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第十三話:はみ出し者同士

「ガルシャちゃ〜〜ん!」


 ハッとして振り向くと、メリルがこちらへ走ってきていた。そういえば、彼女を置いてきていたのだった。


「メリル…!」


「もう〜、探したんだから!途中まではうまく匂いを追えてたのに、美味しいケーキの匂いに釣られて遠回りしちゃってさ〜!」


 メリルは息を切らしながらそう言って、手に持っていた菓子箱を私に見せた。


「二人分買ってきたから、ガルシャちゃんも一緒に食べよ〜!」


「あ…うん……ごめんね、一人で勝手に突っ走っちゃって」


「いいのいいの!気にしないで!で、何してたの?何か気になるものでもあった?」


「そうだね…」


 私は真剣な表情で、先ほどゼトが歩いていった方向を見つめた。


「…新しい人材、見つけたかもしれない」


「え、本当!?」


「でも、その人にも色々事情があって、入団は難しいって」


 メリルは自分のことのように耳を垂らし、しゅんとした表情を浮かべた。


「そっかぁ…」


「だから…」


 私は真っ直ぐな眼差しで、再びメリルの方を向いた。


「明日、この辺の人達に聞き込みをして回ろうと思う。それで、あの人のことをちゃんと知った上で、もう一度お願いしてみる」


 それを聞いて、メリルがパァッと笑った。


「いいね、それ!私も手伝う!」


 私も笑みを浮かべた。次の計画を思いついたこと、そして、彼女が側にいてくれることで、少し自信が湧いてくる。諦めるのはまだ早い。


「ありがとう」


ーーー


 次の日は国民の祝日であるため、学校は休みだ。故に、自由に聞き込みを行うにはうってつけの日である。


 午前中、まだゼトが現れないであろう時間に、私達は昨日の場所へ戻った。私は袖の広い牡丹色の服を着て、草色のズボンを履いており、メリルは水色のワンピースを着て、首に青緑色のスカーフを巻いていた。二人で周辺を回り、ゼトに関する情報を集めるつもりだ。


 まず最初に訪ねたのは、ゼトが演奏していた場所のすぐ近くで、珍しい野菜や果物を売っている八百屋だ。くるくると跳ねている黒い髪を持ち、桃色の服の上にアイボリー色のエプロンをつけている女性だ。


「あのエルフさんね〜、つい最近この町に来たらしいのよ。元々は遠い西のエルフの里に住んでたんだって」


 女性は片手を頬に当てた状態でそう言った。私は深く考えながら、メリルの方を向いた。


「遠い西…ウィンディ地方のことかな?」


「多分そうかも。でもエルフの里の話は初耳だよ」


「もしかしたら、地図にも載ってない、隠れた里なのかもしれないよ」


 八百屋の女性が口を挟む。


 なるほど、隠れ里か。確かにどこか浮世離れした雰囲気があったな。どうしてこの町に来ようと思ったのだろう。単純に音楽が好きだったからだろうか。


 その後、私達は靴磨き職人の男性に声をかけてみた。乱れた髪を帽子で覆っており、肩にかける為のベルトが付いているズボンを履いていた。私の世界で言うサスペンダーだ。


「俺ぁ好きだぜ、あの兄ちゃんの音。前に聞いたんだが、独学でルドゥの弾き方を覚えたらしい」


「へぇ…そうなんですか」


 私は感心した。あんな独特な音色を、魔法も使わず、己の技術のみで習得できるとは。しかも、誰に教えられたわけでもなく、たった一人で。思わず、前世の自分と重ねてしまう。誰にも認めてもらえず、孤独に奮闘していた学生時代。一生懸命貯金して買った古いエレキギターだけが、私の友達だった。ゼトにとって、あの異形のルドゥがそうなのだろうか。


 さらに、街行く一般人にも何度か声をかけてみたが、特に新しい情報は得られなかった。毎日ゼトの音楽を聴きに来ている者も、実際はあまり彼のことを知らないようだ。


 そして最後に、私達は路地の側にある小さな酒場を訪れた。壁や床など、全体が木でできており、中のカウンターやテーブルはとても綺麗に磨かれていた。


 カウンターの裏で木樽ジョッキを磨いている、五十代くらいの小綺麗な男が、おそらくマスターであろう。腕まくりをした白いシャツの上に、洒落た黒いベストを着ている。酒場というより、バーのマスターみたいだ。


