イメージは無限
銃口を向けられたかのような緊張感。ソラは狩人に見つからないように息を潜める小動物のように浅く呼吸をする。
ソラの恐怖を軽蔑するような冷たい眼差しを魔王は向ける。天才魔道師アイオン・ヴァレフォール。メイド服という愛らしい衣装の歪さが彼の不気味さを増長する。
「恐怖で己を縛るな。」
静かに淡々と天才魔道師はそう呟いた。憐れみにも感じる。ソラは目の前の男の冷たい瞳の奥に強い光を感じた。
「余計な感情をもつことは、想像を制限する。
イメージが魔法となるこの世界ではそれは致命傷になる。」
低い声に宿る凄みにソラは思わずのけぞる。魔王の言葉を脳で反芻するが意図が読めない。
そんなソラの気持ちなどお構いなしに天才魔道師は話を続ける。
「イメージは無限だ。しかし、人の心はそれを縛る。
多くの経験や常識という偏見が人のその無限の可能性を狭めていく。」
憐れむように魔王は視線を遠くにやる。一息静かに吐き出す。
「小僧。貴様の豊かな空想力はこの世界の常識を変えるかもしれぬぞ。
何を恐れる?それほどの才を持ち、それを扱える環境を手に入れた。
恐れるものなど無いハズだ。なんなら想像してみろ。この俺を消し去るイメージを!」
魔王の一言一言に熱が帯びる。最後の言葉には底知れない狂喜が混じる。ソラは呼吸を荒くする。胸ぐらを掴まれたような圧を感じる。
しかし、目の前の男はただ煽るように手を広げ立っているだけだ。先程まで冷めていた魔王の目の奥に炎が宿っているのがわかる。直視すれば燃え移るかのような視線。だが、目をそらせない。
ソラは困惑し自分でも信じられない行動をとってしまう。手にもったフォークでパスタをすくい口に運ぶ。味などしない。
魔王は虚をつかれたように熱を帯びた目を点にする。ソラにはその顔が滑稽に見えた。
お互いの態度に両者の頬が緩む。魔王は思わず吹き出す。ソラも思わず口角をあげてしまう。魔王の笑い声が海底都市にこだまする。
「ハハハハハ。面白いなぁ、小僧。」
魔王は右手の人差し指を自身の頭の横に運びくるくると回す。ツボにはまったらしくそれ以上は喋れず笑い続ける。
ソラの気持ちが軽くなる。視界が広がる感覚がある。気づくと向かい合う魔王の頭上から少し離れた位置に影が見える。
イルカのススギさんである。彼は海中に直立しこちらの様子を伺っている。守られてる。ソラはそう思った。少年はスズキさんにもう大丈夫と言うように笑みを浮かべる。スズキさんは小さく頷き泳ぎ去っていった。
魔王は呼吸を深くし整えている。腹を抱えた姿勢から背を反らしてのびをする。一息大きく吐き出すと再び語り出す。
「大人が纏う常識という名の建前の鎧など着飾るな。少年よ。」
魔王がソラの前に右手を差し出す。その開かれた手のひらには指先まで熱がこもっている。
「このアイオン・ヴァレフォールが導こう。共に魔法の、この世界の常識を覆そうではないか」




