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第三十一話 呼ぶ

翌日、目を覚ました瞬間に全身の痛みが戻ってきた。


肩が重い。


脇腹が痛い。


背中も首もまともに動かない。


ベッドから起き上がるだけで顔が歪んだ。


「いてぇ……」


床ではタマが丸くなっていた。


赤い目だけがこちらを見る。


こいつだけ妙に元気そうだった。


少し腹が立つ。


昼過ぎ。


カイは闇病院を訪れていた。


診察室ではロイがレントゲン写真を眺めている。


煙草を咥えたままだった。


院内禁煙という概念は存在しないらしい。


「ひどいな」


写真を光に透かしながら言う。


「肋骨二本。肩関節半脱臼。筋断裂。内出血多数」


煙を吐く。


「どうしたらこうなる」


カイは椅子にもたれた。


「NOと正面から殴り合った」


ロイの動きが少しだけ止まった。


それから納得したように頷く。


「ああ」


カルテに何かを書き込む。


「安いな」


「安い?」


「その程度で済んでるならな」


意味が分からなかった。


治療を終え、帰ろうとしたところで思い出す。


「なあ」


ロイが煙草に火をつける。


「何だ」


「ハンター」


煙が止まる。


ほんの一瞬だけ。


「知ってるか」


「知ってる」


即答だった。


「拠点どこだ」


ロイは数秒黙った。


煙を吐く。


「知ってどうする」


「乗り込んで加入する」


沈黙。


長かった。


ロイは煙草を灰皿に押し付ける。


「知らねえ」


顔を見れば分かる。


嘘だった。


でも教える気もない。


「メルに聞け」


それだけだった。


数時間後。


公衆電話からメルへ連絡した。


三回目の呼び出し音で繋がる。


『何』


相変わらずだった。


「ハンター知ってるか」


電話の向こうで沈黙。


『は?』


「入りたい」


今度は咳き込む音が聞こえた。


珍しかった。


『無理』


即答だった。


「まだ聞いてねえ」


『聞くまでもない』


キーボードを叩く音。


『あいつら管理局狩りだよ』


『弱いのに興味ない』


「じゃあどうすりゃいい」


数秒。


『さあ』


「おい」


『強いこと教えりゃいいんじゃない?』


雑だった。


「どうやって」


『管理局でも潰せば?』


そこで電話は切れた。


その日からカイは管理局を探し始めた。


見つける。


潰す。


写真を撮る。


匿名アカウントへ投稿する。


また見つける。


また潰す。


また投稿する。


数日。


それを繰り返した。


SNSでは少しずつ話題になり始めていた。


管理局狩り。


正体不明の男。


776。


呼び方は色々だった。


どうでもよかった。


目的は一つだけだった。


ハンターを呼ぶこと。


五日後。


夜。


雨が降っていた。


路地裏を歩いていると、タマが不意に立ち止まった。


耳が動く。


赤い目が細くなる。


「ん?」


次の瞬間。


上から声が降ってきた。


「前の兄さんか」


振り向く。


屋根の上だった。


ライフルを抱えた男。


長いコートの男。


そしてフードを被った女。


あの三人だった。


ハンター。


女が見下ろしてくる。


「またあんた?」


興味なさそうだった。


ライフル男が笑う。


「最近有名だぜ」


長コートの男が手を振る。


「で?」


首を傾げる。


「俺らに何か用か?」


カイは迷わなかった。


「加入したい」


雨音だけが響く。


女が鼻で笑った。


「雑魚はいらない」


即答だった。


「実績は?」


「管理局十七人」


ライフル男の笑顔が消える。


女も少しだけ目を細めた。


だがまだ足りない。


そんな顔だった。


「他は?」


女が聞く。


「それだけ?」


カイは少し考える。


それから肩を掻いた。


「闇闘技場」


長コートの男が反応する。


カイ。


「赤斑点」


「NO177」


「勝負つかなかった」


三人とも黙った。


今度は本当に。


長コートの男が笑うのをやめる。


女も初めて真面目な顔になった。


「……生きて帰ってるの?」


「あそこ中央割れただろ、原因お前か」


小さく呟く。


信じられないという顔だった。


「帰ってるだろ」


カイは自分を指差した。


「ここにいる」


ライフル男が吹き出した。


「マジかよ」


長コートの男も笑い始める。


今度は本気だった。


女だけが黙っていた。


しばらくカイを見つめる。


タマを見る。


またカイを見る。


そしてため息を吐いた。


「合格」


短かった。


「は?」


今度はカイが聞き返す番だった。


女は踵を返す。


「ついて来な」


フードの奥で少しだけ笑う。


「ハンターは強いやつしかいらない」


雨が降り続く。


その中で。


カイは初めて管理局を追う側へ足を踏み入れた。


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