「ここは子供が来る所ではないよ」


 私とメリルが店に足を踏み入れた直後、彼は柔らかな声でそう言った。


「あ、いえ…私達、もう18です」


 この国では、成人年齢は18と指定されており、飲酒やタバコも18歳から合法とされている。


「そうか…では、何か飲むかね?」


「いえ、そうではなくて…実は、この近くでいつもルドゥを弾いている、エルフの男の人について聞きたいんですが…」


「悪いが、あまり個人的なことは話せないな。客の秘密を守ることもまた、私の義務だからね」


 私はハッとし、少し俯いた。


「そう…ですか。そうですよね。失礼しました」


 それもそうだ。知られたくないかもしれない情報を集めて回るのは、本人に失礼だろう。なぜそのことを考えなかった?やっぱり私は、いつまで経っても自分勝手な人間なんだな。


 私は踵を返し、扉の方へ戻ろうとした。彼がここに来ていたと知れただけで、十分だと思うことにしよう。


「あの…!!」


 突然、メリルが声を発した。私は足を止めて振り返り、マスターはジョッキを磨く手を止めて顔を上げた。


「私達、楽団をやろうと思っていて…今、新しい団員を探している途中なんです!昨日の夕方、ガルシャちゃんがあのエルフさんの音楽を聴いたって言ってました。すごく綺麗で、繊細で、聴く人を魅了するような音だって…あの人じゃなきゃダメだって言ってたんです!だから、彼とちゃんと話し合う為にも、彼のことを知る必要があるんです!些細な情報でもいいので、どうか…!」


 メリルは真っ直ぐな眼差しと切実そうな声色でそう言って、深く頭を下げた。私は慌てて彼女に駆け寄り、肩を掴んだ。


「ちょ、メリル!?そこまでしなくていいって!大丈夫だから!ね?ほら、行こう!」


「…なるほどな」


 その低く落ち着いた声を聞いた時、私とメリルは同時にカウンターの方を向いた。マスターがジョッキを手放し、考え込むような表情を浮かべていた。


「そうか…楽団か……それは、彼の為にもなるかもしれないな」


「どういうことですか?」


 私が目を見開いた状態で尋ねると、マスターは静かにため息をついた。


「彼は…ゼトは…他人と触れ合うことを頑なに拒んでいる。いや…自分から遠ざけようとしている、と言った方が正しいか。エルフという種族は、並外れた魔力素質を持っていることで有名だが、ゼトは生まれつき、魔法が使えないらしいんだ。そのせいで里を追われ、ずっと一人で旅を続けてきた。自分は厄介者だから、きっとみんなに迷惑をかけてしまう…そう思って生きてきた」


 私はゆっくりとその言葉を飲み込みながら、唇を引き結び、俯いた。そうか…だからゼトは、道具や部品のみでルドゥの音を加工していたのか。魔法を使わないのではなく、使えないのだ。それ故に孤立してしまい、今も他人と関わることを恐れている。


(やっぱり…昔の私みたいだ…)


 どうしても、そう思わずにはいられない。周りの人と同じことができず、笑われ、蔑まれ、孤立させられる。前世の学生時代、幾度となく経験した苦しみ。後にバンドメンバーとなる同級生が声をかけてくれた時、私は初めて知った。その苦しみから心を救ってくれるのは、信頼できる味方の存在であると。


「君は…」


 ハッとして顔を上げると、マスターが真っ直ぐこちらを見ていた。


「彼の音が、美しいと思うかい?」


「…はい!」


 私は瞳の内に火を灯し、自信を持って応えた。すると、マスターは嬉しそうに微笑んだ。


「…私もだ。どうか、君達の言葉と心で、彼に絆というものを教えてやってくれ」


 私とメリルは互いの方を向き、希望に満ちた笑みを浮かべた。そして私は、彼女と共に頭を下げた。


「はい…!!ありがとうございます!」


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