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開き続ける箱  作者: tomsugar


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11/18

11.欠番のロッカー

D棟――かつて手術棟として使われていたその建物は、

今では備品倉庫として、ひっそりと大学の裏手に佇んでいる。


段ボールの山、古びた書類、誰も見向きもしない在庫表。

そこに、特別な意味などあるはずがない――はずだった。


由里と遥は足を踏み入れる。


静かだった空間が、ゆっくりとざわめきはじめた。


          *


備品倉庫のバイトは、始業前に資材管理室に声をかけ、終わったら在庫表を提出するだけという、かなりおおざっぱなものだった。


「バイトはいつから始めますか?」と訊かれた瞬間、


「今日からやります!」


最初に簡単な図面を渡されて、1階の備品の在庫を調べるように指示された。


由里と遥は即答し、D棟――備品倉庫の鍵を受け取った。




ギィ……。


古びた鉄の扉を押し開けると、中は明らかに「病院の名残」を感じさせる造りだった。スイッチを押すとパチパチと点滅しながら蛍光灯がつく。

それでも廊下はどこか薄暗く、湿った空気がわずかに肌にまとわりつく。


図面によれば、D棟は地下、1階、2階構造。12室ある手術室はすべて1階に集中していた。

今はその一部が倉庫として使われており、手術台のあった空間には段ボールや棚が乱雑に積み上げられている。


中に保管されていたのは、カルテ用紙、診察札、使いかけのバインダー、文房具、ストレッチャー、白衣、廃棄予定のマニュアル類など。

注射針や薬品など、厳重管理が必要なものは一切見当たらなかった。




由里は一通り部屋を見て回ると、在庫表の記録と照合しながら、倉庫業務の拠点になりそうな部屋に目星をつけた。

その上で、遥のほうを振り返る。


手に持っていたのは、さっきもらったD棟の図面。


「ここだけ、他の部屋より狭いねん。なんの部屋かなと思ってんねん」


図面の一角を指しながら、由里が言うと、


「更衣室とかじゃないん?」


遥が覗き込む。


「ううん、更衣室やったら、シャワーとかも付いてるはずやし。もうちょっと広いはず」


「ふーん……じゃあ、何やろ」


ふたりは図面に記されたその“狭い部屋”へと向かった。




問題の部屋は、細長く、入口付近には古いロッカーのようなもの。そしてその手前には、段ボールがいくつも積み上げられていた。

床面はほとんど埋まり、内部には入れそうにない。


まずは段ボールをひとつずつ引き出し、内容物を確認していく。

由里が中身を調べ、遥が在庫表に記録していく――見事な連携だった。


ほとんどの段ボールを廊下に運び出したあと、ふたりは部屋の全体を見渡した。

ロッカーは壁沿いにずらりと並んでいて、床面は人がようやくすれ違える程度。


「……へんな部屋」


由里がぽつりとつぶやいた、そのときだった。


「ちょ、見て由里!」

遥の声が跳ねる。


床に、小さな鍵が落ちていた。

タグには『D10』の文字。


「これ……」


「このロッカーの鍵かな?」


ロッカーを改めて見てみると、扉の一つひとつに番号がうっすらと書かれていた。

1、2、3……16まで。だが――


「15番が、ない……?」


15だけ、ロッカーの並びから抜け落ちたように、ぽっかりと空いていた。


「……由里が拾った鍵って、D15やったよな?」


「うん……」


由里はゆっくりうなずく。


「試しに、このD10の鍵で開けてみよか」




――その時。


ギィィ……。


廊下の奥から、鉄扉のきしむ音が響いた。


「えっ……誰?」


由里が小さく震えながら振り返る。


「しーっ」


遥は、まるでこの瞬間を待っていたかのように冷静だった。


足音が近づいてくる。

一人分ではない、複数。ゆっくり、だが確実に。


「……患者に鎮静剤を打って。おとなしくさせて」


「はい」


何かが暴れているような、鈍い衝撃音。

そして――沈黙。


「では、手術を開始しようか」




その声に、由里の背筋が凍りついた。


聞き慣れた声だった。

聞き間違えるはずのない――


黒崎の声に、あまりにも、よく似ていた。




<第14話へつづく>

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