↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/87

第三十二話 拠点

高速道路を走る古いバンの中で、カイは窓の外を眺めていた。


 雨だった。


 フロントガラスを流れる水が街の灯りを滲ませる。


 運転席ではライフルが片手でハンドルを握り、煙草を咥えている。


「管理局狩りねえ」


 バックミラー越しに視線が向いた。


「最近、回収班ピリついてんぞ」


 助手席の長コートが笑う。


「そりゃそうだろ。黒コート狩ってSNSに流してたんだからな」


 カイは答えなかった。


 流れていく夜景を見る。


 リー。


 ワン。


 訓練場。


 一瞬だけ浮かぶ。


「仲間殺されただけでそこまで行くか普通」


 ライフルが言う。


 少し考えてから答えた。


「普通じゃねえからここにいるんだろ」


 長コートが吹き出した。


「違いねえ」


 バンは高速を降りる。


 やがて街外れの巨大な廃ショッピングモールへ入った。


 看板は半分落ちている。


 窓は割れている。


 どう見ても潰れた建物だった。


 だが中は違った。


 人の気配が多すぎる。


 入口付近だけでも十人以上。


 通路の上。


 吹き抜け。


 崩れた店舗。


 至る所に武装した人間がいる。


 ライフル。


 散弾銃。


 ナイフ。


 対物銃。


 まともな連中には見えなかった。


 全員が一度こちらを見る。


 だが誰も話しかけてこない。


 すぐに視線を外す。


「歓迎されてねえな」


「歓迎なんかしてねえよ」


 長コートが笑った。


「ここにいるのは管理局が嫌いな奴だけだ」


 階段を上る。


 二階。


 三階。


 途中でタマが足を止めた。


 黒い霧が僅かに揺れる。


「どうした」


 タマは答えない。


 当然だった。


 ただ三階の奥を見ている。


 暗い通路。


 その先。


 灯りのついた部屋が一つだけあった。


 何となく嫌な感じがした。


 長コートが扉を開ける。


「連れてきた」


 中は事務所のようだった。


 机。


 端末。


 武器。


 工具。


 そして大量の洗濯物。


 その中心に男が座っている。


 傷だらけだった。


 首には古い弾痕。


 腕には火傷。


 指には何度も折れた跡がある。


 男は視線だけ向けた。


「……それが776か」


「黒コート狩ってSNSに撒いてたアホ」


 長コートが言う。


 男は笑った。


「いい度胸だ」


 立ち上がる。


 思ったより背が高い。


 近づくだけで空気が変わる。


「フィーノだ」


 そう名乗る。


 その直後だった。


 フィーノが洗濯物へ指を向ける。


 パキッ。


 乾いた音が鳴る。


 次の瞬間。


 濡れていた服が一斉に乾いた。


 水滴が消えている。


 カイは目を細めた。


「何した」


「干した」


「説明下手かよ」


 ライフルが吹き出す。


 フィーノは肩を竦めた。


「熱だ」


 指を鳴らす。


 机の上に残っていた水滴が一瞬で蒸発した。


 構造接続が勝手に働く。


 熱。


 空気。


 水分。


 圧力。


 全部が繋がって見えた。


 だが理解しきれない。


 深かった。


 フィーノは普通じゃない。


 その時だった。


 タマがふらりと前へ出た。


 黒い霧が揺れる。


 フィーノの足元まで近づいていく。


 フィーノは少し驚いたように目を細めた。


「へえ」


 しゃがむ。


 赤い目と視線が合う。


「お前、好かれてんな」


 その瞬間。


 タマが止まった。


 耳が動く。


 黒い霧が僅かに逆立つ。


 そして初めて後ろへ下がった。


 警戒していた。


 ライフルが煙草を揉み消す。


 長コートも壁から離れる。


 部屋の空気が変わった。


 足音が聞こえる。


 ゆっくり。


 一定。


 近づいてくる。


 誰も喋らない。


 扉が開く。


 入ってきた男は小柄だった。


 年齢は分からない。


 疲れた顔をしている。


 だが目だけが異様だった。


 底が見えない。


 怒り。


 憎悪。


 殺意。


 全部が沈殿している。


 男の視線がカイを捉える。


「……776」


 低い声だった。


 それだけで空気が重くなる。


 男は少しだけ笑った。


「管理局を殺したい目だな」


 言葉が続く。


「いい」


「ちゃんと壊れてる」


 眉が寄った。


 意味が分からない。


 男は椅子へ腰掛ける。


「ワイトだ」


 それが名前だった。


 タマはワイトを見ている。


 だが近づかない。


 フィーノの時とは違う。


 警戒していた。


 ワイトもタマを見る。


 しばらく黙る。


 そして小さく呟いた。


「なるほど」


 目が細くなる。


「そっちか」


 何を見たのか。


 カイには分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。