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開き続ける箱  作者: tomsugar


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12/18

12.一人で来てはいけない場所

由里は、いつものように研究室へ資料を取りに立ち寄った。


ゼミ室の奥には、黒崎の姿があった。

謝罪、心配、会話――どれも普通に見えた。


その部屋は、ただの研究室でありながら、


一人で来てはいけない場所だった。


          *


由里は卒論の資料を取りに、一人でゼミの研究室を訪れていた。

午後の研究棟は静かで、人の気配はほとんどない。




研究室の奥の扉を開けると、黒崎がひとり、机に向かっていた。

彼女の姿を認めると、ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。




「……危険なことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ない」


「やめてください、黒崎さんのせいじゃないですから」

由里は軽く手を振ると、作り笑いを浮かべてみせる。




「体調は……大丈夫?」


「ちょっと打ち身があるくらいで、ピンピンしてます! めっちゃ健康です!」


黒崎があまりに神妙な顔をしているので、あえて元気に振る舞ってみせた。


「バイトの引継ぎでも、論文の手伝いでも、なんでもする。言ってくれ」


「だから……黒崎さんのせいじゃないですって。でも、バイトは何かあったらお願いしますね」


「わかった」




短い沈黙。



由里はふと思い出し、黒崎の方へ向き直る。


「そういえば、黒崎さんに渡した“D15”の鍵、どうしました?」


黒崎が彼女の方を見て、小さく「ああ……」とつぶやく。

ゆっくりと、机の引き出しに手を伸ばし――そして、止まった。


中を覗き込んだ彼の顔が、徐々にこわばっていく。




「……鍵が、ない」


その声はかすかに震えていた。



黒崎はゆっくりと顔を上げ、由里の方に体を向けた。




「斎藤さん。――D棟に、一緒に来てくれないか?」




「D棟ってなんですか?」由里の声は震えていた。




「知ってるんだろ?」




その言葉に、由里の背筋がぞくりと凍った。

黒崎は微笑んでいた。けれど――




目が、笑っていなかった。




無表情の奥で何かがひび割れている。

その視線に射抜かれた瞬間、由里の心臓が跳ね上がった。




「……いえ、私、もう行かないと」


逃げるようにしてドアに向かった。だが、ノブが回らない。


「……なんで……?」由里がつぶやくと。




「無駄だよ」

黒崎が優しい声で答えた。


いつになく穏やかだった。異常なほどに。


ゆっくりと、笑顔のまま彼が近づいてくる。




「君には、D棟での実験に付き合ってほしいんだ」




「絶対嫌です!」



由里はパニックになりながら、ドアノブを必死に回し続けた。




「開いて、開いて……っ」




――カチャッ。


不意に、ノブが回った。扉が、わずかに開く。




「……馬鹿な……」




黒崎が低くつぶやいた。


その瞬間。




「言いつけ破って、一人で来た悪い子はどこですかー?」


軽く響く、遥の呑気な声が部屋に入り込んできた。


「遥……と、淳平くん?」




由里が振り返る――だが、そこに黒崎の姿はもうなかった。


背後の非常扉が、わずかに揺れていた。




<第15話へつづく>

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