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生まれ変わったら『悪役令嬢』でした。  作者: 黒い猫
第十四章 生まれ変わったら『悪役令嬢』のはずでした。
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第2話


「……」


 顔を下に向けたまま気まずそうにこちらをチラチラと見ている『グレン』だった。


「グレン。どうしたの? 大丈夫? ここ最近ずっと学校を休んでいたみたいだし」


 そう言いながら近寄ると、グレンは申し訳なさそうな表情で私の方を見る。


「カッ、カナリア様。あの」

「?」


 いつも以上に言い淀むグレンに、私は思わず首をかしげる。


「どうしたの?」

「あの、その」


 なかなか言い出すタイミングが分からないのか、それとも緊張しているのか……どちらにしても、ただ事ではない。


「……」

「お姉様。実はグレンは……」


 私たちの様子を見ていたアーリアは思わず声をかける。


「いや。僕から……ちゃんと言うよ」


 そう言って「ありがとう」と続けると……。


「……え」


 突然、グレンの姿が歪み……そこから現れたのは……なんと『ゲーテ王子』の姿だった。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


「でっ、殿下!? なっ、なんで……」

「……すまない」


 目を白黒しつつ、目の前の状況を飲み込む事に、私は必死だった。


「え……じゃっ、じゃあ『グレン』は」


 ――ゲーテ王子だった……事?


 しかし、突然そんな事を言われてもすぐに「はい、そうですか」とは言えず、困惑するしかない。


「ずっと、騙す様な事になってしまって……すまない」

「……」


 そう王子は謝っていたけれど、それ以上に「驚き」が勝っていて、とても王子の言葉が残らない。


「お姉様。とりあえず、一旦座って落ち着きませんか?」

「えっ、ええ」


 アーリアにそう提案され、私はイスに戻り、気持ちを落ち着かせる。


「ふぅ」


 あまりにも突然の事に驚いてしまったけれど、実のところ。私はずっと「分かっていた」様な気がしていた。


「落ち着きましたか? お嬢様」

「えっ、ええ」


 ――でも、私は「あえて」気がつかないフリをしていたのかも知れないわね。


「……」


 そもそも、グレンに出会った『お茶会』の時点で「王子に違和感」はあった。


「じゃあ。あのお茶会の時点で王……殿下は既に『グレン』だった……というワケですか」

「……ああ」


 私の問いかけに、王子は小さな声で頷く。


「ただ、本当は……もっと本当の事を早くに言う……つもりだった。だが」

「?」


 チラッと私の方を見ると、王子はまたも顔に下を向けてしまう。


 ――どうしたんだろう?


 先程からなぜかゲーテ王子と視線が合わない。


「お嬢様は出来る限り殿下に会わない様にしておりましたよね」

「えっ、ええ」


 それを見かねて……なのかディーンはゲーテ王子の紅茶を準備しながら、私に声をかける。


 ――でも、それはあくまで「ゲーム通りに進みたくない」という気持ちからで……。


「って、ひょっとして……」

「もし、正体がバレたら、もう会ってはくれないのでは……と思い、なかなか言い出せなかった」


 そう言いつつ「我ながら女々しいな」とゲーテ王子は苦笑いを見せる。


「……」


 ゲームでの「冷たい」という印象しかしらなかった私にとって、そんなゲーテ王子のリアクションはあまりにも新鮮だった。


「ここ一週間は、あの騒動の処理で追われていて、なかなか学校に来る事も出来ず、こうして弁解する事も出来なかった」

「だっ、だから『グレン』として会いに来る事も出来なかった」


 そう言うと、王子は「ああ」と頷く。


「本当に、申し訳ないと思っている」


 チラチラとこちらの様子を窺う……なんて、私の知る『ゲーテ・グリーンアクア』ではあり得ない話だったけれど、ここまで人間らしい彼に、私は思わず「ふふ」と笑ってしまった。


「あの『エステル』という令嬢も修道院送りになりましたし、もう心配なさる事もないのでは?」


 ディーンにそう言われ、私は思わず「そうなの?」と聞き返す。


「ああ。あの令嬢の噂は俺の耳にも入っていたし、何より。この二人から忠告を受けていたからな」

「え」


 私は思わずディーンの方を向き「余計な事。言っていないでしょうね」と言わんばかりの『圧』をかける。


「元々、彼女の態度には恐怖にも似たモノを感じていたからな。それに、彼女とアンディを見てからなおさら危機感を感じていてな。ここ最近は彼女の様子をリュアに報告させていた」

「そして、調べた結果。あるお店を頻繁に利用している事を突き止めた……というワケです」


「じゃあ、そのお店が……」


 ――あの『アイテム』を取り扱っているお店って事?


