第1話
「……」
そうしてあっという間に来週になってしまった。
――結局、グレンも一週間姿を見せなかったし……って、ちょっと待って。
あの時は辺りが騒然としていて忘れてしまっていたけれど……ふと思い返してみると、アーリアの話の中に本来は出て来るはずのない「ある人物」が出て来た事を思い出した。
――なっ、なんで『リュア』が出て来たの?
確か、リュアはグレンの専属執事だったはずだ。
――それなのに……どうして彼の話が?
一応、グレンが「一週間ほど学校を休む」という連絡はそのリュアから聞いている。ただ、貴族にも色々な『事情』というモノがあるため、あえて深くは追求していなかった。
――王子と知り合いだった……のかしら?
考えてみると、グレンと出会ったのも幼少期に行った王子主催のお茶会だ。その可能性は否定出来ない。
――もしそうなら、リュアがあの場に出て来てもおかしくは……。
いや、それならば王子専属の執事などが出て来るはずだ。
「……? と、着いたわね」
今更ながら過ぎった疑問に首をかしげている内に、どうやらアーリアが指定した通り植物園に着いたらしい。
「……」
公爵令嬢である私の家にも『庭園』というのはあったモノの、ここまで大きな『植物園』を見たのは初めてだった。そして、植物園の中に入ると……。
「え」
そこにいたのは、アーリア……と。
「なんで、ディーンが」
「……お帰りなさいませ、お嬢様」
なぜか寮にいるはずのディーンの姿だった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ディッ、ディーン。どうしてここに?」
「……少し。お話をしなければいけないと……思いまして」
驚きのあまり、声が裏返ってしまっている私に対し、ディーンは申し訳なさそうな表情を見せる。
「話?」
「ええ」
状況が未だに飲み込めない私に対し、アーリアは「とりあえず座って座って」と言わんばかりの笑顔で私に手招きをして、イスに座るように促した。
「……?」
――なんで、アーリアがディーンと仲が良いんだろ?
言われるがままイスに座った私だけれど、チラッと視線を向けると、アーリアはディーンにお茶のおかわりを頼んでいる。
しかし、その様子は……どことなく「初めて会った」という感じがしない。
「気になりますか?」
「え……まっ、まぁ。確か、アーリアはディーンと初対面はずだから……」
そう言うと、アーリアは「まぁ、そうですよね。それが普通の反応ですよね」と苦笑いを見せる。
「?」
――どうしたんだろう?
「……うん、そうね」
「?」
「お姉様」
アーリアはいつになく真剣な表情で私の方を見る。
「なっ、何?」
「これから色々な話が出て来るけど、それはどれも全て『事実』で……。だから、時間はかかっても受け止めてくれるとうれしいです」
「え?」
アーリアは「何かを決心した様に」私にそう言う。
――どっ、どういう事?
「お嬢様」
「なっ、何?」
「実は、アーリア様は……同じなんです」
「……同じ?」
――ん? ちょっと待って。それって……。
「あのね、私。実は『天使』なの」
「……」
アーリアはさらに「突然こんな事を言ってごめんなさい」と言って下を向く。
「……」
「えーっと……」
ここでどういった反応をするのが正解だろう。実のところ、私は二人が話をしているのを聞いてしまったため、アーリアが「天使だ」という事を既に知ってしまっている。
――いつかは言われるだろうとは思っていたけど。どっ、どうしよう……。
まさか「今」言われるとは思っていなかった。
心構えなんてしていない。しかし、下手な言い訳はすぐにバレてしまうだろう。しかし、この状況で「何も言わない」という選択肢はない。
――こっ、ここは。
「まっ、まぁ。確かに驚いたけれど……えっと、究極の事を言ってしまえば『だから何?』ってワケだし」
私は視線を泳がせつつ、そうアーリアに言う。
――うっ、嘘は言っていないし。
確かに「ゲームの設定」とは大きく違うモノの、だからと言って大きな問題があるワケではない。
――現にこうしてちゃんと学校生活が送れているワケだし。
「本当!? 良かった~」
「!」
しかし、アーリアは相当緊張していたらしく、私の言葉を聞くと、とても嬉しそうな表情だった。
「……」
――こっ、この事は墓場まで持っていこう。
あまりにも嬉しそうなアーリアに、私は罪悪感を覚えながらも、そう心の中で強く誓った。
「ああそうだ、実はもう一人ここに来る予定なんです」
「もう一人?」
そう聞き返すように言ったところで……ちょうど植物園のドアが開き、そこにいたのは……。
「――グレン」
顔を下に向けたままのグレンが立っていた――。




