38: チャンソプとの再会、そして最後の決闘
卒業から数日後、スンヒョクは校庭で一年半ぶりにチャンソプと再会する。かつてのライバルは医大生となり、最後の一戦を求めてやってきた。言葉は鋭く、でもどこか静かだった二人の対話。勝敗よりも大切な何かを確かめるような、最後の決闘。そして届いた一通の兵役免除通知書——そこに刻まれた言葉は、かつて最も恥ずかしかった自分の記録だった。旅立ちの前夜、スンヒョクの青春がひとつの幕を静かに下ろす。
第38話 – チャンソプとの再会、そして最後の決闘
2029年1月、高校卒業から数日後。
スンヒョクは最後に、三年間通ったペクウォン高校の廊下をゆっくりと歩いていた。
あと三ヶ月……この国ともお別れだ。
古びた教室、体育館、ベンチの一つひとつまで見慣れていた。でも今日に限って、その見慣れた風景が、どこか見知らぬもののように感じられた。まるで初めて見る景色のように。
その瞬間、後ろから声が聞こえた。
「スンヒョク」
振り返ると、三年時の担任の先生が立っていた。
「卒業式の日、インフルエンザで出られなかったって聞いたけど?」
「……はい、先生」
「卒業式の日、どうしてもお前に会いたいという子がいてね……去年自主退学したチャンソプっていう子が……」
スンヒョクの目が、一瞬揺れた。
「……パク・チャンソプですか?」
「そう。かなり遠くからわざわざ来てたよ。お前と絶対に話したいって言ってたけどね」
先生が立ち去った後、スンヒョクはしばらくその場に立っていた。パク・チャンソプ。一年半の間、一度も思い出すまいとしていた名前だった。いや、実際にはたまに思い出していた。思い出さないようにしていただけで。
彼はゆっくりと校庭の方へと足を向けた。
冷たい風が校庭を吹き抜けた。塀の下に、フードをかぶったパク・チャンソプが立っていた。
「久しぶりだな、チェ・スンヒョク」
「パク・チャンソプ……」
スンヒョクの目つきが鋭くなった。胸の奥から何か熱いものがこみ上げてきて、すぐに静まった。怒りなのか懐かしさなのか、自分でもわからなかった。
「お前の策略、俺よりずっと立派だったな」
「久々に開口一番……それは褒め言葉か、皮肉か?」
チャンソプはニヤリと笑った。
「国家代表の地位も捨てたって? 数ヶ月後にはドイツへ発つと。ほのぼのとした美談か? それともまた何か裏があるのか?」
「そっちこそ……不祥事で退学したお前が、一年半の間どこで何をしてて今さら現れたんだ」
「個人的な事情があった」
チャンソプは顔を背けて、しばらく黙った。その沈黙の中に、何かが込められていた。スンヒョクはそれ以上聞かなかった。
「俺はもう『アリーナオンライン』をやめる。今日が最後だ。このスマートウォッチも捨てる」
彼は手首のデバイスを見ながら言った。
「でもその前に、最後にお前と戦いたかった。本気で」
冷え切った空気の中で、二人の視線が交差した。長い間眠っていた戦場が、再び開かれようとするような緊張感だった。
スンヒョクは首を傾けながら聞いた。
「俺が今さらお前と戦わなきゃいけない理由は?」
チャンソプは少し間を置いてから言った。
「俺、今年から首都圏の医大生だよ。退学後に勉強から手を離したら成績がガタ落ちしてな」
スンヒョクが皮肉っぽく笑った。
「弱い奴を見下して、カード後援を名目に巻き上げて、やりたい放題やってたのに……ようやく少しは鼻が低くなったか?」
チャンソプはうなずいた。
「確かにあれは俺の落ち度だった。認める。でもお前も正直に胸に手を当てて考えてみろよ。あの国家代表の譲渡、何の魂胆があったのかを」
スンヒョクはしばらく言葉が続かなかった。風が吹き抜けて、二人の間に奇妙な緊張が流れた。
「……それは俺のやり方だった。他人が理解する必要はない」
チャンソプが聞いた。
「逃げの移住か? それとも人生逆転か?」
スンヒョクが断固として言った。
「人生逆転だよ。青少年期が惨めだったなら、青年期くらいは輝かなきゃ。人生で一番若い時期じゃないか、そうだろう?」
チャンソプはしばらくその言葉を噛みしめてから、ふっと笑いながらスマートウォッチを差し出した。
「ふっ……始めようか。親善試合だ」
スンヒョクも微笑みながら答えた。
「全力でいこう」
パク・チャンソプが迷いなくヘラクレスを取り出した。
巨大な神話の英雄が形を成し、スンヒョクへと突進した。スンヒョクは反射的に黄金の盾を取り出して防いだ。衝撃波が二人の間を揺るがした。
