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第五十話 777

夜。


ネオン。


雨上がりだった。


カイは久しぶりにパチンコ店へ入った。


爆音。


光。


煙草の匂い。


頭が痛くなる。


だが嫌いじゃない。


席へ座る。


千円札を入れる。


液晶が回り始めた。


タマは足元で丸くなっている。


最近は大人しい。


残響アンプルを手に入れてからだ。


理由は分からない。


その時。


隣の席へ誰かが座った。


缶コーヒーを置く音。


視線を向ける。


男だった。


小柄。


ラフなシャツ。


サンダル。


肩には赤いインコ。


妙に場違いだった。


男は液晶を見たまま言う。


「この店、回る?」


カイは鼻を鳴らした。


ほんの、ごくわずかな血の匂い。


「死ぬほど回る」


男は笑う。


「いいね」


レバーを叩く。


回転。


一回。


止まる。


7。


7。


7。


爆音。


ファンファーレ。


周囲の客が振り返る。


男は目を丸くした。


「あ、当たった」


カイは吹き出した。


「気持ち悪ぃな」


男は笑う。


「よく言われる」


もう一回。


また当たる。


さらにもう一回。


また777。


止まらない。


カイは液晶ではなく男を見る。


呼吸。


一定。


肩。


力が入っていない。


視線。


普通。


指先。


癖もない。


構造接続が勝手に始まる。


筋肉。


重心。


反応速度。


全部見る。


だが。


何も見えない。


異常が無い。


理由が無い。


なのに当たる。


また777。


カイの眉が寄る。


「……何だお前」


男は首を傾げた。


「何が?」


「当たる理由が見えねえ」


男は少しだけ笑う。


「見えないものもあるんじゃない?」


その言葉が妙に引っ掛かった。


タマが立ち上がる。


黒い霧。


赤いインコを見る。


インコもタマを見る。


互いに鳴かない。


ただ見ている。


頭の奥。


違和感。


『見えない』


カイは止まる。


今度はタマだった。


『深い』


珍しい反応だった。


タマですら理解できていない。


男は何も知らない顔でコーヒーを飲んでいる。


それが余計に気持ち悪かった。


数時間。


遊んだ。


閉店。


二人は店を出る。


夜風が冷たい。


男は伸びをした。


「楽しかった」


カイはその横顔を見る。


歩幅。


呼吸。


重心。


癖。


全部追う。


だが。


何も掴めない。


初めてだった。


タリムとは違う。


あれは見えなかった。


こいつは見えている。


なのに分からない。


理解できない。


「……何なんだ」


思わず呟く。


男は振り返る。


「ん?」


「いや」


男は笑った。


「ミックでいいよ」


カイは少し考える。


「カイ」


「へえ」


ミックは笑う。


「面白い奴だな」


そのまま去っていった。


あの血の匂い。


何の血だった。


聞きそびれた。


「……チッ」


赤いインコ。


肩の上。


最後までタマを見ていた。


――――――


深夜。


管理局本部。


最上階。


暗い部屋。


モニターだけが光っている。


ミックはソファへ寝転がった。


机の上。


資料。


被験体776。


黒体。


第四研究区。


ハンター。


どれも興味深かった。


メニーが肩で鳴く。


「キュル」


ミックは笑う。


「そうだな」


資料を閉じる。


それからポケットへ手を入れた。


血の付いた金属片。


机へ放る。


カラン。


乾いた音。


首の刻印だった。


《99》


管理局識別タグ。


半分ほど血で染まっている。


メニーが首を傾げる。


「キュル?」


「いや」


ミックは天井を見た。


今日の事を思い出す。


パチンコ。


黒い霧。


変な男。


少しだけ楽しかった。


机の上。


99のタグ。


その横。


血が付着した拳銃。


そして回収報告書。


《対象99》


《死亡確認》


《回収完了》


ミックは欠伸をした。


「776はまた今度でいいや」


メニーが羽を広げる。


窓の外。


南国の夜景が広がっていた。


机の上。


99のタグだけが。


静かに転がっていた。


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