第五十九話 崩壊
灰街が揺れていた。
怪物の咆哮。
引力。
電流。
全部が同時に暴れている。
瓦礫が浮く。
車が飛ぶ。
崩れたビルの壁面が引き剥がされる。
街そのものが悲鳴を上げていた。
177だけが笑っていた。
「最高だ!」
巨大化した腕。
ハンマー。
一直線。
怪物へ突っ込む。
轟音。
衝突。
地面が割れた。
怪物が後退する。
だが倒れない。
胸の核。
首の核。
腹の核。
右脚の核。
赤黒く脈打っている。
五番目を失った今も。
まだ動いていた。
怪物が吠える。
引力。
周囲の瓦礫が一斉に177へ向かう。
鉄骨。
車。
コンクリート。
全部。
177は笑った。
巨大化した左腕でまとめて叩く。
粉砕。
爆発みたいに破片が飛び散った。
「もっと来い!」
楽しそうだった。
怪物が電流を放つ。
青白い閃光。
177の身体が吹き飛ぶ。
ビルへ激突。
壁が崩れる。
だが。
数秒後。
瓦礫の中から笑い声が聞こえた。
「いいな!」
立ち上がる。
血だらけ。
それでも笑っている。
ミックが呆れた顔をした。
「本当に人間か?」
「多分違う」
カイも同意した。
その間にも怪物は暴れ続ける。
引力。
電流。
破砕。
能力同士が干渉している。
おかしい。
昨日までより明らかに荒い。
カイは目を細める。
怪物を見る。
核を見る。
脈動を見る。
動きを追う。
何かが変わっている。
五番目が消えた。
そこから全部がおかしくなった。
怪物が踏み込む。
右脚。
遅れる。
胸。
脈動が乱れる。
首。
電流が暴発する。
左肩。
動きが噛み合わない。
止まる。
カイの目が開いた。
「違う」
ミックが振り返る。
「何だ」
「核じゃない」
怪物を見る。
脈動。
配置。
流れ。
全部。
繋がる。
頭の中で。
初めて。
理解できた。
「五番目だ」
怪物が咆哮する。
ビルの窓が砕ける。
だがカイは見ていた。
胸。
首。
腹。
右脚。
全部違う。
元々別だった。
別の生き物。
別の因子。
別の構造。
それを一つにしていた。
五番目が。
「接続核だ」
ミックが止まる。
「接続?」
「四つを繋いでた」
怪物を見る。
今は無い。
だから崩れている。
だから暴走している。
だから。
左胸が遅れる。
全部そこから始まっている。
怪物が再び177へ襲い掛かる。
巨大な腕。
引力。
瓦礫の嵐。
177が受け止める。
踏ん張る。
地面が沈む。
だが押される。
初めてだった。
177の顔から笑みが消える。
ほんの少しだけ。
本気になった。
「おい!」
カイが叫ぶ。
177が見る。
「左胸だ!」
怪物。
突進。
瓦礫。
電流。
全部同時。
だが。
左胸の下。
そこだけが遅れる。
「そこを壊せ!」
177が笑った。
また。
いつもの顔だった。
「最初からそう言え!」
巨大な腕が膨れ上がる。
さらに大きく。
さらに太く。
筋肉が軋む。
骨が鳴る。
ミックが顔色を変えた。
「おい待て」
177は止まらない。
踏み込む。
地面が爆発した。
一瞬で怪物の懐へ入る。
怪物が引力を発動する。
瓦礫。
鉄骨。
全部。
177へ集まる。
だが遅い。
四つの流れが左胸で交わっている。
だが。
今は繋がっていない。
空白。
構造上の穴。
拳が振り抜かれる。
左胸。
その直前。
空洞。
そこへ拳が届く。
直撃。
世界が揺れた。
怪物の身体が浮く。
着地しない。
崩れる。
首。
脈動が止まる。
胸。
止まる。
腹。
右脚。
一つずつ。
消えていく。
視界が白く染まった。
カイは腕で顔を庇う。
風。
衝撃。
破片。
全部が通り過ぎる。
数秒後。
煙が晴れる。
誰も動かなかった。
怪物。
177。
両方とも見えない。
静寂。
そして。
煙の向こうで何かが動いた。
カイは目を細める。




