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第五十四話 中心

パチパチ。


 後ろから拍手が聞こえた。


「おお」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


 177だった。


 相変わらずだった。


 長コート。


 巨大なハンマー。


 笑っている。


「面白そうな顔してるな」


「何でいる」


「暇だった」


 理由になっていなかった。


 本人は満足そうだった。


「怪物狩りだろ?」


「知ってる」


「面白そうだった」


 予想通りだった。


 カイはため息を吐いた。


 177は怪物より潰れた輸送車を見ていた。


「これやったのか」


「多分」


「いいな」


 何がいいのか分からなかった。


 177は本気で楽しそうだった。


 空から羽音が聞こえた。


 二人とも見上げる。


 小型ドローン。


 三機。


 灰色。


 高速で接近してくる。


 そして停止。


「お前らもいるのかよ」


 今度は別の声だった。


若い男。


無精髭。


肩には赤いインコ。


カイの足が止まる。


「……お前」


男が笑った。


「あ、パチンコの」


177が二人を見る。


「知り合いか?」


「昨日会った」


「へえ」


177が笑う。


「そいつNO6だぞ」


「……は?」


ミックは端末を操作しながら答える。


怪物がいるらしき方向を見ている。


「聞いたから」


「何を」


「でっかいのがいるって」


「誰に」


「中央」


「仕事か?」


ミックは少し考えた。


「違う」


「面白そうだったから」


 177だけが笑っていた。


 ドローンが上空へ上がる。


 映像がパネルへ映し出される。


 ミックの表情が変わった。


「見つけた」


 三人が覗き込む。


 映像。


 街中心部。


 崩れた商業施設。


 その奥。


 巨大な影。


 いた。


 六メートル級。


 黒い。


 歪んでいる。


 獣に見える。


 人にも見える。


 輪郭が安定しない。


「デカいな」


 177が楽しそうに言う。


 だがカイは別の場所を見ていた。


 怪物じゃない。


 周囲だった。


 瓦礫。


 車。


 看板。


 全部が動いている。


「止めろ」


 ミックが映像を停止した。


 拡大。


 さらに拡大。


 車が動いている。


 いや。


 滑っている。


 怪物へ向かって。


 看板も。


 瓦礫も。


 全部。


 中心へ。


 引き寄せられていた。


「……近付いてるんじゃない」


 カイが呟く。


「周りが吸われてる」


 ミックの眉が上がった。


「分かるのか?」


「分かる」


 構造接続。


 違和感が繋がる。


 輸送車。


 鉄骨。


 ビル。


 全部同じだった。


 怪物が壊したんじゃない。


 引き寄せられて壊れた。


「引力系か」


 ミックが小さく呟く。


 その瞬間だった。


 映像が揺れた。


 ノイズ。


 画面が乱れる。


 怪物が顔を上げた。


 遠距離。


 数キロ以上離れている。


 なのに。


 目が合った気がした。


「バレたな」


 177が笑った。


 次の瞬間。


 ドローンが一機消えた。


 映像ごと。


 何も無かったみたいに。


 爆発音すら無い。


「は?」


 ミックの顔色が変わる。


 残り二機。


 急上昇。


 逃がす。


 177だけが笑っていた。


「いいな」


 楽しそうだった。


「最高じゃねぇか」


 そして歩き出す。


 怪物の方へ。


「待て」


 カイが言う。


 無視。


 当然だった。


 177は止まらない。


 瓦礫を飛び越える。


 一直線。


 灰街中心部へ向かう。


「おい!」


 ミックも叫ぶ。


 無駄だった。


 遠く。


 轟音。


 地面が揺れる。


 ビルの向こう。


 巨大な腕が一瞬だけ見えた。


 そして。


 177の笑い声だけが聞こえた。


「やっぱ最高だ!」


 カイは眉を寄せる。


 嫌な予感しかしない。


 だが。


 同時に。


 怪物の構造が気になって仕方なかった。


 引力。


 電流。


 そして。


 まだ見えていない何か。


 灰街の夜は終わりそうになかった。


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