最初の一撃から違う。昔のチャンソプじゃない。
スンヒョクはシャルルマーニュの十二騎士を召喚して反撃した。チャンソプは李舜臣と豊臣秀吉で応戦した。東西が入り混じった組み合わせ、単純ではなかった。
二人は無言でカードを打ち合った。攻撃と防御、隙を突く指の動き。息遣いさえ聞こえそうな静寂の中、戦いは張り詰めたまま続いた。
成長していた。一年半、ただ過ごしていたわけじゃなかったんだ。
スンヒョクは奥歯を噛み締め、AI同期化技術『ローラン=マンネルヘイム』を発動した。カードとプレイヤーが一つに融合して光を放った。巨大なエネルギーフィールドが展開され、戦場の流れが一気に変わった。
チャンソプのヘラクレスが揺らいだ。ハデスの影が差し込むと、ヘラクレスは徐々に薄れ、消滅した。李舜臣と豊臣秀吉も次々と倒れた。
「やっぱりお前の方が一枚上手だったな」チャンソプは納得したように頭を下げた。
スンヒョクは深く息を吐き出した。勝ったけれど、その勝利が軽くなかった。最後まで激しく戦ったチャンソプのプレイが、指先に残っていた。
チャンソプは静かに手首のスマートウォッチを見つめた。
数千時間の戦闘記録、数百回の勝敗。その中に過去の自分が宿っていた。ゴミ箱の脇で足を止めた彼は、しばらくそこに立っていた。指先にウォッチの重みが感じられた。単なる電子機器じゃなかった。自分が最も必死に生きていた時間だった。
そして結局、コトン。
小さな音を立てて、スマートウォッチはゴミの山の上に落ちた。
「本当にやめるのか?」
スンヒョクの問いに、チャンソプは静かにうなずいた。
「ああ。卒業したら患者を診ながら生きていくよ」
淡々とした声だったが、決意が滲んでいた。アリーナオンラインの伝説的なカードバトラー、パク・チャンソプはもう存在しなかった。
「俺の負けだ、スンヒョク。実力も、選択も全部お前の方が上だった。俺は現実に足をつけることにした……お前はまた別の世界へ飛んでいくんだろうな」
「後悔はないか?」
チャンソプは首を振った。
「ない、むしろ気が楽だ。あの世界で勝とうが負けようが、結局残るものは何もなかったから」
スンヒョクは最後にチャンソプを見つめた。白衣を纏って病院の廊下を歩く、一人の人間の未来を想像しながら。
「元気で生きろよ、パク・チャンソプ」
「お前も……ドイツで絶対に生き抜けよ」
二人は握手を交わした。言葉は短かったが、その手の先に三年分の重みが込められていた。
スンヒョクは静かに背を向けた。そして歩きながら、一度だけ振り返った。
春の花びらが舞い散る校庭の上に、チャンソプの後ろ姿が遠ざかっていた。伝説のライバル、スンヒョクにとって唯一対等だった存在。彼は今日、静かにスンヒョクの人生から消えていった。
その日をもって、俺たちの戦績は二勝二敗になった。
スンヒョクは静かに笑った。
もし五度目の対決があったなら、本当の勝者が決まっていただろう。でもその必要はなかった。あいつはあいつなりに成長したし、俺も俺なりに前に進んでいるんだから。
数日後、スンヒョクは兵務庁から届いた郵便を受け取った。
封筒を開けると、見慣れた言葉が目に入った。
〔召集除外通知書/兵役免除〕
事由:慢性拒食症、うつ病、抗うつ剤五年以上服用、喘息(現在は完治しているが過去の既往歴)
しばらくその紙を見つめた。
苦かった。免除の事由が、ほかでもない自分が一番苦しかった時代の記録だったからだ。拒食症、うつ病、抗うつ剤。その言葉たちが公式の書類の上に並んで刻まれていた。かつては恥ずかしくて誰にも言えなかったものだった。
でも同時に、すっきりもした。もう本当に、あとは発つだけだった。
あの時代がなければ、今の自分もいなかっただろう。惨めだった青少年期が、結局自分をここまで連れてきたのだ。書類を静かに置きながら、彼は窓の外を見た。
冬が終わろうとしていた。花が散り、季節が変わっていた。それとともにスンヒョクの人生も、一つの章を閉じようとしていた。
もう本当だった。あとは体ごと出ていくだけだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。チャンソプとの再会シーンは、ずっと書きたかった場面でした。悪役でも敵でもなく、ただ別々の道を選んだ二人。兵役免除の通知書を書きながら、一番辛かった時代が、実は今のスンヒョクを作ったのだと改めて感じました。次回からはいよいよドイツ編です。どうぞ引き続きよろしくお願いします。




