第三十七話 第四研究区
翌日。
ハンター拠点。
廃ショッピングモール三階。
窓の外では雨が降っていた。
カイはソファへ寝転がりながら天井を見ていた。
頭の中には一つしかない。
第四研究区。
残響。
黒体。
失敗作。
全部繋がっている気がした。
だが肝心の中身が分からない。
「……分かんねえ」
起き上がる。
タマは窓際にいた。
黒い霧の身体を丸めながら外を見ている。
赤い目だけが動いた。
『近い』
まただ。
第四研究区の話になると反応する。
だがそれ以上は言わない。
言えないのか。
覚えていないのか。
分からない。
だから聞くことにした。
まずはメルだった。
◇
昼。
古い喫茶店。
奥の席。
メルは端末を見ながらコーヒーを飲んでいた。
「第四研究区?」
眉が少しだけ動く。
「知ってるのか」
「名前だけ」
即答だった。
「場所は?」
「知らない」
「何をやってたかは?」
「知らない」
役に立たない。
メルは肩をすくめた。
「私の情報網でもほとんど出てこない」
「出てきても全部古い」
端末を操作する。
画面には大量のエラー表示。
「消されてる」
「意図的に」
止まる。
「管理局か?」
「多分」
コーヒーを飲む。
「少なくとも普通の研究施設じゃない」
それだけだった。
収穫は少ない。
だが一つだけ分かった。
隠されている。
それだけは確かだった。
◇
夕方。
ハンター拠点。
ワイトを見た。
ワイトは椅子に座って煙草を吸っていた。
「第四研究区知ってるか」
煙が流れる。
数秒。
沈黙。
「知らん」
終わった。
「お前何でも知ってそうなのに」
「知らんものは知らん」
それだけだった。
収穫ゼロ。
カイは舌打ちした。
その時だった。
部屋の隅で煙草を吸っていた長コートが口を開く。
「エストなら知ってるかもな」
全員の視線が向く。
長コートは笑った。
「中央の情報も金で買ってる」
「管理局の裏事情も知ってる」
「第四研究区みたいな話なら持ってるかもしれねえ」
カイは止まった。
確かに。
エストならあり得る。
だが。
ライフルが即座に首を振る。
「やめとけ」
「何で」
「無料じゃねえ」
当然だった。
長コートも笑う。
「むしろ情報の方が高い」
フィーノが補足する。
「金で済めば安い方だな」
嫌な予感しかしない。
ワイトだけは静かだった。
煙草の灰を落とす。
「聞くだけなら自由だ」
「ただし」
目が向く。
「何か要求されるぞ」
断言だった。
カイは窓の外を見る。
雨。
暗い街。
第四研究区。
黒体。
失敗作。
頭から離れない。
タマが立ち上がった。
黒い霧が揺れる。
赤い目がこちらを見る。
『行く』
短かった。
だが初めてだった。
タマが自分から何かを望んだ。
カイは立ち上がる。
「決まりだな」
ライフルが顔をしかめる。
「決まってねえよ」
「エストに会いに行くだけだ」
「それが一番面倒なんだよ」
長コートが吹き出した。
フィーノも苦笑する。
ワイトだけが静かだった。
「なら行け」
煙が流れる。
「どうせ止まらんだろ」
否定できなかった。
第四研究区。
そこに何があるのか。
それを知る方法は、一つしか残っていなかった。




