第五十六話 保管庫
怪物は止まらなかった。
灰街の中心部を一直線に進んでいく。
瓦礫が浮く。
車が滑る。
街灯が倒れる。
全部。
怪物へ向かって引き寄せられていた。
177が追う。
笑いながら。
「待てって!」
当然待たない。
ミックが呆れた顔をした。
「アイツ毎回あんなのか?」
「大体」
「よく生きてるな」
「同感」
カイは怪物から目を離さなかった。
気になる。
強さじゃない。
動きだった。
怪物は戦っているように見えた。
だが違う。
進んでいる。
何かを目指している。
そこが引っ掛かっていた。
前方。
怪物が立ち止まる。
崩れた区画。
古い研究施設跡だった。
建物は半分以上埋まっている。
壁も天井も崩落している。
だが。
怪物はそこを見ていた。
動かない。
「何だ?」
177も止まった。
怪物が低く唸る。
次の瞬間。
周囲の瓦礫が一斉に浮いた。
轟音。
崩落。
施設跡が掘り返される。
地面ごと。
建物ごと。
無理やり。
「掘ってる……?」
ミックが呟いた。
カイも同じ結論だった。
怪物は戦っていない。
探している。
そして。
掘っている。
その時だった。
構造接続。
怪物を見る。
脈動。
首。
胸。
腹。
右脚。
四つ。
そこまでは見た。
だが。
違和感。
もう一度見る。
脈動。
僅か。
背中。
皮膚の奥。
五つ目。
カイの目が細くなる。
「違う」
ミックが振り返った。
「何が」
「核」
怪物を見る。
「五つある」
沈黙。
「資料じゃ四体融合だぞ」
「なら一つ余計だ」
気持ち悪かった。
融合した因子獣は四体。
なのに核は五つ。
合わない。
何かが混ざっている。
その時だった。
遠く。
悲鳴。
老婆だった。
まだ生きていた。
研究施設跡の近く。
耳を押さえて泣いている。
「止めて……!」
怪物は反応しない。
それでも老婆は泣き続けていた。
「嫌だ……!」
カイは走った。
老婆の前でしゃがみ込む。
「聞こえるのか」
老婆は震えていた。
「ずっと」
「怪物か」
首を振る。
激しく。
「違う」
カイが止まる。
タマも止まる。
「怪物じゃない」
老婆の目から涙が落ちる。
「地下」
その言葉で空気が変わった。
「地下から聞こえる」
呼吸が止まりそうになる。
怪物じゃない。
なら。
何だ。
その時だった。
轟音。
研究施設跡が完全に崩れた。
地面が割れる。
地下空間。
巨大な空洞が姿を現した。
怪物が中を見る。
動かない。
まるで。
探していたものを見つけたみたいに。
177が笑った。
「当たりか?」
誰も答えない。
カイは崩れた壁を見ていた。
古い文字。
半分埋もれている。
だが読めた。
第四研究区。
その下。
さらに小さな文字。
カイの呼吸が止まる。
――第零保管庫。
知らない名前だった。
資料にも無かった。
ロイも言わなかった。
第四研究区の地下。
まだ何かある。
その瞬間。
タマが低く唸った。
赤い目。
地下を見ている。
そして。
頭の奥で声が響いた。
『そこだ』
初めてだった。
これほどはっきり聞こえたのは。
怪物が動く。
地下へ降りようとする。
だが。
体が大きすぎて入れない。
「ガアアアアアアアアアアアア!」
地面が震える。
177が笑う。
「お前は待ってろ」
ミックが拳銃を抜く。
カイは壁の文字を見続けていた。
第零保管庫。
気になる。
嫌になるほど。
そして。
その先にある答えを知りたかった。




