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第二十五話 排除

エストが帰ったあとも、部屋には妙な静けさが残っていた。


 換気扇だけが低く回っている。


 机の上には黒いカード。


 処刑場への入場許可証。


 カイはそれを指で弾いた。


 金属音が小さく響く。


「処刑場ねえ……」


 興味はあった。


 だが今ではない。


 榊。


 管理局。


 154。


 まだ終わっていないことの方が多かった。


 その時だった。


 遠くで爆音が響いた。


 窓ガラスが震える。


 メルの顔色が変わった。


 機械眼が青く光る。


 端末を開く。


 指が走る。


 速い。


 異常なくらい速い。


「何だ」


 返事はない。


 画面だけを睨んでいる。


 数秒後。


 メルは短く言った。


「帰れ」


「またそれか」


「帰れ」


 今度は本気だった。


 カイが眉を寄せる。


 その時、端末がこちらへ向いた。


 監視カメラの映像。


 廊下。


 三人。


 黒コート。


 全員管理局だった。


 右。


 装甲が異常に厚い。


 人間というより歩く盾だった。


 左。


 細身。


 長い狙撃銃を担いでいる。


 そして中央。


 一番普通。


 だから一番嫌だった。


「対象確認」


 中央の男が通信機へ触れる。


「被験体776」


 短い沈黙。


「排除を開始する」


 爆音。


 一階が吹き飛んだ。


 建物全体が揺れる。


 天井から砂が落ちる。


 足音。


 一定。


 迷いがない。


 階段を上がってくる。


 カイは拳を握った。


 タマが低く唸る。


 耳が伏せられている。


 次の瞬間。


 扉が吹き飛んだ。


 木片が飛ぶ。


 黒コートが現れる。


 中央の男。


 視線だけがこちらを向いている。


 感情がない。


 人形みたいだった。


「排除する」


 それだけだった。


 カイが先に動いた。


 床を蹴る。


 拳を叩き込む。


 だが。


 横から装甲男が割り込んだ。


 拳が腹へめり込む。


 硬い。


 鉄を殴ったみたいだった。


「ッ……!」


 拳が痺れる。


 装甲男は一歩も下がらない。


 肩が揺れただけだった。


 同時。


 閃光。


 狙撃。


 壁が吹き飛ぶ。


 コンクリート片が飛び散る。


 メルが伏せる。


 だが端末だけは離さない。


 タマが吠えた。


 黒い霧が部屋を満たす。


 狙撃手の照準が揺れる。


 通信機へノイズが走った。


 中央の男が初めて眉を動かす。


「通信障害を確認」


 タマがさらに唸る。


 霧が針のように尖った。


 装甲男へ絡み付く。


 一瞬だけ動きが止まる。


 そこへ拳を叩き込む。


 首が揺れる。


 膝が折れる。


 巨体が崩れ落ちた。


 メルの機械眼が青く明滅する。


 右を見る。


 左を見る。


 中央を見る。


 そして即座に言った。


「右は重い」


 装甲男。


「左は速い」


 狙撃手。


 最後。


 中央を見る。


 数秒。


 珍しく黙った。


「真ん中は?」


 カイが聞く。


 メルは顔をしかめた。


「嫌」


 雑だった。


 それが逆に嫌だった。


 爆音。


 狙撃。


 窓が吹き飛ぶ。


 タマの霧が揺れる。


 輪郭が少し薄くなった。


 中央の男がそれを見た。


 視線が止まる。


 そして。


 通信機へ触れた。


「対象変更」


 部屋が静まる。


「黒体を確認」


 カイが眉を寄せた。


「……は?」


 男は続ける。


「776は副次目標」


 タマを見る。


「黒体を優先回収する」


 空気が止まった。


 タマが低く唸る。


 赤い目が細くなる。


 カイはタマを見る。


 管理局が追っているのは自分だと思っていた。


 違う。


 少なくとも同じくらい。


 いや。


 それ以上に。


 管理局はタマを欲しがっている。


 中央の男が一歩前へ出た。


「回収する」


 その瞬間。


 タマも前へ出た。


 黒い霧が逆立つ。


 部屋の温度が下がった気がした。


 警報が鳴り続ける。


 赤灯が回る。


 誰も動かない。


 次の一撃が始まる直前。


 世界だけが静止していた。


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