろ」


 誰も反論しない。


「ハンター側にな」


 さらに笑う。


「逃げる奴を出さねえ」


 歓声が上がる。


「勝ったら大金持ち」


「負けたら破滅だ」


 誰かが叫ぶ。


「いつも通りじゃねえか!」


 爆笑が起きる。


 ワイトも笑った。


「そうだ」


「分かりやすいだろ」


「装備と弾薬は出せるだけ出させる」


 カイはその様子を見ていた。


 狂っている。


 だが第4都市らしかった。


 生きる。


 賭ける。


 負ける。


 また賭ける。


 それがこの街だった。


 その頃。


 管理局本部。


 ミックは会議室の扉を蹴り開けていた。


 幹部達が振り向く。


 ミックはタブレットを机へ叩き付けた。


「非常事態だ」


 静まり返る会議室。


 画面には研究所群侵攻計画。


 詳細。


 経路。


 戦力。


 全部載っている。


 ミックは全員を見渡した。


「舐めてる場合じゃねえ」


 そして低く言う。


「本当に来るぞ」


 東地区を巡る戦いは、静かに動き始めていた。


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