第六十話 帰還
煙が晴れていく。
瓦礫。
崩れたビル。
割れた道路。
灰街は半分消えていた。
その中心。
一つだけ残っていた。
黒い結晶。
拳大。
構造接続。
微かに残っている。
五番目と同じ流れ。
吸いきれなかったのか。
脈打っている。
微かに。
まだ生きているみたいに。
タマが動いた。
ゆっくり。
結晶へ近付く。
赤い目。
動かない。
その瞬間。
黒い霧が広がった。
結晶を包む。
吸い込む。
結晶は抵抗しなかった。
静かに。
自然に。
元の場所へ帰るみたいに。
消えた。
タマの身体が収縮する。
小さく。
さらに小さく。
次の瞬間。
元へ戻る。
静寂。
終わった。
そう思った時だった。
カイの目が止まる。
タマ。
黒い霧。
その輪郭。
一瞬だけ。
手に見えた。
人間の。
細い指。
次の瞬間には消えていた。
「……今の」
見間違いか。
分からない。
タマは何も答えない。
ただ。
赤い目だけがこちらを見ていた。
そして。
頭の奥へ声が響く。
今までで一番静かだった。
『帰った』
それだけだった。
近くのビル横。
瓦礫が動いた。
177が這い出してくる。
「……終わりか?」
血だらけだった。
それでも笑っていた。
灰街に風が吹く。
遠く。
老婆が泣き止んでいた。
耳を押さえていない。
震えてもいない。
声が消えたのだと分かった。
怪物は終わった。
老婆が聞いていた声も消えた。
カイは空を見る。
灰色の雲。
静かな夜。
カイはタマを見る。
いつもの黒い霧。
赤い目。
何も変わっていない。
なのに。
もう同じものには見えなかった。




