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第二十六話 ハンター

タマの霧に押され、黒コートたちは路地まで後退していた。


雨が降っていた。


路地は泥と血で濡れている。


先ほどまでの余裕は消えている。


通信機を握った男が何かを報告しようと口を開いた。


「対象776――」


乾いた音が響いた。


バシュッ。


男の頭が横へ弾けた。


血が壁へ散る。


膝が折れる。


そのまま泥の上へ崩れ落ちた。


通信機だけが転がる。


残った男が反射的に周囲を見回した。


だが何も見えない。


次の瞬間だった。


銀色の線が雨の中を走る。


細いワイヤー。


男の首へ巻き付く。


「――ッ!」


硬化した腕が上がる。


遅い。


ギチッという嫌な音が鳴った。


首が落ちた。


頭が泥の上を転がる。


血が雨水に混じって流れていく。


沈黙。


誰も動かなかった。


屋根の上。


三つの影が立っていた。


黒いレインコート。


深いフード。


顔は見えない。


一人が死体を肩へ担ぐ。


まるで荷物だった。


もう一人はしゃがみ込み、黒コートの腕へ太い注射針を突き刺した。


紫色の筒。


内部を光が流れる。


血ではない。


何か別のものを回収しているようだった。


確認は一瞬で終わる。


三人目が大きな黒い袋を開いた。


首。


胴体。


腕。


死体を迷いなく放り込む。


手慣れていた。


異常なくらい。


メルが顔をしかめた。


「……最悪」


「知ってるのか」


カイが訊く。


メルは屋根の上を見上げたまま答えた。


「ハンター」


短い。


それだけだった。


「管理局専門の賞金稼ぎ」


「賞金稼ぎ?」


「違う」


即答だった。


機械眼が青く光る。


「普通の賞金稼ぎは金で動く」


少し間を置く。


「こいつらは因子で動く」


雨が強くなる。


メルは続けた。


「管理局職員」


「実験体」


「因子使い」


「全部売れる」


気分のいい話ではなかった。


屋根の上。


一人がこちらを見ている。


フードの奥。


顔は見えない。


だが視線だけは分かった。


見られている。


品定めされている。


そんな感覚だった。


タマが低く唸る。


黒い霧が膨らみ、縮む。


赤い目が細くなる。


三人目――女は通信機を耳へ当てた。


『回収完了』


金属みたいな声だった。


『対象776確認』


『映像取得済み』


カイの眉が寄る。


「撮ってたのかよ」


返事はない。


女はゆっくり腰の拳銃へ手を伸ばした。


反射的に身体が沈む。


構える。


だが撃たない。


代わりに。


女はカイを見た。


腕を見る。


胸を見る。


そして。


タマを見る。


順番だった。


まるで検査だった。


沈黙。


数秒。


それから。


『面白い』


短い。


本当にそれだけだった。


女は後ろへ跳ぶ。


姿が消える。


残る二人も続いた。


雨だけが残る。


路地には血痕しかなかった。


死体もない。


何も残っていない。


メルが壁へ寄りかかった。


珍しく疲れた顔だった。


「終わった……」


「終わってねえよ」


カイは雨の向こうを見る。


「向こうは俺を見た」


タマが低く唸る。


止まらない。


メルも同じ方向を見ていた。


機械眼が小さく駆動音を鳴らす。


「……一人残ってた」


「何?」


「最後の女」


メルの声が少しだけ低くなる。


「たぶん隊長」


雨が屋根を叩く。


タマの霧が逆立つ。


メルは舌打ちした。


「よりによって」


「面倒なのに見つかった」


カイは黙っていた。


雨の向こう。


もう誰もいない。


なのに。


見られている気がした。


その感覚だけが消えなかった。


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