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第五十七話 保管番号

地面は完全に崩れていた。


 第四研究区地下。


 第零保管庫。


 巨大な空洞が口を開けている。


 怪物はその前で止まっていた。


 動かない。


 地下を見ている。


 じっと。


 まるで何かを待っているみたいだった。


 177が笑う。


「降りるか?」


「待て」


 カイは怪物を見ていた。


 おかしい。


 探していた。


 掘り当てた。


 なのに入らない。


 入り口は崩れている。


 人間なら通れる。


 だが怪物には狭すぎた。


 六メートル。


 あの巨体では無理だった。


「入れないのか」


 思わず呟く。


 怪物は反応しない。


 だが否定もしなかった。


 ミックが肩を竦める。


「つまり俺達に行けってことか」


「知らん」


「嫌な予感しかしない」


 177だけが楽しそうだった。


「面白そうだ」


 いつも通りだった。


 崩れた通路を降りる。


 タマも付いてくる。


 赤い目が暗闇に浮いていた。


 地下は異様に広かった。


 研究施設というより倉庫だった。


 天井。


 壁。


 床。


 全部が古い。


 第四研究区の構造と違う。


 もっと前。


 もっと古い。


 カイは壁へ触れた。


 素材も違う。


 管理局以前。


 そんな気がした。


 数分後。


 第零保管庫。


 文字が残っている。


 半分消えている。


 だが読めた。


 中は暗かった。


 ミックが照明を向ける。


 誰も喋らなかった。


 空だったからだ。


 広い。


 異常なほど広い。


「研究所のくせに扉1つもねえな」


「通りやすくていいな」


 177が笑う。


 保管庫。


 なのに空。


 少し行くと、唸り声。


 不快な、怨嗟を含んだ声。


 「気持ち悪い、何がある」


 ミックが最初に声を出した。


 「何がいる」


 カイは歩いた。


 床を見る。


 壁を見る。


 棚を見る。


 そして止まる。


 保管ラック。


 番号が振られていた。


 1。


 2。


 3。


 4。


 5。


 6。


 7。


 ラックの大半には何かが残っていた。


 骨。


 黒ずんだ肉塊。


 液体だけが残った容器。


 三番。


 出来損ないの心臓なようなもの。


 まだ脈打っている。


 カイが顔をしかめる。


 「悪趣味すぎるだろ」


 「作った奴、性能以外どうでもよかったんだろうな」


  ミックが笑う。


 「そんな感じするな」


 「キモイぞ!」


 177がハンマーを振り下ろした。


 潰れる。


 肉。


 液体。


 嫌な音。


 そして。


 唸り声が止まった。


 カイは壊れたラックを見る。


 他は残っている。


 ここだけだ。


 7だけ壊れてる。


 偶然には見えなかった。


 内側から引き裂かれたみたいに。


 カイの目が細くなる。


「何が入ってた」


 誰も答えない。


 当然だった。


 ミックが端末を操作する。


 中央データへ接続。


 検索。


 数秒。


 結果。


 ヒット無し。


「あり得ない」


 珍しく真顔だった。


「何だ」


「保管庫の記録が無い」


 ミックは画面を見たまま言う。


「削除されてる」


 カイは黙る。


 管理局が消した。


 消さなければならない何かがあった。


 その時だった。


 タマが動いた。


 一直線。


 保管庫奥。


 壊れた7番ラック。


 その前で止まる。


 赤い目。


 床を見ている。


 カイも近付いた。


 床。


 傷。


 古い血痕。


 そして。


 壁。


 文字。


 掠れている。


 読めない。


 だが。


 一部分だけ残っていた。


 ――被験体776


 呼吸が止まる。


 ミックも止まる。


 177だけが事情を知らない。


「知り合いか?」


 冗談みたいに聞く。


 誰も笑わなかった。


 カイは壁を見続ける。


 776。


 自分の番号。


 偶然じゃない。


 偶然のはずがない。


 第零保管庫。


 その時だった。


 頭の奥。


 タマの声。


 今までで一番はっきりしていた。


 『いた』


 カイが振り返る。


 タマは壁を見ていた。


 赤い目。


 動かない。


 そして。


 保管庫全体が小さく震えた。

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