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45: ハインツの夢

ドイツを舞台に、AI카드バトルゲーム「アリーナオンライン」の世界で生きる韓国人傭兵・承赫。ひょんなことから迷い込んだカフェで、ロシア極右スパイ組織の実態を暴く事件に巻き込まれる。一躍有名人となった承赫に、次なる舞台・東京が迫る。一方、孤高の天才プレイヤー・ハインツは故郷に帰り、静かに人生の締めくくりを描いていた。

ハインツの夢


承赫は電光掲示板に浮かぶ名前を見つめながら、静かにつぶやいた。

「エラ・グレーゼ……そしてカール・フォン・ハインツ……本当に強力だな。」

傍らに立っていたボラは腕を組みながら言った。

「あなたもあの人たちみたいに強くなりたいなら、1級カードをもっとたくさん集めないといけないわ。この『アリーナオンライン』は単純なゲームじゃない。もうすぐ国家間の外交戦にも活用されるって話だし。」

承赫は真剣な顔で頷いた。

「俺も最強のカードを集めたいんだけど……どこで手に入れればいいんだろう?」

ボラは周囲を見渡しながら静かに口を開いた。

「ドイツ国内にはまだネオナチの残存勢力がいるの。あいつらは違法な方法で希少カードを確保してる。そいつらから……強奪して。」

しばらく沈黙していた承赫は暗い笑みを浮かべながら言った。

「どうせあいつらは極右の犯罪者だから……かまわないだろう?」

ボラは首を振りながらため息をついた。

「それでも深く関わりすぎないで。あなたが怪我しても……私は責任取れないから。」

その瞬間から、承赫の影は徐々に暗い戦場の中心へと向かっていった。


いつものようにイヤホンをつけて街を歩いていた承赫は、ふと路地の奥にある古びた看板に目が留まった。

『カフェ・ノルト』。

初めて見る名前だった。

「あれ?見たことないところだな……」

好奇心が湧いた承赫は、おそるおそるドアを押して中へ入った。

カフェの内部は静かで、壁には古風なロシアの地図と帝政ロシア時代の肖像画が飾られていた。奥の一角では少数の人々が座り、何かの講義を聞いていた。

「……プーチン大統領の決断は単なる侵略ではありません。西洋文明の腐敗と堕落に立ち向かう、ロシア帝国の精神的な戦争であり、浄化です。」

講師は軍服に近い服装をしており、テーブルの上には『Z』のロゴが入ったスマートフォンが置かれていた。

「Zは単なる記号ではありません。それはユーラシアの復活、ロシア正教と伝統的価値観の象徴です。ドイツとヨーロッパもいずれこの精神に同調することになるでしょう。」

承赫は顔をしかめながらつぶやいた。

『Z……あのZか。』

その瞬間、講師の一人の目が承赫の方へ向いた。

しばしの沈黙。

背筋が冷たくなった。承赫はカフェのドアの方へゆっくりと足を向けながら心の中で繰り返した。

ここ……普通のカフェじゃない。何かが……おかしい。


カフェの一角で、講演が一瞬止まった。

ふと、承赫の視野に一人の金髪の男性が入ってきた。その男は落ち着いた様子で袖をまくり、スマートウォッチを取り出して画面を押した。

「シーザー、召喚。」

大きな透明なホログラムが広がり、ローマ皇帝シーザーの姿をしたサイバー戦士が現れた。男性は周囲に向かって叫んだ。

「全員動くな!ここにいる者たちが、ロシアの極右スパイだということは分かっている!すぐに警察が踏み込んでくるぞ!」

すべての視線が彼に集まった。彼は顔を向けて承赫を見ながら手招きした。

「早く手伝え!今だ!」

承赫は戸惑ったが、すぐに正気を取り戻した。

「オルフェウス、召喚!」

承赫の声と共に古代ギリシャの吟遊詩人を模したサイバー戦士が現れた。銀色のハープから放たれる振動波がカフェの内部を直撃した。

ロシア極右団体のメンバーたちも急いでそれぞれのカードを取り出した。しかしすでに遅かった。ハインツのAIカード・フリードリヒ大王はシーザーと共に正面突撃し、カフェのテーブルや装飾品、壁に掛かった宣伝ポスターまで全て壊しながら突き進んだ。

電磁場が不安定になると内部システムが麻痺し、『Z』のロゴを帯びた機器類もすべて暴走し始めた。

そのとき、外からサイレンが鳴り響き、ドイツ警察特殊部隊が突入した。

「この建物は包囲された!全員動くな!」

警察がロシア人講師たちと極右団体の人物たちに手錠をかけながら叫んだ。

「国家保安法違反および国民扇動罪の容疑で逮捕します。」

混乱の中心だったカフェ・ノルトはすぐに警察線で囲まれた。承赫はしばらくそれを見つめてから静かにつぶやいた。

「……この世界、思ったよりずっと危険じゃないか。」


カフェ・ノルト事件の後、ドイツ全土が騒然となった。

ロシア極右主義者たちの実態を暴いた映像とAI戦闘の記録は、すぐにSNSとニュースプラットフォームを通じて広まった。ドイツの有力メディアは競うように一人の青年の名前を報道した。

