第五話 死線
高架下。
元工場。
発砲音。
乾いてる。
車体を止める。
奥。
リー。
ストックへ頬を当てる。
パン。
空き缶。
弾ける。
振り返る。
弾を装填しようとして。
一本落とした。
床。
転がる。
リー。
拾わない。
カイ
近付いてくる。
リー。
煙草を咥えたまま。
「湿布またズレてねえか」
ワン。
即答。
「キモ」
「何でだよ」
リー。
肩を揺らす。
「背中に一人で貼ってるの想像した」
ワン。
吹き出す。
「確かにキモい」
「お前も言うな」
笑い声。
鉄骨へ反響する。
その瞬間。
タマ。
耳が立つ。
輪郭。
針みたいに尖る。
笑い声。
止まらない。
タマだけ。
工場の外を見ている。
アスファルト。
足音。
一人。
二人。
三人。
黒いコート。
増える。
誰も喋らない。
鉄扉へ向かってくる。
一定の速度。
迷いがない。
リー。
煙草を探す手が止まる。
ワン。
笑わない。
カイ。
視線を上げる。
タマ。
低く唸る。
高架下の空気が変わった。
白い閃光が走った。
工場が跳ねる。
爆音。
鉄骨が裂ける。
壁が吹き飛ぶ。
視界が白く染まった。
何も見えない。
何も聞こえない。
煙だけが残る。
やがて。
少しずつ輪郭が戻る。
リーがいた場所を見る。
いなかった。
壁が赤い。
叩きつけられている。
煙草だけが転がっていた。
ワンを見る。
振り向く途中だった。
遠くまで吹っ飛んでいる。
身体が回転する。
鉄床へ叩きつけられる。
骨が折れる音。
動かない。
カイは動けなかった。
怒りではない。
悲しみでもない。
理解が追いつかない。
目だけが動く。
リー。
ワン。
壁。
血。
銃。
黒いコート。
全部を見る。
全部を繋げようとする。
どうやった。
何をした。
何で。
どこから。
何が飛んだ。
どんな能力だ。
何を代償にしている。
何が見えていない。
頭の中で疑問だけが増えていく。
耳鳴りも聞こえない。
周囲の爆発も遠い。
ただ。
目の前の異常だけを見ていた。
なのに。
思考だけが止まらない。
胸の奥で何かが軋む。
気持ち悪いほど冷静だった。
だから。
余計に気付いてしまった。
リーの煙草。
ワンの腕。
床に飛んだ血。
全部。
もう動かない。
二度と笑わない。
焼肉。
次は十万。
期待してるだけ。
数時間前の言葉が浮かぶ。
胃が捻れる。
その瞬間。
黒い霧が膨れ上がった。
タマ。
赤い目。
異様な光を宿している。
街灯が消える。
工場の灯りが消える。
黒コートが初めて動きを止めた。
半歩。
下がる。
カイは走った。
出口へ向かう。
扉を破る。
夜へ飛び出す。
肺が焼ける。
足が痛い。
肩から血が流れている。
それでも止まらない。
逃げても。
振り返っても。
消えない。
角を曲がる。
フェンスを越える。
夜の街を走る。
横にはタマ。
黒い影が並んでいる。
やがて。
息が切れる。
足が止まりそうになる。
それでも止まらない。
頭の中では。
ずっと同じ映像が流れていた。
白い閃光。
リー。
ワン。
黒いコート。
何だった。
あれは。
どうやった。
何で二人は死んだ。
何で俺だけ生きている。
知らない。
分からない。
分からないままだけは。
終われない。
絶対に。
知る。
あれが何だったのか。
管理局が何を隠しているのか。
全部。
知る。
知らないまま終わるくらいなら。
どこまででも追う。
夜の底へ落ちるように走りながら。
知れば壊れる。
そんな気がした。
それでも。
知りたかった。




