時計台のあの鐘の音
ソラが目を開けたのは昼過ぎのことであった。海底都市には明け方の一件以降、変化はない。だが、上空の円盤、ウサギに変えられた住人たち、完全には日常は戻っていない。
人魚の長老の指示で街の端の民家の一室を借りてソラを寝かせていた。神官たちは交代で円盤と天才魔道師の動向をうかがっている。
長老とオトはソラの眠るベットの横で彼が目を覚ますのをまっていた。ソラが目覚めてオトと目が合う。彼女の目は少し潤んでいるように見えた。長老は安堵したように息をもらすとソラを見て微笑んだ。
温かいスープが喉を通る。ソラの心まで温まるように胸に染みる。プールを泳いだ後のようなだるさがまだ体には残るが立っていられないほどではない。
少し遅い昼食をすませると時刻は15時を過ぎたところだった。長老は別室で神官たちと今後の作戦をたてている。
オトとソラは昼食用に用意した長机にむかい合うように座っている。昼食の間にソラはオトから円盤に変化が無いことを聞いた。自分が眠ってる間に進展はない。それを聞いてソラは安堵した。
しかし、謎と不安は残る。円盤の正体、そして目的、今後の動向。考えれば不安は増す。そして一番の懸念は天才魔道士の存在。海底都市に現れたという偉人。かつて魔王と呼ばれた男。
長老の話では昼過ぎ、動向を伺っていた神官の目の前から突如として彼らは姿を消したようだ。そう、彼ら。天才魔道士アイオン・ヴァレフォールの傍らには彼と瓜二つのもう一人の男がいたらしい。長老もその男の正体はわからないという。
ソラはいくつかの書物に写る天才魔道士の姿を見せてもらった。背筋が凍った。その顔は見覚えがある。久遠蒼真。ソラのいた世界の天才作家。
ソラは考察した。この二人。一人はこの世界の魔王=アイオン・ヴァレフォール。もう一人はその魔王が転生させた天才作家=久遠蒼真。
あの天才作家の想像力ならこの奇想天外な状況を作りだせる。あの円盤も、ブリキの巨大ロボも、ウサギにかえられた都市の住人たちも全て彼の仕業。納得はいく、、、
しかし、それと同時に恐怖する。天才作家・久遠蒼真に想像力で勝てるイメージがわかない。ここはイメージが魔法になる世界。まさにこの世界において久遠蒼真は魔法の天才と呼べる存在。
考えれば手が震える。そんなソラの不安を感じ取ったのかオトが下を向くソラの顔をのぞきこむ。ソラは首をふる。
「なんでもないよ。大丈夫。」
精一杯の強がりが見抜かれていることはオトの顔から不安が消えないことでソラにもわかる。しかし、それ以上にソラは何を言えばいいのかわからない。真実を語っても不安は消えない、むしろ増すだろう。
二人の間に沈黙が流れる。二人ともなにを言っても気休めにもならないことは理解しているからだ。
静寂を切り裂いたのは鐘の音だ。時計台のあの鐘の音。あの音はいつも不穏をつれてくる。少年、少女二人の胸は鐘の音に呼応するように鼓動を早くしていた。