「リュアには人間とエルフの間に生まれた親族がいる。元々そういった『毒』には耐性がある上に、魔法薬学の知識も豊富だった。そこでリュアにあの『クッキー』の事を調べてもらった」

「それで、解毒出来たんだ」

「調べたところによると、あの三人ないし四人は定期的に彼女から『クッキー』をもらっていたらしいからな。しかも、本人たちには『クッキーで有名なお店の新作』と言って渡していたらしい」

「え、それってつまり……あの子。お姉様を嵌めようとしていたって事?」

「!!」


 アーリアの言葉に私は正直「驚き」しかない。


「多分な」

「そんな……」


 いくら私が『悪役令嬢』としてイジメをしていないとは言え、さすがにここまでされるとは思いもしなかった。


「しかし、リュアが『コレに似た毒を見た事がある』と教えてくれた。それに、あれだけ光り輝いている食べ物は……やはり身構える」


 王子はそう言って苦笑いを浮かべる。


 ――ああ。言われて見ると確かに。


 それは私も何となく分かる様な気がした。


「ただ、今回の一件のおかげで商品を販売している逃げ出した貴族も捕まえる事も出来た。感謝する」


 そして、王子曰く主人公が連れ行かれた修道院は辺境の土地にあるため、私の前に現れる事はないとの事だ。


 ――よっ、良かった。


 私はそれを聞いて思わずホッと胸をなで下ろした。


「ただ、彼女に騙されていた彼らが色恋にうつつを抜かしていたのは事実だ。そこで、一度実家に戻り、これからについて話し合って方針を決めるらしい」


 そして、主人公もつい先日。修道院に送られたという報告を受けたそうだ。


「ただ、あまり大々的に公表するつもりはない。言ってしまえば、上位貴族たちのご子息たちの不祥事だからな」

「……ええ」


 それはそうだろう。


「そっ、それで……なんだが。これからは『グレン』としてではなく、私と……これまでと同じように仲良くしてくれると……ありがたいんだが」

「……」


 かなり緊張しているのか、王子との目線は泳いでいてなかなか合わない。しかし、その様子がとても……。


 ――本当は、可愛らしい方なのかも知れない。


「わっ、分かりました」

「ほっ、本当か!」


「はい。あ、でも」

「?」

「あともう少しで卒業になってしまいますが」

「そうだな。何か問題でもあるのか?」


「いえ、そうなると……殿下も色々とお忙しくなるのでは?」


 そう、ゲーム上では魔法学校を卒業した後。王子は国王の補佐としてこれまで以上に忙しい日々を送るはずだ。


「大丈夫だ。出来る限り時間は作るつもりだし、それに何より……」

「?」

「父も母も、カナリアに会うためならあまり文句も言わないはずだ」

「?」


 王子はグレンを彷彿とさせるような穏やかな笑顔でそう言ったけれど……私はいまひとつ分からず、首をかしげるのだった――。


◆  ◆   ◆   ◆  ◆


「――で、お姉様はその後。魔法の研究を続け、日常生活でも活かせる様々な商品を作り出し、女性の社会進出の後押しもしていき……国も栄えて最終的には子宝にも恵まれて生涯幸せに暮らしました……と、良かったわね」


 そう言いつつ一冊のアルバムの様なモノを手にしながらアーリアは近くにいる『人物』に声をかける。


「ええ。本当に……良かったです」


 アーリアの声に反応した『人物』はディーンで、穏やかな声でそれに応える。


「でも、あなたはそれで良かったの?」

「何がでしょう?」

「だって、あなた。あの子の事――」


 アーリアがそう言うと、その人物は「いいんです」と首を左右に振ってそれを否定する。


「私は『天使』で彼女は『人間』です。そこは変えられない事実です」

「あなたが納得しているのなら……それで良いけど。でも、本当であれば生まれ変わったら『悪役令嬢』だったはずなんでしょう?」

「それはあくまで彼女が前世でプレイしていた『ゲーム』内での話です。世界観こそソックリでしたが、彼女が見ていたのが紛れもない『真実』で『現実』です」

「……そうね。そもそもそこをはき違えてしまったから、あの『エステル』って子は、間違えてしまったのよね」


 そうして「生まれ変わったら『悪役令嬢』になった」はずの『カナリア・カーヴァンク』は自分の現状を受け止めて『悪役令嬢』にはならず、当初の目標通り「天寿を全う」する事が出来たのだ。


「私は、彼女が天寿を全うしてくれただけで満足です」


 ディーンは穏やかにそう言ってカナリアの生涯が記されたアルバムをアーリアから受け取り閉じると、他の生涯が記された人たちのアルバムが入っている本棚へとゆっくり戻し、立ち去ったのだった――。


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