「韓国出身の傭兵、ドイツ国内の極右諜報網摘発に貢献」

承赫は一躍話題の人物となった。テレビインタビューの依頼が殺到し、反ロシア欧州連帯フォーラムからも連絡が来た。

彼は短くインタビューに答えた。

「ロシアは単なる軍事国家ではなく、思想と文化戦線を共に拡張しようとする存在です。ヨーロッパ内部に浸透した極右的イデオロギーのほうがより危険だと思います。」

この発言は進歩勢力と若い世代に大きな反響を呼んだ。

しかしその分、ロシア系コミュニティと極右勢力からの視線も鋭くなった。承赫はその重さを感じながら静かにつぶやいた。

俺が望んでいたのはこれじゃないのに……ただカードが必要だっただけなのに。


数日後、ハインツが承赫を呼んだ。

彼は無言でカードケース一つをテーブルの上に置いた。

「開けてみろ。」

承赫は慎重にカードケースを開けた。中にはアリーナオンライン1級カード『オーディン』とギリシャ・ローマ神話の主要な神々のカード七枚が入っていた。

目が大きくなった。

「これは……私にくださるんですか?」

「カフェ・ノルトの件、結果的に俺たちが長く追っていた組織を壊滅させるのに決定的な役割を果たした。受け取る資格がある。」

ハインツは短く言って椅子にもたれた。

「それと承赫、二ヶ月後にはヨーロッパ予選が終わる。秋には東京へ旅立たなければならない。」

「はい、すでに確定しています。」

「よし。ロシア側の人間とは絶対に付き合うな。EUはこれから数十年間、ロシアと断絶するだろう。お前がすでにその関係に名前を連ねた以上、もっと気をつけなければならない。向こうはお前を誘拐したり、もっとおかしなことも仕掛けてくる可能性がある。」

承赫は静かに頷いた。

「9月になったらお前は韓国系日本人傭兵として、日本チームのディレクター資格でアジア予選に参加することになる。しっかり準備しろ。」

「はい、ハインツさん。」

承赫はオーディンのカードを手に取った。ずっしりとした重みがあった。単なる一枚のカードではなかった。ここまで歩んできた時間の重みが指先に感じられた。


承赫はカードたちを慎重にカードケースに入れた。そのうちオーディンと神のカード七枚は一番奥深くに隠し、カードケースは頑丈な鍵でしっかりと施錠した。

「これで俺の未来はアリーナオンラインのワールドプレイヤーだ……」

承赫はつぶやきながらゆっくりと立ち上がった。

「俺のカードが密猟者に盗まれるかもしれない。これは俺の命だ。」

傍にいたボラが心配そうに言った。

「承赫、カードのセキュリティをしっかりしておかないといけないよ。」

「当然だ。誰にも持っていかせない。」

承赫は空を見上げた。曇り空の向こう、一ヶ月後の東京が頭の中に描かれた。

アジア予選……いよいよ始まるな。


一方、カール・フォン・ハインツは久しぶりに故郷の家へ向かった。

「3年ぶりか……」

扉を開けると老母が笑顔で出迎えた。

「ハインツ、おかえり。直接会うのは3年ぶりだね。」

「これからはよく来ます、お母さん。今回の大会が終わったら、しばらく仕事から手を引くつもりです。そろそろ他のことを大切にする時期が来たような気がして。」

彼はそのまま、かつて通っていた教会を訪れた。古いゴシック様式の建物は相変わらず雄壮だった。

「この建物は今では市が管理する文化遺産よ。観光客の通行料で教会が維持されているの。」

母が説明した。ハインツは無言で頷きながら古びた聖書を取り出して開いた。

9年前の約束……ちゃんと守りました。みんな。

彼は静かに微笑んだ。静寂な教会の中、ステンドグラスを通して光が床に降り注いでいた。


しばらくして、教会の中に見知らぬ二人の女性が入ってきた。

「ハインツ……」

デンマーク出身のソフィ・ラスムッセン、そしてドイツ北部から来た20代の天才プログラマー、レナ・エルンハイムだった。昔からの知り合いだった。それぞれの形でハインツと繋がっていて、今は二人ともお腹が大きかった。

ハインツは二人の女性とお腹の命を見つめた。言葉がなかった。

彼は二人と向かい合って座り、落ち着いた口調で言った。

「養育費は毎月出す。お前たちとは一生結婚するつもりはない。お互い干渉せずにそれぞれの人生を生きるんだ。不満はないだろう?」

ソフィとレナは目を合わせてから、同時に微笑んだ。

「不満はないわ、ハインツ。その代わりあなたも私たちの人生に干渉しないで。」

ハインツは頷きながら窓の外を眺めた。

1男1女。息子にはカール・ハインツ・エルンハイム、娘にはソフィ・ラスムッセン・ハインツという名前をつけるつもりだった。

引退後はデンマークへ移住する計画だった。大きな邸宅、静かな海辺、そして子どもたち。それで十分だった。

「契約と責任さえはっきりしていればいい。」

彼は軽く笑いながら後ろに身をもたせかけた。

あとは……うまく締めくくるだけだ。

今回は承赫とハインツ、二人の視点を交互に描きました。派手な戦闘シーンと、ハインツの静かで孤独な人生観——その対比を楽しんでいただけたら嬉しいです。次回はいよいよ東京編が始まります。お楽しみに!

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