↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/83

第四十一話 溶解

177が前へ出る。


巨大な収容区画。


鉄格子。


拘束具。


監視設備。


全部壊れていた。


中央。


何かが立っている。


二メートルほど。


人間の形をしていた。


だが途中から違う。


境界が無かった。


無理やり混ぜられた結果だけが残っている。


カイは思わず呟く。


「趣味悪すぎだろ……」


実験体が顔を上げた。


片方だけ残った人間の目。


その視線がこちらへ向く。


次の瞬間。


咆哮。


車両全体が震えた。


177が笑う。


「そうこなくちゃな」


踏み込む。


ハンマーが振り下ろされた。


轟音。


実験体の右腕が吹き飛ぶ。


肉。


骨。


血。


全部まとめて弾け飛ぶ。


普通なら終わりだった。


だが。


吹き飛んだ肉が動いていた。


床を這う。


骨が伸びる。


肉が膨らむ。


腕が再生する。


177が止まった。


再生。


さらに再生。


今度は元より大きい。




実験体が突進する。


177のハンマーが再び叩き込まれる。


胸部が潰れる。


背骨が砕ける。


それでも止まらない。


潰れた肉の中から新しい骨が生える。


神経が伸びる。


筋肉が増殖する。


研究員の顔色が消えた。


「再生速度が上がっている……」


177は笑っていた。


だが少しだけ目が変わった。


「しょうがねえな」


カイは動かなかった。


骨。


筋肉。


神経。


血流。


因子。


左手薬指。


指輪の跡。


奥歯。


安い治療痕。


肩。


長年同じ姿勢で酷使した筋肉。


人間だった。


全部が流れ込んでくる。


止まらない。


人間じゃない。


獣でもない。


NOとも違う。


境界が存在しない。


全部が一つに混ざっていた。


理解できない。


いや。


理解したくなる。


観察が止まらない。


どこを繋いだ。


何を混ぜた。


どこで失敗した。


何を目的に作った。


情報だけが流れ込む。


177、ハンマーをそこらへ放り投げた。


腹。


腹部の装甲が開く。


手を突っ込む。


力強く引き抜く。


「おおおおおおおお!」


三十センチほどの筒。


「起動」


筒から光の粒子のようなものが伸びる。


「そんなもんあるならさっさと使えよ」


「切ってる感触なくてつまらねえんだよ」


177、怪物に突っ込む。


笑っている。


ポケットから端末を取り出した。


発信。


数回のコール。


それから繋がる。


『……誰だ』


ロイだった。


機嫌が悪い。


当然だ。


「俺」


『お前はいつも唐突だな』


「質問」


『断る』


「二核みたいな怪物がいる」


沈黙。


ロイの返事が止まった。


カイは目の前の実験体を見ながら説明した。


人間。


獣。


因子。


再生。


融合。


全部。


できるだけ正確に。


構造接続で見えたものも話した。


途中からロイは黙っていた。


呼吸音だけ聞こえる。


長い沈黙。


そして。


『どこで見た』


「依頼」


「分かるのか?」


声が変わっていた。


カイは眉をひそめる。


『そうか』


また沈黙。


短く息を吐く音。


---


『助からない』


カイは止まる。


『それは失敗してる』


『戻れない』


実験体が咆哮する。


車両が揺れる。


177が再び殴り飛ばされる。


ロイは続けた。


『終わらせてやれ』


静かな声だった。


『それが一番楽だ』


通信が切れる。


---


カイはもう一度構造を見る。


全体じゃない。


一点だけ。


探す。


骨。


筋肉。


神経。


因子。


全部が絡み合っている。


その中心。


胸部。


黒い塊。


無理やり全身を繋ぎ止めている核。


そこだけ流れがおかしい。


そこだけ異物だった。


カイの口元が僅かに動く。


「見つけた」


177が怪物の頭を掴む。


粒子の剣で切り刻む。


顔面が吹き飛ぶ。


肉片が飛び散る。


実験体の動きが一瞬だけ止まる。


十分だった。


カイが踏み込む。


呼吸。


重心。


全部合わせる。


掌。


核へ向ける。


叩き込む。


ドゴン。


鈍い音。


黒い核が砕けた。


---


実験体が止まる。


再生が消える。


増殖が消える。


全身へ走っていた因子の流れが途切れる。


膝が落ちる。


腕が崩れる。


骨が砕ける。


肉が落ちる。


ゆっくりと。


全部。


崩壊した。


---


静寂。


研究員達は動けなかった。


177だけが笑う。


ハンマーを拾い肩へ担ぐ。


「なるほどな」


床に広がる肉片を見る。


それからカイを見る。


「お前」


「本当に面倒な能力してるな」


カイは答えなかった。


視線は崩れた怪物へ向いていた。


残った人間の目だけが、最後までタマを見ていた。


最後まで。


どこか人間に見えたからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。