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第四十五話 脱出

地下研究施設に警報が鳴り響いた。


耳障りな電子音が途切れなく続く。


赤い警告灯が点滅し、廊下を不気味な色に染めていた。


カイは反射的に振り返った。


「何だ」


NO99の顔から笑みが消えていた。


「時間切れだ」


その一言だけで十分だった。


直後。


天井のスピーカーからノイズが流れる。


ザザッ――


『管理局回収部隊到着まで三分』


空気が止まった。


『対象確認』


『被験体99』


『被験体776』


『黒体』


『優先回収対象』


沈黙。


カイは眉をひそめた。


「人気者だな」


「昔からだ」


99は即答した。


次の瞬間。


地下の奥から爆音が響いた。


ドゴォン!!


研究施設全体が揺れる。


天井から埃が落ちた。


遠くで金属が歪む音が聞こえる。


「来たな」


99が舌打ちした。


「管理局か」


「他にいるか?」


それもそうだった。


99はすぐに動いた。


机へ向かう。


散乱していた資料を次々と拾い上げる。


ファイル。


記録媒体。


端末。


写真。


全部だ。


鞄へ無造作に放り込んでいく。


カイは呆れた。


「何してる」


99は手を止めない。


「答えを持って帰る」


即答だった。


「ここで読むな」


「持ち帰れ」


「死んだら意味がねぇ」


その言葉には妙な説得力があった。


カイも近くの資料を掴む。


第四研究区。


被験体管理記録。


黒体実験報告。


適合者一覧。


研究員名簿。


全部まとめて鞄へ押し込んだ。


その時だった。


タマが低く唸る。


黒い霧が揺れる。


『上』


頭の奥で声が響いた。


直後。


さらに大きな爆音が鳴る。


ドガァン!!


壁に亀裂が走った。


遠くで銃声も聞こえる。


管理局がもう施設内へ入ってきている。


99は振り返らなかった。


「正面は死ぬ」


「ついて来い」


走り出す。


カイも後を追った。


地下通路。


非常灯。


赤い光。


曲がる。


また曲がる。


研究員用の裏通路らしい。


複雑だった。


普通なら迷う。


だが99には迷いがない。


まるで自分の家を歩いているようだった。


途中で鉄扉を開ける。


さらに奥。


配管だらけの狭い通路。


湿った空気。


水滴が落ちる音。


その向こう。


古い搬出口が見えた。


「出口だ」


99が蹴る。


鉄扉が吹き飛んだ。


冷たい夜風が流れ込む。


外だった。


森。


研究所の裏山。


二人はそのまま飛び出した。


数秒後。


背後で巨大な音が鳴る。


振り返る。


研究所の上空。


サーチライト。


輸送機が何機も旋回していた。


黒コートの部隊が次々と降下している。


建物全体が包囲されていた。


「派手だな」


カイが呟く。


99は肩をすくめた。


「第四研究区絡みだからな」


「連中も必死だ」


森の奥へ進む。


しばらく走ってようやく足を止めた。


警報音はもう聞こえない。


研究所の灯りだけが遠くに見える。


静かだった。


99が歩き出す。


カイは呼び止めた。


「待て」


99が止まる。


振り返らない。


「ロイを知ってるな」


少しだけ沈黙が落ちた。


やがて99は答える。


「ああ」


「知ってる」


カイは鞄から研究員名簿を取り出した。


そこに書かれていた名前。


主任研究員。


ロイ・アーベル。


見間違いようがない。


「次はあいつだ」


99が小さく笑った。


「そうなると思った」


それだけ言うと歩き出す。


闇の中へ。


森の奥へ。


やがて姿は見えなくなった。


カイは名簿を見下ろした。


十五年前の研究所。


第四研究区。


被験体99。


被験体776。


黒体。


そしてロイ。


全部が一つの場所へ繋がっている。


資料を鞄へ戻す。


タマが隣に座った。


赤い目がこちらを見る。


カイは研究所の灯りを睨んだ。


「今度は逃がさねえ」


夜風が吹く。


第四研究区の調査は終わった。


だが。


本当の話は、まだ始まったばかりだった。

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