第四十二話 座標
列車基地を出た頃には日が落ち始めていた。
研究員達は残骸の回収で忙しい。
177は荷台へ腰掛けて煙草を吸っていた。
ハンマーは足元。
いつもの顔だった。
「終わりか」
カイが言う。
177は煙を吐いた。
「終わりだな」
「つまんなかった」
カイは呆れた。
「あれでかよ」
「もっと暴れると思ったんだがな」
頭がおかしい。
今更だった。
177は立ち上がる。
背伸びを一つ。
「じゃあな」
「ああ」
「99見かけたら殴っとく」
「余計なことすんな」
177は笑った。
そのまま歩いていく。
振り返らない。
数秒後には闇へ消えていた。
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静かになった。
研究員達の怒鳴り声だけが遠く聞こえる。
その時。
端末が震えた。
知らない番号。
出る。
「誰だ」
『私だ』
エストだった。
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「依頼は達成したようだね」
「聞いてるなら用件だけ言え」
エストは少し笑った。
『せっかちだな』
『だが嫌いじゃない』
沈黙。
それから声色が変わる。
『約束だったね』
カイは立ち止まった。
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『第四研究区』
その単語だけで周囲が消える。
研究員の声も。
車の音も。
全部。
聞こえなくなる。
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「知ってるのか」
『もちろん』
エストは即答した。
『だから依頼した』
『知らない情報で取引はしないよ』
当然のように言う。
少し腹が立った。
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「場所は」
『君が最初に捕まった研究所だ』
止まる。
白い廊下。
資料室。
255。
逃走。
全部浮かぶ。
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「……あそこか」
『正確には違う』
『地下だ』
エストは続ける。
『255と遭遇した場所』
『あの地下施設』
『さらにその下』
心臓が一度強く鳴った。
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『第四研究区はそこにある』
沈黙。
長い。
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「何で今まで誰も知らなかった」
『知っている人間が少ないからだ』
『そして知っていた人間は死んだ』
エストの声は静かだった。
『管理局も完全には把握していない』
『だから今も残っている』
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カイは空を見た。
曇っている。
嫌な空だった。
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「入れるのか」
『上は押さえてある』
『出口も開けておいた』
『数時間だけだ』
『その後は保証しない』
さすがだった。
準備が良すぎる。
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端末が鳴る。
データ受信。
座標。
地下構造図。
侵入経路。
脱出経路。
古い研究員名簿。
断片的な資料。
大量だった。
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『詳細は送った』
『後は君の仕事だ』
エストが言う。
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「一つ聞く」
『何かな』
「何でそこまで知ってる」
少しだけ沈黙が落ちた。
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『商売人だからだよ』
笑う声。
本当かどうかは分からない。
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通信が切れる。
静寂。
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端末の画面を見る。
座標。
研究所。
地下。
第四研究区。
全部繋がっていた。
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横。
タマが座っている。
赤い目。
画面を見ていた。
黒い霧がゆっくり揺れる。
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『近い』
頭の奥で声が響く。
前よりはっきり。
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カイは端末を閉じた。
そしてバイクへ向かう。
もう迷う理由は無かった。
第四研究区は実在する。
そして。
すぐそこにあった。




