考察など馬鹿馬鹿しい
アイオン・ヴァレフォールは世界樹の根元で久遠蒼真が発動した魔法を思い出していた。
蒼真はその場(世界樹)ではなく、宇宙のどこかにいる月の民のもとに三人目の久遠蒼真あるいはアイオン・ヴァレフォールを転移させたと言った。そのときはアイオンも半信半疑だった。
だが実際、海底都市に現れた円盤に魔力はなく紛れもなくアレは超科学。海底都市の上空に浮かぶ円盤を見て蒼真の魔法が成功したことをアイオンは確信していた。
となれば円盤を操るのはもう一人の自分。アイオン・ヴァレフォールが魔法の天才であり、久遠蒼真が創造の天才、もう一人は科学の天才であると予想できる。だが、次の行動が予想できない。
少なくとも海底都市の住人を殺すのではなくウサギに代え無力化したのは冥月王対策。月の民の入れ知恵があるのは確かだ。
このままあっさり引き下がるとは思えない。あの鉄の巨人は小手調べに過ぎない。次はなにを仕掛けてくる?もう一人の自分でありながら予測がつかない。アイオンはそのことを久遠蒼真を通して学習済みである。
一方の久遠蒼真は十キロのランニングを終え軽いストレッチを始めていた。超科学の世界の自分自身がどんな手段を仕掛けるか彼の中で興奮が止まらない。そして、同時にロボの進行を止めた"再生の魔法"の発動者の正体も気になっていた。
久遠蒼真は考える。もしも自分なら海の中の都市というオモチャを得てどんな科学の実験を行うか?
思わず口角があがる。考察など馬鹿馬鹿しい。この状況を存分に楽しむには成り行きに任せる。予測などいくらでもできる。想定外の事態になってこそ…面白い。
アイオンは突然声を出して笑いだした蒼真を冷めた目で見つめる。自分にはわかる。その笑いは聞いて愉快なことではないだろう。鼻から大きく息がもれる。
アイオン・ヴァレフォール。歴史上最強にして最悪の魔道師。とうの昔に歴史の中に消えたハズの男が眼前にいる。人魚の長老から嫌な汗が流れる。建物の影に隠れ神官たちと様子を伺う。
かつて異界の勇者に敗れたと伝えられる男。長老は口からブツブツなにごとか呟く。
「まさか、封印が解かれたというのか…。
どうやって、、、勇者の封印は勇者にしか解けないと聞く…」
その疑問は久遠蒼真も世界樹の根本でアイオンに訪ねていた。しかし、封印を実際に解いたのは蒼真自身である。蒼真の疑問は別の視点からだった。
「勇者の封印がなぜ転移魔法が使える程ゆるいものだったんだ?私なら意識を失う封印。なんなら石化などをイメージするが?」
すると天才魔道師は淡々と答える。
「簡単さ。俺を封印したのは俺自身だからさ。」
その解答にはさすがの天才作家久遠蒼真も思考を止め頭に疑問符を浮かべる。しかし、瞬時に彼の頭のなかに一つの物語が生まれる。
そして、「くくくっ」と笑いがこみ上げてくる。蒼真はもう一人の自分に「アホだな」と告げる。
アイオンは黙って口角をあげマジシャンが種を明かすように得意気に自分の発言の解説を始める。
「勇者が使った封印は世界樹に私を縛り付ける魔法。もちろん意識を失うくらいのことも想定しただろう、、、。
その魔法の発動の瞬間に私は魔法を自分自身にかけた。
意識を失う封印魔法。ただし時間制限つきでな。」
話を聞き蒼真は笑みを浮かべて頷く。アイオンが続ける。
「もちろん、数日数年程度の封印なら重複した勇者の封印魔法に上書きされる。
そこで、数百年単位のタイムリミットを設けて私は私を封印した。
さすがに勇者もそこまでのイメージはできなかったようだ。ご覧のように時間制限がきて意識は戻せた。
しかし、世界樹に縛り付ける魔法は数百年後も健在だった。」
アイオンは意識を取り戻したときのことを思い出したのか不愉快な顔をする。
「おまけに世界樹は私の魔力を吸い出していた。そのため世界樹を破壊するほどの強力な魔法は出せない。
そこで転移魔法を思いついた。あの魔法は転移してくる側、つまりお前の魔力を使うことができる。」
蒼真は顎をなでなるほどと言うように頷いた。




