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第六十八話 理解不能

メニーの鳴き声と同時に、五機のドローンが一斉に展開した。


 赤い照準が夜の空気を切り裂く。


 ミックは迷わなかった。


 右手の操作パネルを叩く。


 レーザー起動。


 ミサイル起動。


 遠隔射撃起動。


 中央管理局NO6。


 管理局でも上位戦力に分類される男だった。


 だからこそ理解できなかった。


 目の前の老人が、なぜ平然としているのか。


「終わりだ」


 ミックが言う。


ドローンが動く。


 レーザーが発射された。


 だが。


 一機目が突然大きく揺れた。


 照準が僅かにずれる。


 レーザーが外れる。


 後方の壁へ突き刺さった。


 爆発。


 瓦礫が吹き飛ぶ。


 カイは目を細めた。


 偶然か。


 そう思った。


だが。


 二機目が急降下した。


 何かにぶつかったように機体が回転する。


 制御不能。


 そのまま三機目へ衝突。


 火花。


 警告音。


 墜落。


「……は?」


 ミックの口から声が漏れた。


 おかしい。


 あり得ない。


 この程度の機体じゃない。


 毎日整備している。


 昨日も確認した。


 異常はなかった。


 なのに。


 二機同時に落ちた。


 タリムは動かない。


ただ立っている。


 腰の包丁袋に手を添えたまま。


 魚屋の店先で客を待っている時と変わらない姿勢だった。


 カイはその姿を見ていた。


 何をした。


 何が起きた。


 何が原因だ。


 頭の中で勝手に組み立てが始まる。


 ドローン。


 回転。


 振動。


 気流。


 重心。


 接触。


 故障。


 違う。


 何かが足りない。


 もう一度組み立てる。


 だが繋がらない。


 理由が見つからない。


「ミック」


 タリムが言った。


「下がれ」


「ふざけるな」


 ミックが即座に返す。


 拳銃を抜いた。


 発砲。


 銃声が響く。


 弾丸が飛ぶ。


 その瞬間。


 足元の瓦礫が崩れた。


 ほんの僅か。


靴が滑る。


 照準が狂う。


 弾丸はタリムの横を通り過ぎた。


 壁へ当たる。


 ミック自身が一番驚いていた。


「何だよ……」


 額に汗が滲む。


 まただ。


 さっきから全部狂う。


 ほんの少し。


 ほんの数センチ。


 ほんの一秒。


それだけなのに。


 全部が噛み合わない。


 メニーが激しく鳴いた。


 空を旋回する。


 危険を伝えている。


 ミックも分かっていた。


 目の前の老人が何かしている。


 だが。


 何をしているのかが分からない。


 カイも同じだった。


 観察する。


 見る。


 考える。


 繋げる。


それが自分のやり方だった。


 今までは理解できた。


 能力も。


 因子も。


 怪物も。


 全部。


 だが。


 タリムだけは違う。


 何も見えない。


 何も分からない。


 原因が存在しない。


 あり得ない。


 そんな現象だった。


 残った三機のドローンが同時にミサイルを発射する。


 轟音。


 煙。


 閃光。


 その直後。


 ミサイルの一発が空中で別のミサイルへ接触した。


 爆発。


 誘爆。


 二つが消える。


 最後の一発だけが飛ぶ。


 だが。


 風が吹いた。


 瓦礫が舞う。


 破片が機体へ当たる。


 わずかな軌道ずれ。


 ミサイルはタリムではなく、崩れたビルへ突っ込んだ。


 爆発。


 建物が揺れる。


 巨大なコンクリート片が落下した。


 ミックは反射的に飛び退く。


 直撃を避ける。


 だが着地した瞬間。


 膝が崩れた。


「っ!」


 痛み。


 捻った。


 たったそれだけ。


 たったそれだけだった。


 なのに。


 致命的だった。


 ミックは地面へ片膝をつく。


 タリムは近付かない。


 追撃もしない。


 ただ見ている。


 静かに。


 じっと。


 ミックを見ている。


「お前……」


 ミックの顔から余裕が消えていた。


 理解した。


 いや。


 理解したくなかった。


 それでも分かった。


「お前……切ったのか」


 タリムは答える。


「ああ」


「仕舞だな」


 短かった。


 当たり前みたいに。


 魚の種類を答えるみたいに。


 カイは動けなかった。


 理解できない。


 ミックの顔色が変わる。


 初めてだった。


 中央管理局NO6が。


 本気で恐怖を見せたのは。


 そして。


 カイは気付かなかった。


 タリムの口元から、一筋の血が流れていたことに。


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