第三十八話 共闘
闇闘技場は今日も騒がしかった。
歓声。
怒号。
賭け金を叫ぶ声。
血の匂い。
いつも通りだった。
カイは人混みを抜け、受付へ向かう。
受付の男が顔を上げた。
「何だ」
「エストいるか」
男の眉が動く。
「用件は」
「話がしたい」
受付はしばらくカイを見ていた。
それから無言で通信機を取る。
小さく何かを話す。
内容は聞こえない。
数秒後。
男は通信機を置いた。
「お会いになるそうだ」
「VIP席へ行け」
カイは肩をすくめる。
「随分すんなりだな」
「気が変わる前に行け」
追い払うように手を振られた。
階段を上る。
歓声が遠ざかる。
薄暗い通路。
重い扉。
開ける。
VIP席だった。
ガラス越しにリング全体が見渡せる。
中央。
いつもの椅子。
エストが座っていた。
グラスを片手にリングを見下ろしている。
「やあ」
視線だけ向く。
「以前は面白い試合を見せてくれた」
口元が少しだけ歪む。
「今回は私に話があると聞いたが」
「何かな」
カイは遠慮なく前へ進んだ。
「第4研究区」
その言葉でエストの指が止まる。
ほんの一瞬だけだった。
だが確かに止まった。
「知ってるだろ」
沈黙。
エストはグラスを机に置いた。
少し考える。
それから頷いた。
「知っている」
カイは即座に言う。
「教えろ」
エストは笑った。
「無料で済むとは思っていないだろうね」
「思ってねえよ」
「話が早い」
立ち上がる。
窓際へ歩く。
下では二人の闘士が殴り合っていた。
歓声が響く。
「ちょうど困っている案件がある」
エストはリングを見たまま言う。
「解決してほしい」
「成功すれば、第4研究区について教えよう」
カイは鼻を鳴らす。
「何すりゃいい」
「現地で説明する」
「面倒だな」
「私もそう思う」
平然と言う。
少しだけ笑っていた。
「失敗したら?」
「死ぬだけだ」
即答だった。
カイは肩を回す。
「いいぜ」
エストは満足そうに頷く。
だが続けた。
「ただし」
「君一人では厳しい」
眉が寄る。
「協力者を付けておいた」
「いらねえ」
即答だった。
「俺一人でやれる」
「備えだよ」
エストは否定しない。
「相手が相手だからね」
「保険は必要だ」
「信用してねえな」
「しているさ」
「君に対してじゃない」
エストは振り返る。
その目は少し笑っていた。
「途中で投げ出さないとは思うがね」
意味が分からなかった。
カイは舌打ちする。
「誰だ」
エストは答えない。
代わりに扉へ向かう。
「現地で会うといい」
「案外気が合うかもしれない」
嫌な予感しかしなかった。
「誰だって聞いてんだろ」
エストは立ち止まる。
ほんの少しだけ肩を揺らした。
笑ったようにも見えた。
「では」
それだけ言う。
扉が閉まる。
静寂。
リングの歓声だけが聞こえる。
カイは眉をひそめた。
絶対にろくでもない。
そう確信した。
VIP席を出る。
薄暗い通路。
階段へ向かう。
その時だった。
遠く。
どこか下の通路から。
笑い声が聞こえた。
「ははっ」
聞き覚えがある。
嫌になるほど。
カイの足が止まった。
そして。
心の底から嫌そうな顔をした。




