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第二十二話 選別

地下闘技場。


 夜。


 酒。


 煙草。


 歓声。


 怒号。


 札束。


 熱気が渦を巻いていた。


 カイは通路を歩く。


 足元。


 タマ。


 黒い霧が静かについてくる。


 案内役の男が言った。


「今日は特別戦だ」


「嫌な予感しかしねえ」


 リングへ上がる。


 客席。


 満員。


 だが妙だった。


 歓声よりも視線が多い。


 見られている。


 品定めされている。


『本日の特別戦!』


『挑戦者! コードナンバー七七六!』


 歓声。


 口笛。


 笑い声。


 研究所のモニターが一瞬だけ浮かぶ。


「七七六って呼ぶな」


 観客は笑う。


「三秒だな」


「今日は五秒持つか?」


「倍率二十五倍」


 賭けの対象は勝敗ではない。


 生存時間だった。


 カイが眉を寄せる。


「何なんだ今日は」


 その時。


 リングを囲む壁が動いた。


 一枚。


 また一枚。


 全部で五か所。


 黒い穴。


 ゆっくり開く。


 銃口。


 五丁。


 全て。


 カイへ向く。


「……おい」


『第一試験』


『開始』


 発砲。


 轟音。


 世界が変わる。


 熱。


 鼓動。


 構造接続。


 銃口。


 照準。


 引き金。


 人差し指。


 肩。


 反動。


 薬莢。


 火薬。


 弾道。


 五丁。


 全部違う。


 一丁ずつ癖が違う。


 右。


 半歩。


 左。


 首を傾ける。


 上。


 膝を落とす。


 後ろ。


 身体を捻る。


 弾丸が頬を掠めた。


 服が裂ける。


 髪が舞う。


 止まらない。


 五方向。


 同時。


 全部見える。


 身体が勝手に動く。


 十秒。


 二十秒。


 三十秒。


 歓声が消えた。


 誰も叫ばない。


 銃声だけが響く。


「何だあれ……」


「全部避けてる」


「化け物か」


 射撃終了。


 静寂。


 リング中央。


 カイだけが立っていた。


「痛えな」


 ボロボロの上着。


 柄がわからなくなった迷彩ズボン。


 全身無数の掠り傷。


 だが直撃は0。


 実況も止まる。


『……生存』


『第一試験突破ァァァ!!』


 歓声が爆発する。


 カイは息を吐いた。


 客席を見た。


 違う。


 こいつら、勝敗を見てない。


「頭おかしいだろ」


 違う。


 気になるのはそこじゃない。


 何故五丁。


 何故同時。


 何故俺。


 考える。


 答えは出ない。


『第二試験!』


 リング中央が開く。


 透明な防壁が何重にもせり上がる。


 逃げ場が消えた。


 台が運ばれる。


 中央。


 手榴弾。


 一個。


「これだけか」


 床が震える。


 地下から巨大な影が現れた。


 合成獣。


 三メートルを超える。


 筋肉。


 牙。


 赤い目。


『手榴弾一本で討伐できるか!』


『ベット開始!』


「無茶苦茶だろ」


 怪物が咆哮する。


 構造接続。


 顎。


 首。


 筋肉。


 肺。


 呼吸。


 重心。


 口。


 閉じる。


 まだ。


 あと少し。


 今。


 ピンを抜く。


 投げる。


 手榴弾が喉の奥へ消えた。


 口が閉じる。


 一秒。


 二秒。


 爆発。


 轟音。


 頭部が吹き飛ぶ。


 巨体が崩れ落ちた。


 実況が絶叫する。


『勝者ァァァ!!』


『七七六!!』


 歓声が揺れる。


 カイは怪物を見る。


「図体だけか」


 その時。


 タマが低く唸った。


 赤い目。


 VIP席。


 暗いガラスの奥。


 人影。


 静かに立ち上がる。


「十分だ」


 小さな声。


 誰にも届かない。


 端末を開く。


 一行だけ入力した。


【適合】


【第五研究区候補 776】


 送信。


 画面が消える。


「想像以上だった」


 影は笑った。


 珍しい玩具を見つけたように。


 カイが顔を上げる。


 頭の奥が痛んだ。


 遅れて。


 全身が熱を持つ。


 視界が傾いた。


「……またかよ」


 床が近付く。


 そこで意識が切れた。


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