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第十九話 勧誘

向こう側。


パチンコ店。


昼間なのにネオンが光っていた。


カイは財布を見る。


千円。


店を見る。


「……増やすか」


二時間後。


換金所。


札束が滑ってくる。


胸ポケットへ突っ込む。


重い。


久しぶりに安心した。


店を出る。


夕方の風が少し冷たい。


その時だった。


後ろに気配を感じる。


振り返る。


細い男が立っていた。


スーツ姿。


笑顔。


だが目だけ笑っていない。


「いい腕だな」


「そうか」


歩く。


男も歩く。


付いてくる。


「因子使いか?」


「知らん」


「でも全部中央だ」


男は笑ったままだった。


ポケットから黒いカードを取り出す。


番号だけが書かれている。


名前はない。


「もっと稼ぐか」


カードを見る。


男を見る。


またカードを見る。


頭を掻いた。


「怪しいな」


「怪しい」


即答だった。


「上位になるとVIPにも会える」


「VIP?」


「表じゃ会えない連中だ」


カイの目が少し動く。


「そいつ何知ってる」


「いい食いつきだ」


 男が笑った。


「全部」


「そんなわけねえ」

 

雑な答えだった。


だが、気になる。


タマが低く唸る。


男を見る。


笑顔は消えない。


「闇だろ」


「命の保証は?」


男は答えない。


笑ったままだった。


それが答えだった。


カイはカードを返す。


「一日考える」


男が少しだけ驚く。


笑顔が崩れる。


ほんの一瞬だけ。


「珍しいな」


「即決が多いんだが」


「俺は遅えんだよ」


背を向ける。


歩きながら言う。


「明日の昼」


「ここにいなかったら諦めろ」


男は何も言わなかった。


夜。


古いアパート。


薄い天井を見上げる。


眠れない。


胸ポケットの札束は重い。


だが落ち着かなかった。


命の保証はない。


そう言われても引かなかった自分が引っかかる。


右手を見る。


ゆっくり握る。


開く。


また握る。


昔を思い出した。


十八歳。


初めて人を殺した日。


仕事だった。


金になった。


だが。


吐いた。


何度も吐いた。


手が震えた。


三日眠れなかった。


それから考えるのをやめた。


賭場へ逃げた。


パチンコへ逃げた。


何も考えなくていい。


勝っても負けてもどうでもいい。


ただ時間だけ潰れる。


それでよかった。


七年間。


ずっと。


そうやって逃げてきた。


だが。


最近は違った。


255を吹き飛ばした。


壁が砕けた。


二核。


因子が二つ。


154。


研究所。


サカキ。


頭の中に次々浮かぶ。


全部気になる。


全部知りたい。


「……逃げなくて」


声が漏れる。


「いいのか」


傭兵も結局は暴力だった。


頭を使わなくて済む仕事だった。


考えなくて済む仕事だった。


タマが足元から見上げている。


赤い目が揺れていた。


返事はない。


当然だった。


だが。


目だけは逸らさなかった。


翌日。


昼。


顔を洗う。


鏡を見る。


自分が映る。


その横にタマも映る。


「……行くか」


財布を掴む。


部屋を出る。


繁華街。


昨日と同じ場所。


男は立っていた。


待っていたらしい。


カイを見る。


笑う。


「来たか」


「飯出るんだろ」


「出る」


「なら行く」


男が吹き出した。


「正直だな」


「腹減ってんだよ」


タマが低く唸る。


男を見る。


少し警戒しているらしい。


地下へ降りる。


さらに下へ。


鉄扉が開く。


歓声。


怒号。


酒。


煙草。


汗。


血。


熱気。


全部まとめて押し寄せてきた。


カイは顔をしかめる。


「うわ……」


男が肩を竦める。


「ようこそ」


長い通路。


その先。


強い照明が見える。


タマの足が止まった。


赤い目が細くなる。


何かを見ている。


カイも視線を追った。


リング。


その向こう。


観客席の最上段。


暗がりの中。


黒いコートが見えた。


管理局。


一瞬だった。


本当にそうだったかも分からない。


だが。


胸の奥がざわついた。


カイは小さく笑う。


「なるほど」


男が振り返る。


「何がだ?」


カイはリングを見た。


歓声を聞く。


血の匂いを嗅ぐ。


そして答えた。


「ここか」


リングの照明だけが眩しく光っていた。

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