異国の味
海面からさす光に群れる魚たち。漂うクラゲたちは青く輝く。円盤が去って数時間、海底都市は平和そのものに見える。
しかし、残された人魚の長老や神官たち、ソラにオトの表情は暗い。円盤から出てきた少年は二日後に来ると言って帰っていった。
科学と魔法の対決のルールを考える。そう言った彼は新しいオモチャを手に入れた喜びに満ちた顔をしていた。この都市のこの世界の命運をゲームとしか思っていない。
長老は反抗して意見したがウサギに変えた海底都市の住人たちを人質にされた。円盤からさらに小型の円盤が現れ連れ去っていったのだ。
小型の円盤すら高度な科学の集大成。抵抗しようとした長老と神官たちはすぐに制圧された。力を使いすぎていたソラは魔法が使えず見ていることしかできなかった。
無論、アイオン・ヴァレフォールと久遠蒼真両名は干渉せず傍観している。冷めた目を向ける天才魔道師と小型円盤に好奇心を見せる天才作家。
小型円盤が母体の円盤に戻り少年も円盤に吸い込まれていく。巨大な鉄の塊だけが海底都市の上空に残る。一瞬の静寂。
すぐに凄まじい機械音が都市を包む。円盤が激しく振動する。その揺れに呼応するように水中に泡がたつ。次の瞬間、、、
円盤は瞬く間に姿を消した。円盤のあったその場所には細かい泡の群れだけを残して、、、
ソラは一人、神殿の外の階段に腰掛け昼食をとっていた。見た目はパスタだが味付けは少々異国を感じさせる独特なものだ。何のソースがかかっているのかわからない。
海底に広がる小麦畑はその黄金を波に揺らす。穀物や野菜は地上と同じように地面に育つと聞いてソラはそれをイメージしていた。
神殿の食堂で皆と一緒に食事をしていたがソラはその重苦しい無言の食卓を耐えられなかった。食器をもって立ち上がったソラにオトが声をかけようとしたが、長老が制した。少女は切なそうに顔を伏せ少し浮かせた腰を席に戻した。
ソラは一人になる時間が必要だ。色々な出来事、元の世界に帰れるかという不安、そしてそれぞれの感情。少年の豊かな感受性はすべてを吸い込み心を破裂寸前まで膨らます。
誰ともかかわらず無言で過ごす。このひとときに心を落ち着かせる。脳内でぐるぐると回る思考の渦に飲まれないように一人で集中する。
麺が唇に触れる感覚、食感、温度、一つ一つの動作に集中する。気持ちが落ち着かないときソラが無意識に習得した方法だ。
気づくと影が落ちている、目の前に人がいる。この瞬間まで気配はまるでなかった。
顔をあげると意外な人物が立っていた。
白と黒のベースのメイド服が目をひく。その服の可愛らしさに合わない端正な顔立ち。冷めた目付き。
魔王。天才魔導師アイオン・ヴァレフォール。彼がソラを見下ろすように立っていた。
ソラは思わず息を飲んだ。目は彼を凝視し離さない。気持ちだけが逃げ出したいと思う。呼吸と心臓の鼓動が共鳴するように速くなる。
舌に残る異国の味など一瞬で吹き飛んだ。目の前の魔王はそれ以上に刺激的だった。




